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前編にひき続き、代官山にある吉田さんのカフェ「私立珈琲小学校」にて。珈琲の香り漂う中、学びと学校について話はさらに熱く盛り上がります。

メンバー

吉田恒さん(カフェ「私立珈琲小学校」担任 / 元国立・公立小学校教員)
ナンシーさん(国立大学 博士課程教育リーディングプログラム メンター)
窪木奈美さん(中高一貫校教師)
自由大学クリエイティブチーム



クリエイティブチーム(以下CT)

オーガニゼーションラーニングはどうですか。「組織として学ぶ姿勢のある企業は業績がいい」という研究結果もあります。ただ人を追い立てて働かせるだけではなく、社内の人間が新しいことを学ぶことを許されるような環境を提供している会社が伸びていくモデルです。人は学べると嬉しいじゃないですか、新しい見識を持てることは喜びです。日本だと出る杭は打たれるところがあるけれど、どんどん学んでいいよという環境がスパイラルになって、組織が進化していく感じです。自由大学はそれに似ているのかもしれないですね。

教えるのが好きな人は説明したがるでしょう。こういうことなんだよと自分の意見を言いたい、でもそういうあり方は自由大学らしくないからそれはやらないように仕向けています。自由大学らしさというのも、クリエイティブチームとしても学びながら運営しているんです。そうやってきて今7年目だけれど、ちょっとずつ変わってきています。

ナンシーさん(以下N)

感覚的ですよね、自由大学らしさって、既存の大学にはない、五感を使わせられるような気がするんです。五感をフルに働かせて自分を探求していて、ずっと後に、ある瞬間「はっ!」とつかめるような、そういう学び方ですね。

CT

五感を含めた統合された学びを支持したいので、あまり言語化したくない。感想を聞くと受講生ごとにバラバラなことを言うのが面白いですね。

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小学校教諭の経験から子どもの学びについて語る吉田さん

吉田恒さん(以下Y) 

みんなバラバラでいいはずですよね、意見なんて。文科省は以前「新学力観」というのを打ち出しているんですが、それ自体はいいものなんだけど、教育現場にたどり着いたら、「これをやるべき」になってしまうんです。みんな「大造爺さんと雁」を教材にするけれど、それがいいなんて文科省が言っているわけではない。指導要領を読み取れたら、これじゃなくてもいい。いま一番教員がやりたくない仕事が教材研究と言われています。学校事務だの、親の対応だので多忙だから。若い教員はそれを苦痛だと感じているんですよ。本来教師は、「自分たちが研究したものを子どもたちがどう感じるか」ということに最も興味関心があるべきなのに。

文科省の指導要領はなかなか良く考えてあります。教育で最重要なのは、「意欲関心と態度」。子どもの中にある何かしたい気持ち、意欲こそが最重要だと言っているんです。意欲が生きる力につながっていくんです。やりたいことがあって、それを実現するために必要な道具が、知識や技能だと、ちゃんと言っているんです。そういう点は自由大学とリンクしていると思います。

文科省の肝いりで新しいことをやっているパイロット校もありますが、そこで試したことは、普通の学校には伝播しない。本当に理解しないで、トップダウンでやっても定着しないんです。学びの質を変えていくのはボトムアップしかない、現場から上にニーズがいかないと。

ゆとり教育がスタートしたとき、民間校長を採用した学校がありましたね。答えの出ない討論をさせたりした。子どもたちに、「殺人が許されるか」を徹底的に議論させたんです。子どもたちの議論を横で聞いていると、話す前と後でそれぞれの意見が変わるのが面白いんです。ゆとり教育の時はそういう流れがあったんですが、揺り戻しというか、今は「100マス計算の方が大事だろう」という世界に戻ってしまったようです。


CT

今の時代の学びの形式が何かをクリアする、ゲットするため、すぐ使える技術を求めがちですが、そうじゃないと気づく流れは来ているんでしょうか。

 

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窪木さんは留学中のカナダでの学び事情について言及

窪木奈美さん(以下K)

高校生になると、学びは受験対策が先行してしまいます。現場では、中高一貫でも中3で高校レベルの授業をして、知識の先取りがメインの方針でした。そういう中高大と学んできた子たちが、正解のない社会に出て困り、生きるための気づきを得たくて通っているのが自由大学なのではないかと。本当は思春期に得るような自主的な学びとか気づきを求めてきているのではないかと思います。だからニーズがあるし、今の時代にマッチしている。

