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ポートランドで學んでいる、もっと自由なやり方【その2】

夏の特別プログラム「CREATIVE CAMP in ポートランド」の背景に迫る

前回の【その1】では、自由大学がポートランドに注目する理由について自由大学学長でCreative Camp in Portlandのキュレーター岡島さんに伺いましたが、今回は実際のキャンプの様子をさらにお話しいただきました。

岡島悦代

 

まず個人が行動を起こし、行政がフォローする
今年で4年目になるCreative Camp in Portlandにはすでに100人近くの受講生が参加しています。初めはデザインなどクリエイティブ系の仕事をしている人が多かったのですが、最近は教育や行政など公共性の高い仕事をしている人が増えてきているそうです。

「ルールをつくるのが好きな人たちは、ポートランドが住みやすいまちづくりに成功の理由を政策に求めているようですね。確かに一理ありますが、それが全てではないと思います。ポートランドでは個人が行動し、それに行政が触発されるというパターンが多いようです。日本にあるような行政=御上って感覚ではないんですよね。社会が年齢や性別、条件に関わらずフェアじゃなくてはいけないというリベラルな前提があって、そういう社会をキープするために、何か問題を自覚したら、自分のコミュニティのために立ち上がる。行動までのハードルが低いのでしょうね。

ある参加者が街の人に『社会に問題意識を持っていますか』という質問をしたのですが『問題にする前に、自分でコミットできることをしたらどう?』と指摘されてしまいました。ポートランド研究の本はいろいろ出ていますが、現地に行って地元の人と触れ合うと肚落ちします。無意識にソーシャルな動きをしている人たちが作る空気を吸うことが何よりの学習だと思います。空気もおいしい、食べ物もおいしい、刺激的なカルチャーにあふれていて、数日いるだけで五感が満たされ、生きる力が沸いてくる。滞在するとそれだけどんどん楽しくなってくる、すると人はチャレンジしたくなり、クリエイティブな感覚が揺り動かされるようになるんです。

空気を読んではみ出さないように生きている日本人が、自分の感覚を最優先するような真逆な方向性にショックを受けて、抑制のフタがポンと外れる感じ。そういう急速な自己解放のためには、キャンプのプログラムを決めすぎないこと、それぞれの偶然の出会いを大切に、経験して感じたことをすぐ他人とシェアできるように組み立てています。参加して『あー面白かった』 と思うことができたら、それが自分の生き方を深く考えるきっかけになるんです。」

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The Placeにてまちづくりのワークショップを英語でやり切りました。

カリキュラムは決めすぎない
Creative Camp in Portlandの朝は、フィードバックから始まります。午前中は主にグループディスカッションで前日の体験や考えたことをそれぞれがアウトプットする大事な時間。アーティスティックなアイデア、新しい経験、感動したことを語り合うことは、一人旅ではなかなかできないキャンプならではの學びです。午後はキャンプのスタッフが設定した人やスタジオ、会社を訪問する時間になります。その後16時にはフリーになるので、各自が自分で考えていたプランを実行したり、カフェで交流したり、街を歩き回ったりと、自由にポートランドを満喫する時間をすごせる組み立てになっているそうです。

「細かい日程、カリキュラムはありませんが、訪問先は毎回厳選しています。昨年まではポートランドの芸術大学PNCA(PACIFIC NORTHWEST COLLEGE OF ART )でのアートワークが定番でしたが、今年からはむしろ働き方、農業、クラフトマンシップに注目した内容になっています。近年ポートランドには全米から新しい企業や起業家が集まってきています。そういったポートランドブランドに惹かれてきた新勢力はもちろん、元々ここで仕事を始めた人たちにはぜひ会ってほしいというのはありますね。古参の事業者が新しい人たちを受け入れ、うまく融合して新しい価値を生んでいる、懐の深さがまた魅力です。 例えばAceHotelですが、古いビルをリノベ―ションしてホテルを開業しています。今やNYやLA、ロンドンなどに展開する人気ホテルですが、元々は自分たちが欲しい場所を作ろうというところから始まっています。まだポートランドが注目を集める前、再生が始まったころに街に来た人たち。Emily KatzやOMFGCO、Publication studioなどもAceHotelという拠点がなければ育たなかった、というまさにポートランドのシンボル的なホテルです。

