講義レポート

火とどう暮らすか、それこそが人類の歴史

「火を自給する」教授からのメッセージ

はるか昔…私たちの祖先は、自分が持つ力をはるかに上回る絶大な力がこの世に存在することに気付いたのでしょう。それを気付かせたもの、一つは木や骨や石を持つことによってそこに生じる力。そしてもう一つは、落雷などによって生じたであろう火に内在する力なのではないかと私は思っています。

この力と如何に関係するのか、それこそが人類の歴史とも言えるのではないでしょうか。

かつて美術大学で彫刻を専攻していた私は、彫刻作品をつくることよりも、鑿とハンマーによって石が砕け散ることやバーナーを使えば厚い鉄板もねじ曲がり切れること、そうした時に生じる力そのものに強く魅せられていました。そしていまも…。私にとっての興味は、何をつくるのかよりも先に、どうやってつくるのかであり、それをつくることによって何が見えてくるのかに向いています。

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この世には人間の持つ力をはるか越える力があります。その力の使い方を誤れば、この世の持続可能性は著しく阻害されてしまうのです。しかし残念なことに、現在の私たちの暮らしからは、そうした力はあまりにも見えづらく、あまりにも遠ざかってしまっているような気がします。

今回の講義は、《火を自給する》と題し、ここ数年、知名度が増した「ロケットストーブ」というキーワードをつうじて、持続可能な暮らしとは何であるのかについて考えてみたいと思っています。

私は現在、美術と建築の狭間を行き来しつつ、ここ数年は特に、火と暮らしを近づけるための重要な要素として、ロケットストーブという燃焼構造を用いた装置をつくったり、教えたりしてきました。

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長く暮らした東京から、生まれ故郷の長野市へと生活の拠点を移し6年が経過したいま、山に囲まれた長野市とは言え、暮らしの中で火を見ることは殆どありません。都市部に人口が集中する一方、山村の人口は激減し過疎高齢化によって、山間部はかつてなく荒れてしまっています。

しかし、山村域の過疎高齢化や人口減少問題はとても深刻な問題ではあるものの、そうした山村をあえて選択し、都市から山村へと移住しようとする人たちも少しずつ増えてもいます。そうした人たちの多くは、古い家を自分たちのできる範囲で改装しながら、持続可能な暮らし方を考え実践しようとしています。そしてここ最近、そういった人々によってケットストーブが選択されることがとても増えてきました。かつて発展途上国での健康被害問題に対する支援策として開発されたロケットストーブですが、日本に於いては過疎高齢化による深刻な問題を抱える山村域で求められるのは考えてみると当然なことかもしれません。

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私は、ロケットストーブの最大の特徴であり利点は、自分でつくることができる装置であることだと思っています。

営利目的では無く、人道支援や環境問題に対する支援策として開発されたロケットストーブは、構造性や経済性に優れた道具であることよりも先に、自ら考え、自ら実践することの大切さを教えてくれるものなのです。別の言い方をすれば、私たちがこれからをより持続的に生きる思考を育むためのツールとなり得るものです。

この機会に、あたりまえに享受している現在の暮らしを少しだけ見つめなおし、自らが考えることの喜び、自ら創造することの喜びを共に感じてもらえたらと思います。

美術家 小池マサヒサ



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