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小さな教室から熱量あふれるプロを輩出したい

「小さな教室をひらく」教授 / 廣瀬祐子さん

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廣瀬祐子さんは、日本で初めてキャンドル専門教室をつくりキャンドル文化を根付かせた人物。キャンドルについての出版を検討するため2009年に「自分の本をつくる方法」を受講したのが自由大学との出会いです。講義を修了した時、廣瀬さんが選んだ道は「本をつくること」ではなく、自由大学の教授として「講義をつくること」。今回は「自分の本をつくる方法」の教授であり、当時運営として講義づくりを後押しした深井次郎さんが、現在の廣瀬さんの講義についてお話を伺いました。


 

「小さな教室」にみんな夢を探しに来る

深井 「小さな教室をひらく」も開講して早8年になりますね。卒業生のみなさんも、ご活躍されているのではないですか?

 

廣瀬 そうですね、6年前の1期生が開いた教室も、しっかり続いています。この講義から、お茶、パン、リース、フラワーアレンジメント、カルトナージュ… 思い出せないくらいたくさんの教室が生まれました。(※カルトナージュ…厚紙の箱に布や紙を貼り付けるフランスの伝統的な手芸)教室をひらく目的もさまざまなんです。「書道教室をひらきたい」といった受講生の作品を見た時に「本人が写し出された書だな」と思ったことがありましたが、この方は今、作家としても活躍されています。

 

深井 先生向きか、作家向きか。受講生の中でも先生になるだけでなく、作家を目指すパターンもあるんですね。教室をひらき、周囲から認知を受け自分のカラーを広げ、世に出ていく。

 

廣瀬 作家の場合はそれに加えて、売るのが「自分」か「作品」かという分岐もあります。教室をひらくことで、その後の人生をどう持っていきたいのかは大切なポイントです。最近の傾向としては「教えたい」よりも「場づくり」を目指す人が多いですね。「お酒を飲みながら生け花ができる空間をつくりたい」とか「所有しているアパートを “何かを教えたい人” に開放するために教室運営を学びに来た」とか。中には講義を受けたことで「実はやりたいのは教室ではなかった」と気づく人もいます。

 

深井 コミュニティの時代が反映されていますね。ちなみに受講生のボリュームゾーンはどんな志向の方なのでしょう?

 

廣瀬 夢を探しに来ている人。たとえば「華道の免状がある」「ワインに詳しい」だから「わたしにも“何か”ができるんじゃないか」と自由大学の講義を検索し、ここをみつけてくれた。

 

深井 それなら「自分の本」も一緒に選んでもいいものを、なんで出版講義には来ないのかなぁ、なんて(笑)

 

廣瀬 「教えたいけど書くことは苦手」って人、多いんですよ(笑)あと「教室」は振れ幅が大きいんです。

 

深井 カフェの片隅でひらく小さなワークショップから、少し大人数に向けたセミナーまでカバーできるというような?

 

廣瀬 そう、それだけこの講義には「自分の人生で“何か”をやってみたい」という漠然とした想いを抱えてくる人が多いですね。

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「全国各地にお花屋さんがあるように、あちこちにキャンドルスタジオがあればいいのになって思ったんです」「今は暮らしにキャンドルを取り入れる人がずいぶん増えましたね」

 

受講生が自覚していない「素敵なところ」に気づいてほしい

 

深井 廣瀬さんはもともとぼくがやってる講義の受講生だったわけですが、これって自由大学の特徴が出ていますよね。常に生徒と教授がフラットな関係。教わる側と教える側がテーマごとにいつでも入れ替わるんです。廣瀬さんは教えるだけでなく、それ以上によく学んでいて、自由大学の前身ともいえる “スクーリング・パッド”(現在は開講していません)にも通われていましたね。

 

廣瀬 レストランビジネスデザインコースに在籍していました。

 

深井 当時は、食に興味があったのでしたっけ?

 

廣瀬 いいえ、それが違うんです。キャンドルを広める方法を模索していた時に「レストランなら空間演出に提案できる!」と思ったんです。だからレストラン業に携わる人の考え方を知りたくて。

 

深井 廣瀬さんは今の日本のキャンドル文化をつくった先駆者ですもんね。多くの関係者がそう言っています。

 

廣瀬 自分が始めた時「国内にやっている人がいなかった」という意味では、そう言えるかもしれません。

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廣瀬さんの2008年の作品。綺麗な色遣いが印象的。

深井 キャンドルに興味を持ったきっかけについて、少しお話を。

 