ポートランダーはなんでもDIY精神で自分たちのできる範囲内でやろうという気風ですが、注目度が上がり、ブランド化している中、ここ4年で事業規模拡大の機運も出てきています。ただしそれもここ流なのが面白いところ。スタンプタウンコーヒーというサードウエーブコーヒームーブメントを牽引したローカルなコーヒーショップがあるのですが、最近全米大手のピーツコーヒーに買収されました。ですが、スタンプタウンのスタイルはそのまま、均質化したサービスを提供するフランチャイズ展開とは別に芯のある街のコーヒー屋の価値が両立しています。大企業もポートランドでは効率よりスタイルを重視する。企業経営にも両極の経営方針を両立し、管理主義より多様性という波が来ています。

個性的なお店が多いのもポートランド。 WILDFANGというフェミニストをコンセプトにしたショップも面白い。ボーイッシュなテイストの服や、メッセージTシャツ、ヒラリーの選挙グッズまで売っているんですけれど、特に主張のない人も普通に洋服などを買いに来ているんです。フェミニンな要素は男性にもあるということで、男性有名人のフェミニストランキングを作ってみたり、ユニセックスとは異なる価値観を打ち出してビジネスを展開しています。ポートランドはLGBTQフレンドリーで、多様な主義主張の人が普通に暮している感じがよくわかります。

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毎年恒例、スクールバスに乗ってNIKE本社へ行きました。

今回はPSU(Portland State University)のドミトリーに滞在しました。アメリカには日本学という学問があります。ハーバード大学の日本研究所が本拠地ですが、最近ではPSUに研究者が集まって来ているそうです。PSUの日本研究センターの所長で大佛次郎賞を受賞したケネス・ルオフ教授とは、日本の教育や社会制度、外交について意見を交わしました。また、漫画を研究しているジョン・ホルト助教授のレクチャーは、日本の少年漫画はクエスト文学だけれど、少女漫画は自己探求でアブストラクトなアートだという視点が面白かったです。漫画から『空気を読む』という日本の感覚が學べるとも仰っていました。日本学を學んでいる学生からは、石川啄木のセンスはとてもピュアだと言われ、『一握の砂』中にある歌を諳んじてくれて日本人だと気が付かないような、意外な意見に触発されました。

他にも大資本をバックに進出してきたNY発のシェアオフィスチェーンWEWORKなどは、起業家が集まるところに目をつけて、古い税関ビルをリノベ―ションして新たな方法で才能を集める場をつくっており、大企業で働くとは異なる動きを目の当たりにしました。今年から、自由大学でもこの施設の中にオフィスを構えることにしています。」

 

動いてみるとわかることがある
航空券も宿も自己調達、現地集合現地解散、訪問先しか決まっていないというワイルド企画にもかかわらず、毎回満席なのは、最大2週間滞在し、ポートランドの魅力を存分に味わえるから、その後の人生を変えるような刺激的な体験ができるから、なのでしょう。

「日本人はもっと海外に出て、場所を変えて自分の状況を俯瞰してみることは定期的にやったほうがいい。いろんな人種の人と触れ合うことで、日本人としての自分が客観的に見えてきます。私とあなたは違う、異文化の人とのコミュニケーションは前提を擦り合わせるところから始まるものですし、それは大事なセンスです。でもポートランドではさらに上を行く感じ。人種や国籍、肩書も取り払い、いきなり個人として何を大切に生きているかを問われる社会、ほんの1週間か2週間ですが、丸裸にされてしまう感じですね。

若いうちは失敗も財産といいますが、アメリカ社会は失敗が勲章なんですよね。失敗したんだ、チャレンジャーだね、またがんばれ、みたいな。チャレンジしたことが評価されるように日本の空気を変えていきたいですね。失敗してはいけないというプレッシャーを外してしまえると、人生は楽しい。もやもやしているなら、ポートランドに行こうよ、と思います。何もしないと何も起こらないんです。”Don’t settle down!“スティーブ・ジョブスの言う通り、まずは行動、ポートランドへ行って、ハプニングを楽しみ、大いに心をグラつかせ、自分に揺さぶりをかけましょう。」

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2014年に出版された、岡島さんが現地取材に携わったポートランドの本「TRUE PORTLAND」にはこだわりの情報がぎっしり。

(テキスト・撮影:ORDINARY

Creative Camp in Portland 2016 from Shiori Saito on Vimeo.



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