カナダの場合は移民社会で、子どもの語学力の差が大きいので、知識においては柔軟なプログラムが用意されていると聞きました。日本では人を見るのに職業にこだわるけれど、こちらではフットワークが軽くて、それまでないようなサービスをネットで作って仕事にするなんてことも頻繁です。生涯教育って自由大学に通じるけれど、仕事を終わってから3時とか4時から大学にいくのは普通の大人のライフスタイルですし、「社会に出てもやり直しがきく」というのを重視している社会だなと感じます。

ナンシーさん(以下N)

欧米では子どもを子ども扱いしないで、ひとりの人格として責任を持たせる教育をしている気がしますね。日本には優秀な学生でも、お母さんがいないと生きていけない子がいるんですから。ちゃんとスリッパ揃えてね、と言いたくなりますね。躾は小学校の時には家庭でも学校でも最低限のインプットは必要ですよ。学業とは別に躾に関しても連携できないんですかね、小、中、高、大学、生涯教育とかで。

Y 

生活指導は「4月の新学期に気持ちよくスタートするために、どうしたらいい?」「やっぱりあいさつって大切だよね」という流れで言うならわかりますが、頭から「あいさつ」が義務としてあるのは違うと思う。どうしてあいさつするのか、わからない子どもがいたら、その子とちゃんと話し合って、その子どもの実感や体感を通して、行動させないと。そういう考えるきっかけをいくつ仕掛けられるかが勝負なんです。

教師の一番大事な仕事は、「この子は何を元にして物事を考える子なのかを見極めること」だと思います。何か違和感のある事実を提示したときに、ものすごく考える子だと思ったら、事実を示して、「気づいたことをノートに書いてごらん」と勧める。その子から授業を始めることもあります。話し合う時は、席をコの字型にして、「何か意見を言う時は先生を見るな、みんなに話しているんだから、みんなを見て話しなさい」と指導します。教師は討論の外にいて、どんな子が何を言ったかをメモしながら、見守ったり、流れを作る。子どもによっては書くより話す方が得意だったら、それを引き出そうとするとか。

CT: 先生はファシリテーションをしているんですね。

Y

子どもが迷っているときにも、その子の詳細な資料があって、意欲の持ち方とか考え方、判断の仕方を把握していれば、適切なタイミングで「大丈夫だよ」と言ってあげられる。それぞれの内面を把握していれば、他の誰かが日記にこう書いていたからねとか、伝えることもできます。初等教育の教員がすべき仕事は、そういうことです。

N

私は、学生が参加している講義に出ているんです。普段の学生の発言を観察しておいて、その学生の価値観をストックし、いざ相談に来たときに3か月前のその学生の使っていた言葉から、個人をキュレーションする感覚です。キュレーション学がここでも役立っていますね。押し付けないで、それぞれに適切なアドバイスができる。キャリア教育は就職だけじゃなくて、生き方を考えること。個々の学生が生きる上でのコンフォートゾーンを探るイメージでしょうか。

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日本の教育は転換期に来ているのか、学びはこの先どこへ向かうのか?

CT

考えるためには、知識も最低限のレベルは必要ですよね。

Y

小学校では、職員室で必ずその話題になります。基礎基本とはなにか。いわゆる「読み書きソロバン」は根強い。ただ、僕らの考えは「基礎基本はその子の中にある」。その子の意欲の持ち方、学び方や考え方の志向性があるということです。友達と話して学ぶのが好きなら、読み書きもそれに合わせて指導したい。単なる技術としての読み書きソロバンではなくて、生涯生きていくため。学ぶための基礎基本はその子の中にあるのです。その子が何が好きなのか、どういうときに意欲を持つのか、どんな時に伸びるのか、その子の考えを磨いたり、大きくしたりできるのかを探りながら、どこに向かって授業を組み立てるかを考えるのが教師の役割だと考えています。

N

日本には教えたがりの先生が多すぎるんでしょうね。本来「education」は「引き出す」という意味なのですが。学生の資質を引き出して育てることのはずが、教えて育てると翻訳を間違った。

