講義レポート

ひたすら自分が感動すること

「旅学」講義レポート

旅学」5期・第2回目のゲスト講師は、写真家の谷口京氏。谷口氏の撮影した世界中の写真を鑑賞しながら「生命体としての地球とその神秘」について学ぶセッション。

今回のテーマである地球との関係性を意識し始めるきっかけとなったのは「日食」。2001年、ザンビアにて初めて皆既日食を見た際、地上にいても宇宙の深玄まで感じることができた。この時、谷口氏は地球と自分と宇宙の関係性を突きつけられたという。旅の感動を伝える秘訣とは「ひたすら自分が感動すること」。旅をするときには、自分を表現する手段(楽器、カメラ、スケッチ等)を持ち込むと良い。そして、その自己表現を伝えることが、感動の共有につながる。
続いて、谷口氏の撮影した世界中の写真をスライドショーでみながら解説をうかがった。お話は各国での撮影エピソードから、地形、フォッサマグナ、地球ガイア論などスケールの大きなものにまで及んだ。
Q:どこの国が一番よかったか?
実はよく受ける質問のこと。ひとつは、ハワイ。太平洋のど真ん中。海もあり、火山もあり、地球の成り立ちをイメージできるから。でも、がっかりされるので、あまり言わない。もうひとつは、アフガニスタン。人間の尊厳や人生がすべて顔に刻まれている。険しくも穏やか、サムライのように見える。質素な暮らしだか、不思議と豊かさを感じ、昔の日本もこうだったのだろうと思わせられる。
Q:印象深かった場所はどこ?
イスラエル(死海)に滞在中、体調を崩してしまった。でも死海の塩の結晶をなめ続けたら体調は回復。地球のパワーを感じる出来事だった。インドは、地球球、人々、神々との共生が息づいている国だと感じた。寺院にいくと、地球のパワーをもらうために、人々が集まって地面に手のひらをつけている。制服姿の警官も、祈りを捧げている。
Q:どのようにしたら地球を感じながら、旅をできるか?
常に俯瞰的に物事をみること。自分が地球の、この地形のどこにいるか意識してみること。常に太陽と月を意識してみてもおもしろい。そして、ロードマップより、その土地の高低差がわかる地図を入手すると良い。地形から地球の成り立ちを想像し、より旅を楽しむことができる。”観光”という言葉は、観光的などあまり良くない意味で使われることもあるが、光を観ると書く。昔の人々は、谷に光を見に行っていたと考えると、素敵な言葉である。
Q:カメラマンになるきっかけは?
高校の時、アルバム委員になり友人を撮影したら楽しかったこと、将来は世界を旅する仕事につきたかったこと。そして、ピューリッツァー賞受賞作「安全への逃避」を見て感銘を受けたことが写真家になるきっかけとなった。
Q:何を伝えたいか、何を撮るか、どのように決めたのか?
9.11のとき、ニューヨークで仕事をしていて、フィルムの手持ちもあったが、崩れるビルは一枚も撮ることができなかった。その後、写真で何を撮りたいのだろう、と自問自答が続く。答えを教えてくれたのは旅だった。ラオスで出会った子供達。笑顔と光に包まれたたくましさを見たとき、自然とシャッターを切っていた。世界はこんなに素晴らしいと、皆につたえたいと再確認できた出来事。
Q:旅(写真)で稼げるようになったのはいつか?
25歳で独立してからだと思う。帰国後は、海外経験があること、英語が話せることで仕事がきやすいのかもしれない。
Q:人を感動させる写真を撮るにはどうしたらよいか?
自分が好きなもの、自分が感動したものを撮ること。
Q:写真の構図はどのように決めているのか?
単純に気持ちよいか、気持ちよくないか。カメラを覗いて、違和感がないか。黄金比率の感覚については、身に付いてくるもの。
Q:色と、光の表現がとても独特で印象的だか、何か意識していることはあるか?
写真のネガやデータは楽譜と一緒。同じ楽譜でも、コンダクターの解釈によって、異なるものになる。暗室でもPhotoshopでも、自分の表現したいもの近づける作業を行っている。しかし、写真に写らない世界(祈りや想いなど)はたくさんある。少しでもそれに、近づき表現したい。
Q:写真を撮る瞬間、視覚以外のもの(風や香りなど)も収めるように意識しているか?
特に意識はしていない。ただ、普段の視点とは異なる気がする。どちらかというと、撮っているより、撮らされているに近い。自分が感じた色を表現するようにしている。写真と実際の色はシンクロしない。自然こそ最もプリミティブなアートだと思うから。
Q:多くの国を旅されたうえで、母国である日本はどう思うか?
日本は好き。こんなにすばらしい国はないと思う。365日、地域により食べ物も気候もちがう。歴史を知り、さらに好きになった。ただし、日本の政治と教育は嫌い。日本人は特殊。自制心が強く、事なかれ主義だと思う。
Q:話す言葉がとても綺麗だが、言葉の感覚はどのように磨いているのか?
特に意識したことがないが、写真にキャプションをつける作業とアメリカ滞在は関係あるかもしれない。また、雑誌「NEUTRAL」に携わった際、何事にも美意識を持つことの重要性を知った。そうでなければ人を感動させるものは作れない。
最後には、アフガンの砂漠の写真をみて、思い出したというサハラ砂漠で教わった曲をSUGEE氏のジャンベ演奏を聞きながら、この日の講座は終了となった。


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