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五味惠|FLY_043

自由大学をきっかけに2年越しの夢を実現したカフェオーナー

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ひとつひとつこだわったマシンや道具が揃うカフェカウンター

五味さんは自由大学の講義「カフェ学」の第一期OBでいち早くお店を出したホープ。今回お話を伺った五味さんのカフェ「CAFE D-13」は、東福生駅から徒歩数分、米軍基地のゲートのすぐ近くのアメリカンハウスを改装したというもの。クラシックな外観から内部の隅々までオーナーのカフェ哲学が感じられます。居心地のいい空間、豆にも道具にもこだわったとびきりおいしコーヒー、ご近所の方がワンちゃん連れで遊びに来たり…ついつい長居してしまうステキな場所です。

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お店正面、前庭にもくつろげる気持ちのいい席あり

Q:アメリカンハウスでカフェを始められた理由はどんなことですか?

「さまざまな人があつまり、ゆっくりくつろげる場にしたいこともあって、趣のある物件を探したところ、福生の米軍基地ゲート近くにある米軍関係者のための住宅、いわゆるアメリカンハウスとの出会いがありました。米軍ハウスはクラシックな風合いにファンが多いですが、幸運にも店舗として使える物件を紹介してもらい一目ぼれです。居心地のよい空間でゆっくりコーヒーを楽しんでもらいたいというのはもちろんですが、お子さんや犬と一緒でも安心して楽しんでもらいたいという気持ちもありました。

ドッグカフェではなくても、カフェに犬と一緒に入れるお店が増えるといいなと思っているんです。もちろん飼い主にマナーがあって犬も落ち着いて過ごせるのが前提ですけれど。普段となりの席の人と話したりってあんまりないと思うんです。でも、一杯のコーヒーがあったり、横に犬がいたりすると自然と会話のきっかけになるというか。コミュニケーションの触媒になってくれるように感じていて、そういうのが素敵だなって。そう思うのは、自分たちがずっと犬と暮らしていることもありますが、僕の前職が獣医だってこととも関係あります。」

 

Q:獣医さんだったんですか!でもどうしてカフェ店主に転身されたんでしょう。

「小さい頃、飼っていた犬が僕が目を離した隙に交通事故にあってしまいました。その時の獣医さんが『大丈夫、大丈夫』って犬を治療してくれて、カッコいいなあと子ども心に感動したのがきっかけでした。実家は代々薬局を営み、親戚も医療系の仕事についている人が多かったこともあり、家族も夢を応援してくれまして。

念願の獣医になってからは9年間動物病院に勤務していました。僕を信頼してくれる飼い主さんも多く、とてもやりがいもあったのですが、夜勤や救急もこなさなければならない多忙な生活に疲れてしまったんですね。働くってなんだろう、こういう働き方をいつまで続けていられるのだろう…自分をすり減らすような働き方をしているように感じてしまい、病院を辞めました。

35歳くらいって生き方を考え直す最後のチャンスって時期でもあるでしょう。他の獣医師のように開業して病院を持つという道もありましたが、働くことについて少し考えてみようと思い、猶予時間を持つことにしたんです。」

 

Q.ご家族の反応はどうでしたか?

「妻は同業者であっけらかんとしたタイプなんですよ。失敗しても死ぬわけじゃないからやりたいことをやった方がいいという意見で、ほぼ同時期に、前からやりたかったドックトレーナーの学校に通い始め、夫婦でフリーになってしまいました。幸い資格を持っているので、いつでも働けるし、究極生活には困らないだろうという見通しがありましたし。僕の親はけっこう心配していたようです。逆に妻の両親は応援してくれて、そこが一番心配だったので、ほっとしました。」

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コーヒーの他、ホームメイドの焼き菓子やカレーの評判も上々

 

「やりたいことをやっていい」と気づいた自由大学との出会い

Q. 自由大学との出会いはその時期ですか?

「次のアクションを模索していたとき、SNSで知った自由大学のアメーバワークスタイルに興味をもちました。自由な働き方を学ぼうという仲間は、卒業後は世界に旅に出たり、会社員のまま副業を始めたり、地方へ移住したり。知り合った人達はみんな発想が柔軟で自由でした。仕事を辞めたってなかなか人には言えないもんですが、ここでは勤めを辞めて自分のやりたいことをやるんだ、と堂々と言っていいんです。そうか、やりたいことをやっていいんだと初めて心から思えました。講義の最後にそれぞれ目標を発表するんですが、僕はずっとコーヒーが好きで、いつかカフェがやりたかったので、人がゆるく集まってくつろいだり、仲良くなれるような場を作りたいと宣言しました。