Y

日本の教育は動かしやすい組織を作る教育、または騙されないようにとか、証文を間違えないようにとか。識字率が高いのはそういうことだし、ルーツはそちらにありますね。組織を支えるための教育でしたが、メリットとデメリットがあります。識字率は高いけれど、自分の考えをもつことは訓練できていない。それをわかったうえで、次の段階を模索しないと。私塾しかないのかもな、本気で教育改革をしたいなら。

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「単なる技術としての読み書きソロバンではなくて、生涯生きていくため。学ぶための基礎基本はその子の中にある」みんな真剣な表情


CT

みなさん忌憚ないご意見をありがとうございました、最後にまとめのコメントをお願いします。

N

ソフトスキルとハードスキルってありますね、もっともソフトなピープルスキル、人間力を磨きましょうということでは学校教育よりも企業教育のほうが進んでいるのかなという印象です。アメリカの大企業でもグーグルとかフェイスブックの成功を見ても、これからはソフトスキル系が大事だってことが浸透してくるでしょう。でもそれが既存の教育システムにないなら、リフレクト(自分と向き合い考える)ができる場として自由大学のような場があるといいと思います。

Y

自由大学の面白さは、考えることの大切さ、すぐ言語化できないあの感じですね。なんだかよくわからない、なんだろう?と思うことから、考えるきっかけをもつ。講義で鼻先に突き付けられた事実に向き合い、消化できずに考え始めること。まず事実があってそこに感じる違和感から自分の考えを探る学びは、圧倒的に優れていると思います。教授のセレクションや、教授が提供する講義内容が凄くて、受講したら考えざるを得なくなるというキュレーションが、自由大学の真骨頂じゃないでしょうか。石巻でもポートランドでも自分が生徒として感じたことですが、学ぶ人にどういう事実をぶつけ、疑問をもたせて、それぞれの解決に向かわせるか、それが大事です。

K

私も夏にポートランドキャンプに参加して、いろんな出会いがあったことに驚きました。フレキシブルで、化学反応を大事にしていて、しかも正解のない学びを提供する。人間関係を大事にしていくのが良さだと感じましたし、これからの日本の教育にとって大事なことがここにはあるなと思います。今は知識重視の教育に重点が置かれていますが、答えの出ない疑問を見つけることを、もっと大事にすべきだと思います。

N

自由大学はアンラーニングできる場だなというイメージです。すでに学んでことを解きほぐすというか、あるところで自分の価値観を疑うきっかけになります。価値観が崩壊することもあるかもしれないけど、そうしたら再構築すればいいこと。大人が学び続けるってそういうことですよね。それによって強みが再認識できたり、自分のポテンシャルが見えたりするんです。

CT

普段出会えない衝撃を受けに来てほしいですね。自由大学の学びは、同じ興味で出会って、全然背景が違う人と対話し、新しい社会とのつながりとか世界が見えてきて、それぞれが自分なりの疑問をもつ、ということを目指しています。今日はみなさんと対話できて意見を深められてよかったです。ありがとうございました。

 


吉田恒

私立珈琲小学校担任 。元国立・公立小学校教員を21年続けたが、自分が思う教員の仕事と現状の解離に悩み、カフェ店主に転身。理想の店について考察するにあたり、自由大学のクリエイティブ都市学、ポートランドクリエイティブキャンプに参加、刺激的で最高の夏を経験する。


ナンシー

国立大学 博士課程教育リーディングプログラム メンター。4年前に自由大学のキュレーション講座を受講、講義のスタイルに感銘を受ける。ナンシーと名乗るが生粋の日本人。レクチャープランニングコンテストにも出場、経済の講義を企画している。外資系投資銀行出身。イギリスに2度留学。2度目は夫と子供を連れた家族留学、経営教育学修士を取得し、人材教育、オーガニゼーションラニングに興味をもつ。


窪木奈美

私学の中高一貫校の教員。震災以降は、これからの日本の社会を作っていく子どもたちにいい影響を与えるにはどうしたらいいか模索しながら教鞭をとる。30代になり、自分自身に磨きをかけたい、学びたいと思い2016年の4月から休職、カナダのトロントに留学中。


 

 

(撮影・取材・テキスト:ORDINARY



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