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ポートランドで學んでいる、もっと自由なやり方【その1】

夏の特別プログラム「CREATIVE CAMP in ポートランド」の背景に迫る

自由大学では、2012年からポートランドに注目したプログラムをリリースしてきました。「CREATIVE CAMP in ポートランド」は今年で4年目になりますが、すでに5回のポートランドでの実施プログラムも行っています。初回から5回すべてに参加し、ポートランド関係の講義のキュレーションも務める自由大学学長の岡島悦代さんにこれまでの関わり、今後の展開について伺います。

岡島悦代

この7月に代官山にオープンしたカフェ「私立珈琲小学校」にて。オーナーもポートランドに縁が深い。

ポートランドは今でこそブームで人気がありますが、自由大学ファウンダーでもある黒崎輝男氏は30年も前から何度も通い、街の動向に注目していました。

「街に滞在していると、政治や会社などの組織主導ではなく、個人が活力を持っていて、人のエネルギーが街を回している感覚、人と人の出会いから、それまでにない新しいモノが生まれる面白さに魅了されます。こんなにみんなが自由にイキイキと暮らせる状況は、どういうことから生まれるのだろうか、自由大学がこのクリエイティブ都市から學ぶべきことはたくさんあるのではないか。そういうことから2012年2月に『クリエイティブ都市学』という講義を立ち上げることになったのです。」

自由大学が共感するクリエイティブな都市
アメリカの社会学者、リチャード・フロリダ氏の書籍『クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める』によると、お金が第一の動機ではなく、自分の創造性を発揮できる環境を見つけて経済活動をし、生活も心身ともに健康な人生を構築しようとする人たちをクリエイティブクラスと定義。こういった従来のエリート層とは異なる人たちが世の中をリードするようになるという説。

「ポートランドはそういう人が選ぶような場所なんです。農産物で有名なオレゴン州にあり、自然が豊かでのんびりした田舎。2008年のリーマンショック以降、そうしたクオリティ・オブ・ライフを求めて移り住む人たちに拍車がかかった。70年代はヒッピー、90年代はパンクムーブメントがあって、単に住みやすいというだけではなく、音楽やアートシーンが地元に根付いていることもポイントですね。カート・コバーンとコートニー・ラブが出会ったのはポートランドって話をするだけで、音楽好きはテンション上がると思います。カルチャー指向のある移住者が始めたビジネスが独自の発展を遂げ、NIKEのような世界的企業にも影響を及ぼしている。NYともLAとも他の主要都市とも違う、アメリカでもユニークな存在だと思います。」

第1回を開催した『クリエイティブ都市学』では、ポートランドの事例を挙げながら、人々の働き方、街の様子、カルチャーについての講義が進みました。講義の中では、まさに自由大学の真骨頂というべきワイルドなプログラムが用意されていたそう。

「私は自由大学の運営に関わり始めた頃で、みどり荘のみほちゃんと、メディアサーフのMATがキュレーターを務めていました。講義は全部で5回ですが、4回目の講義の集合場所がいきなりポートランドのシンボルであるACE HOTELに現地時間で11時に集合、というんですよね。この講義に参加した受講生はポートランドブームの前でしたから感度の高い人たちだったと思いますけど、行動力を試されました。もちろん飛行機も宿も自己手配です。お膳立てなしで、いきなり知らない場所に行けるくらいのフットワークがないと、ポートランドから學ぶことはできないんだというメッセージです。そんな挑戦に応えてくれた人たちが、3月23日11時にエースホテルに集合しました。」

さすが強者ども、これに参加した人たちは今でも強い絆で結ばれているそうで、中には仕事を整理して、ポートランドに移住してしまった人も。岡島さん自身の印象はどうだったのでしょうか。

以前のPNCAの校舎。元倉庫を改装して学校にしていたことにまず驚いたそうです。

2012年当時のPNCAの校舎。元倉庫を改装して学校にしていた。

「アメリカにはNYやLA、ソルトレイクシティなどに行ったことがありましたが、それらとも違うアメリカらしくない場所だなと思いました。雨のシーズンで空が暗いせいもありましたが、ロンドンと札幌がミックスしたような印象でした。再開発地区のパール地区を歩くと、ギャラリーが随所にあり、表現をしている人たちと出会える。カフェに行って人間観察をしているのが飽きなかった。

