講義レポート

「日常と旅とのリンク」がテーマの第4期旅学。最終回となる第5回は、アナン株式会社代表の メタ・バラッツさん を招いて、本場のチャイを楽しみながら、インドの魅力に迫りました。
インド人の父と日本人の母を持ち、スパイスの効用と素晴らしさを人々に伝えるべく日本全国を飛び回る メタ・バラッツさんは、インドの西方、グジャラート州出身。グジャラートでは、ゾロアスター教の民のため、今だに鳥葬が執り行われています。最近食生活の変化の影響か、鳥が遺体を食べなくなっているのが問題視されています。日本では決して耳にすることのない話です。
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グジャラートの北方に位置するラジャスタンは、ジプシー発祥の地域と言われています。講義途中に鑑賞した映画、”ジプシーキャラバン”では、マハラジャと呼ばれるグループが超絶な演奏を披露していました。ジプシーは絶えず移動しながら、文化を失わず現代までやってきています。今や表舞台でも活躍をみるジプシーは、今までは排他されてきた民族でした。差別、人間性の喪失… “曲がりくねった道は、真っ直ぐには歩けない ~ロマのことわざより~” 映画で表現されるジプシーロードは、苦難の道程を暗示させます。広大で地域性に富むインドの大地は、これらをも受け入れる、懐深いところなんですね。文化が多彩です。
大きく分けると北はアーリヤ系民族で、宗教はヒンドゥー教が中心。チンギスハン、ムガル帝国など侵略の歴史が繰り返されたため、性格がややとがっている印象。一方、南はドラヴィダ系民族で、古来よりインドの大地に住んでいたのは彼らです。宗教は今はヒンドゥー教が中心ですが、かつて仏教が中心でした。北に比べて性格が大らか、お米と魚を食べる文化で、日本と親和性が高く、南の主要言語であるタミル語は、日本語の起源ではないか、という説もあるそうです。ちなみにバラッツさんは、南の民のほうが好きとのこと。
国民的な性格は逆のようですが、インドと日本はさまざまなつながりがあります。日本の仏教はインド発祥のものが中国経由で伝わってきたものです。先に書いた食文化の話では、インドのタマリンドが日本では梅干しに近く、発酵食品が存在するのも近しいです。沖縄久高島で今でも受け継がれている伝統、イラブー(ウミヘビ)の燻製は、インド洋のモルディブフィッシュが起源と言われています。スリランカのカレーはとくに、かつお節のダシが効いているとのこと。
インドの結婚式の話が印象的でした。1週間も続くそうです。初日は夜に親族がダンスを披露、2日目はメイン会場に移動し、男どもか花婿を担いで連れて行き、夜はドレスチェンジして踊って盛り上がる…というのを繰り返していくそうです。しかも、宗教上の都合から、お酒無しで。パワフルですね。
講義の始めに、バラッツさんが教室で作ったチャイを頂きました。クローブ、ナツメグ、シナモン、ジンジャー、カルダモン、ブラックペッパーの6種のスパイスを配合した、深みのある味です。インドでは、チャイは3回沸騰させるとおいしい、と言われているそうです。スパイスの味をより深く抽出しよう、ということでしょうか。ほっとさせてくれる味です。インドではミントやレモングラスを入れて爽やかに飲んだりもします。また、インド人は猫舌なので、2つのコップを行ったり来たりさせて空気を含ませ、冷ましながら飲んでいる人が多いです。
バラッツさんは、近年、現地の食材を使って料理をするインドの旅に出ています。2010年は”魚”をテーマにケーララ州へ。2011年は”マトンカレー”でラックナウ、アムリットサルへ。2012年は”乳製品”でグジャラート州へ。その顛末は『チャロー インディア』という本にまとめられています。東日本大震災の復興のために立ち上げた”女川カレー”では、現地で雇用を創出するなど、食とスパイスからさまざまな挑戦を行うバラッツさん。今後の活動にも注目です。
旅学第4期も、ついに終了です。全5回を通じて、受講生が前のめりになり、旅について何か見出したように感じました。
・自分が知らないことを吸収できた
・どういう考えをもって旅に出るのかを学んだ
・自分で考えたり、興味を突き詰めることの大切さを実感した
・世界は奥深いところでつながっていることが分かった
・日常生活も旅をするように過ごしたい
・メディアだけの情報を鵜呑みにするのではなく、自分でイメージを膨らませることが大事だと感じた
・講義を通して、いろんな旅をさせてもらった
・旅は現地に行ってこそ、と思っていたが、話を聴くだけですごい体験ができた
・なんといっても、旅に出たくなった
受講生から、たくさんの力強い言葉を聴くことができました。
~教授SUGEEより~
都市で生きることは旅と似ている。いろんなコミュニティがあり、そこで出逢う。リアル+ネット。そのなかで、自分自身の心のあり方、人の気持ちを理解する心のやさしさ等を学ぶ。忘れないでおこうという気持ち、受け入れる気持ちは、必ず相手に伝わる。旅でうれしいときは、人の愛情に触れるとき。日常もそう。未知のものに出逢っても驚かない。愛情を持って接すること。5回の講義を通してみんなとシェアしてきた。1週間に1回、決まった人に会うという機会は貴重だった。感謝しています。


講義情報:
「旅学」 教授:SUGEE



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