目標はできたので、準備を始めたのですが、アルバイトを掛け持ちしながら、伊藤洋志さんの本『ナリワイをつくる』に影響されて、小さなビジネスを試したりしていました。現在も並行して行っていますが、獣医師の経験を生かした犬用おやつのお店を立ち上げ、自宅前にスタンドを作り販売したり、定期的にマーケットなどに出店しながら、次の段階へ行くきっかけをさぐっていました。」

 

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白壁を這うツタの割合にも実はこだわりがあるんだとか。

 

カフェ業界の大先輩が手とり足とり

Q. さらに「カフェ学」を受講されたきっかけはどんなことですか。

「調度タイミングの良い時期にカフェ学の募集があったんですよ。教授陣もカフェ業界のとんがったメンバーでこれは受講しなくてはと思いました。講義内容は『数値化できない感性を養い、カフェの心技体を学ぶ』ということで、コーヒービジネスの経営的な視点じゃなくて、コーヒーを媒介にした場・カフェを多角的に学び、作ることだっていう趣旨。僕もずっとそういう場作りがしたいと思っていたんですけど、一般的じゃないのかな、食べていけないかなってちょっと自信がなかった。でも講義ですごい先輩たちの話を聞いたら、まっすぐやりたいようにやって、ちゃんとビジネスになっているじゃないか、それでいいんだ!と思えて、嬉しかったなあ。カフェ学の講義は『カフェとは何か』という哲学の部分はもちろん、第一線のカフェ経営者から実践的なコーヒーの扱いや現在のコーヒーシーンも学べるというものでした。」

 

Q.受講してよかったなと思うことはどんな点でしょう。

「コーヒーの理論というか、豆の扱いやひき方や湯温、測れるものはすべて測り、すべてきっちり数値で教えてもらえるなんて驚きました。その通りできれば味の再現ができるはず、というのがもう感激で。そういうのって背中を見て学べ、みたいなことかと思ったので、ずっと理系できた僕としては実験みたいでとても楽しかったし、わかりやすくて助かりました。

オニバスコーヒーの坂尾篤史さんには、コーヒーの淹れ方だけじゃなくて、コーヒーの仕入れのお願いから、開店時にカフェ道具や店舗についてのアドバイスもいただき、すごく感謝しています。先生といえば私立珈琲小学校の吉田先生にも『お互い前職が先生だから同じだね』みたいな励ましの言葉をいただいて、いろいろ相談に乗っていただいたり。コーヒー業界はオープンな方が多くて『僕の知っていることならなんでも教えるよ!』と言ってくださる方が多くて本当にたくさんの方に助けていただきました。

カフェをやりたいと思うようになってから、2年くらいリサーチをしたりと紆余曲折を経ましたが、ここまで思い通りのカフェが作れたのは、カフェ学でのつながりのおかげです。先輩たちもですが、自由大学で知り合った仲間もみんなが自分のことみたいに励ましてくれて、親身に力を貸してくれたことにも、もう感謝しかないですよ。」

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窓やペンダントライト、床などはほとんど手を加えていない雰囲気のある内装

 

Q. 講義を受けて自分が変化したな、と思うことはどんなことですか。

「自由大学の仲間は、カフェ学もアメーバワークスタイルでも、僕がついにカフェを出すというので、壁塗りに来てくれたり、知り合いを紹介してくれたりと何かと手を貸してくれました。

 

僕は自分のことをずっと内向的でチームワークは得意じゃないと思っていたのですが、いろんな人と知り合って講義の内外で話したりする中でも、さらに実際にカフェを開く過程でも、人と協働したり、集うことの楽しさに目覚めました。今は、いろんな人とつながっていくことに喜びを感じています。ある意味、カフェの夢を実現するための出会いや経験を通して、僕は獣医時代よりさらに社会化されたという気がしています。」

 

Q. 最後にこれからの野望を教えてください。

「獣医も飼い主さんとコミュニケーションをとるのが大事な仕事ですが、カフェ店主はもっと踏み込んで、自分の世界に人を招きいれる仕事です。こだわって心底いいと思って作ったカフェに人が来てくれて『いいねえ』と言ってもらえるって、なんて幸せなんだろうかと思います。まだカフェをオープンしてひと月にもならないけれど、地域の人たちをつなぐ場として、ずっとやっていけるといいなあと思っています。」

(撮影、取材・構成:ORDINARY

FLY(フライ)は、自由大学の卒業生が登場するインタビューコーナー。自由大学に通い、新しく見つけた自分の姿。卒業して、踏み出した一歩は小さくても確かな手応えをもって、新しい日常の扉を押し広げます。卒業生が体験した、自分らしい転換期の話をお届けします。



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