ポートランドのランドマークでもあるACE HOTELは、ホテルだけれど豪奢な設備もサービスもなくて、フロントもネルシャツの青年が『やあ、元気?』みたいな感じ。ホテルというよりゲストハウス。でも備品はこだわりがあるし、売っているもの、カフェも洗練されているんです。ジム・ジャームッシュの映画の中にいるみたい。自分でもカッコいいなあって、面白かったですね。」

アメリカといえばTシャツに短パンで、フードといえばステーキとポテトが大盛りというシンプルなものが多いという印象。でもポートランドのレストランは少し毛色が違っていたようです。

「最近では健康志向が他の都市でも浸透してきているようですが、いわゆるボリューム満点のアメリカ料理というのとは違うんです。もちろんオレゴン州だから農産物とか肉とか食材が豊かな地域だということはあります。でも素材の味だけではなく、シェフの感性が作用して、五感を満たす芸術になっている。そういうレベルの店がいくつかありました。食ひとつをとっても、文化的な成熟度が高い。これはアメリカの一地方都市としてはかなり珍しいことだと思いました。」

2016年のプログラムの様子。住宅街にある畑を訪問(写真:Shiori Saito Levenson)

2016年のプログラムの様子。住宅街にある畑を訪問(写真:Shiori Saito Levenson)

100%自由に自分で選ぶ、ポートランド流を体感できる新講義
2012年の講義が好評だったことから、翌年春、ポートランドの講義をレギュラー化して、しかも丸ごと現地でやろうという企画が立ち上がりました。岡島さんは前の年に訪問していることもあり、キュレーターとして担当することになりました。

「ポートランドの都市再生にはパール地区という貨物倉庫があったエリアから始まったのですが、再生プロジェクトが立ち上がったときに、こちらに移転してきたPacific Northwest Collage of Artという美術大学があります。PNCAの学長は、地域を元気にするには、学びの場が必要だ、市民も巻き込んで自由に學べる場があることが人の活力になり、活力のある人間が集まってくることで街も発展していくという信念をもっている方です。自由大学と通じるところがあり、黒崎さんとも意気投合、何かしようという話になり、ポートランドでの講義が決まりました。」

現地との打ち合わせを重ね、第1回のポートランド現地講義は、2013年の春開講しました

「現地集合、飛行機も宿も自己調達は前と同じです。でも実は3週間の期間で、大まかな枠だけは決めていたけれど、具体的にどこで誰に会う、何をするという細かいプログラムは何も決めていませんでした。そこが自由大学、黒崎イズムというか。

各自ポートランドに行ったら、ここに行きたい、あれをしたいということを決めてきてもらって、そこを訪問するというのもひとつの課題でしたし、それ以上に、私たちが期待した學びというのは、不確実な状況にいかに対応して、ポートランド的なチャンスをものにするかということです。カフェに行って、面白そうな場所を聞いて、アーティストのアトリエを見学にいくとか、この人面白いという感性で繋がっているネットワークを大切にしたいですね。『どこそこの会社の誰さん』ではなくて『こんな面白いことを考えているAさん』として認めてもらうこと。

ポートランド的な生き方は、自分の意志があるかが肝心なのだと思います。肩書ではなく、何を大切にしている人かということに尽きる。自分の価値を表現しながら、社会に対してポジティブな行動をすることを励ましあい、その連鎖が自然と街の発展につながる。多様性を認めるリベラルな空気は、個人のクリエイティビティを刺激します。日本で仕事をしていると、知らず知らずのうちに抑制がかかり、自由にやりたいことができないし、やりたいことが何なのかもわからなくなっている人が多い。

でもポートランドのなんでもできそうな雰囲気に励まされて、口に出してみたらどんなことも実現してしまう気がしてきます。治安もいいし、人がいい。もちろんアメリカ社会の問題点を垣間見る時もありますが、まだまだ性善説がまかり通るというか、アイデアや新しい考えを尊び、人が生きる喜びを感じやすい雰囲気があふれているんです。自由大学にもそういう學びの雰囲気がありますが、一度ポートランドの自由な空気を吸うと、まだまだ自由大学で育てられるものがあるな、と思います。」

>>その2へ続く

(テキスト・撮影:ORDINARY



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