廣瀬 アイルランドを訪れた時、ガーデンへ抜けるレンガづくりの暗い通路の途中にキャンドルがポンと1つ灯されていました。不思議なことにどの道を通っても、なぜかそのキャンドルと出会ってしまう。そこに心が留まりましたね。
…余談ですが、私が本当に好きなのは「蝋(ろう)」なんです。生きていくためにはすべての物に油が必要とされます。植物にもエッセンシャルオイルの原料になる油が、人間にも 脂肪という油が存在していますよね? キャンドルの素材となる蝋(ワックス)は石油素材を精製したものです。安全な素材で安心して使えるキャンドルが、街角の花屋さんのようにあちこちに広がっていけば良いなと思い教室をつくり、日本キャンドル・ハンドクラフト協会を立ち上げました。
加えて当時、女性の生き方にも関心があって。結婚・出産などでキャリア形成が難しい女性でも、小さなスペースから始められるキャンドルスタジオであれば生業にできるぞと。

 

深井 まさに「小さな教室」ですね。

 

廣瀬 そうですね。とにかくキャンドルの普及についてできることはすべてやったはずだったのに、本は出していなかったんです。出版のお話は過去3度ほどいただいたのですが、何かが噛み合わなかった。

 

深井 それで「自分の本」を受講した廣瀬さんなのに、ぼくは本づくりではなく講義づくりを勧めてしまった、と(笑)

 

廣瀬 最終日の講義で出版企画書をプレゼンしたら、深井さんは「もしかして、廣瀬さんは本を出したいわけではないのでは?」って。 あ、そうだったのかも、と言い当てられた感じがしました(笑)

 

深井 廣瀬さんはすでにキャンドルスタジオの教室を運営されていて、収益もあげている。組織運営もメソッドづくりにも長けていた。そして何よりも他人を引き立てる力がありました。協会を立ち上げたのも、セルフブランディングが得意でない人に「お墨付き」をあげられるような仕組みをつくりたかったからですよね? それら廣瀬さんのノウハウは「創設されてまもないわれら自由大学も学んだ方がいいぞ!」と思ったくらいでした。ちなみに長年続けられたこの講義にはどんなこだわりがありますか?

 

廣瀬 「書道を教えます」「ワインを教えます」だけの教室づくりはしないこと。キュレーターの花村えみさんの言葉を借りるなら「その人の血肉の言葉を伝える教室をつくってもらう」点にこだわっています。プラスαで、お互いのよいところに「気づかせるスイッチ」をこっそり押す。

 

深井 本人が認識している「得意分野」を活かすだけではなく、教授キュレーターからはもちろん、受講生同士のフィードバックにより客観的な良さを知ることもできる講義なんですよね。

 

廣瀬 先生になるためには、生徒の良さを見つけて伸ばせるようにならないといけない。世の中で突出している人は、「他人のことを考えられる人」ですから。それに誰かに言われてやるよりも、自発的に自分がみつけたことの方が推し進めるエネルギーが沸きますから、わたしが仕掛けていると気付かれないよう、こっそり、スイッチを押します。

 

深井 まわりを活かすことが得意な廣瀬さんらしいです。ぼくも講義では「本」だけにこだわるのではなく、廣瀬さんに教授になることを勧めたように、その人らしさを活かせる何かをみつけるお手伝いをしたり、合いそうな人同士をつないだりできるように意識しています。

 

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「プロとして生きて、社会に貢献する方法があなたにもある」

 

発信する側は“時代”を常に意識するべき

 

廣瀬 あと、学びは時代の流れに合ったものを提供できないと意味がないから、休みなく続けるというよりは、時に講義内容を見直しながらここまできました。…実は今もちょうど新しくしようと思っているんです。自由な生き方や働き方について、今、世の中全体が考え始めている。でも自由が「実は少しも楽なことではない」と気づいている人も増えつつあるので。さらに言えば「大変だ」と分かった上でも、自由を選ぶ人がいる。

 

深井 大変でも自由に生きる。そのひとつの手段として「小さな教室」に学びにくる人がいるから、講義内容も変わっていかなくてはいけないと。複業があたりまえになったり、価値観が多様化する中で、これから「小さな教室」をひらきたい人はますます増えていくでしょう。講義を通して伝えている一番大切なメッセージはどんなことですか?

廣瀬 プロとして生きて、社会に貢献する方法があなたにもあるじゃない!と伝えたい。今ある自分とは違う「未来」をつくり出す気持ちや覚悟・熱量を持つ人を、ここから送り出したい。プロとは、出会える偶然一つひとつを確実に手に入れる人のことだと思うんです。

深井 熱量ですね。必ずモノにするという熱量。

 

廣瀬 そう。瞬間、瞬間を真剣勝負で生き、思いがけず偶然訪れたチャンスも確実にモノにして、それを重ねて偶然を当たり前に「必然」にできる。その覚悟と熱量があるのがプロだと思っています。

 

深井 とても共感します。著者になれる人も同じで、書くのが上手い下手って実はあまり関係ありません。「どうしても伝えなければならない」「自分以外に誰がやる」という切実さ、熱量の差だなぁとこの自由大学から生まれた数々の著者たちを見るたび思います。

本日はありがとうございました! 今後、廣瀬さんの講義がどんな進化を遂げるのか楽しみです。

 

 

担当講義:小さな教室をひらく

文:川口裕子 編集、写真:ORDINARY



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