講義レポート

「日常と旅とのリンク」がテーマの第4期旅学。第2回は、世界ふしぎ発見のミステリーハンターとして活躍し、最近では”フェアトレード”に関する取材や社会活動に携わっている 末吉里花さん を招いて、実際に末吉さんが訪ねた地域のスライドを鑑賞しながら、未知への旅の中から感じた想いやメッセージを紡ぎ出し、旅で得た感動や衝撃を日常に生かす秘訣について学びました。
末吉さんは、2001年から世界ふしぎ発見のミステリーハンターとして活躍され、また、リポーターとして世界中を訪れ取材。人々がなかなか到達しえない秘境や人類の伝統に触れ、その感動や叡智を人々に伝えることをライフワークとしていらっしゃいます。
取材とプライベートで訪れた国は、50か国以上!そのなかでも印象深い旅について、講義で紹介してくれました。順に追ってみましょう。
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・遊牧民トアレグ族に学ぶ @リビア
サハラ砂漠のとある岩の裏に描かれた、2万年前の壁画を観に行くのが目的の旅。砂漠で寝泊まりしながら南北に3000キロ縦断するという過酷さのなかで学んだことは、なんといっても水の大切さ。砂漠で水がきれたら、死が待つのみ。顔を10日間洗わないで過ごしたそうです。ひねって水が出てくるありがたさを痛感。遊牧民トアレグ族の生活の智恵にも驚きでした。だだっ広い砂漠のなかで、ナビもなく、ピンポイントで目的の壁画のある岩にたどり着くことができる。彼らは、天体の位置などから正確に位置をとらえることができるそうです。
砂漠での寝泊まりの話も印象的でした。砂漠は無音、風の音しか聴こえず、はじめはただただ怖かった。それが、慣れてくると、宇宙と会話しているような、そんな気持ちになれる。

・キリマンジャロの氷河に迫る @タンザニア

素人が登ることのできる最高峰、キリマンジャロ。この頂上にある、地球温暖化でいずれ無くなってしまう氷河を見に行くのが目的の旅。登山経験は高尾山ぐらい、という末吉さんに、5681mの険しい山は容赦なく襲いかかります。酸素が薄れゆくなか、一時意識を失ってしまうアクシデント。なんとかたどり着いた頂上に、氷河がとても美しい光景として広がっていました。
この氷河が、地球温暖化によって無くなってしまう…なにかできることはないのか…この旅が、環境問題について考えるキッカケとなり、現在取り組むフェアトレードにもつながってきている。まさに、末吉さんの人生のターニングポイントとなる旅。
・極寒の地に生きるヤクート人に学ぶ @シベリア
永久凍土に埋まるマンモスを探しに行くのが目的の旅。世界で1番寒い村といわれるシベリアのペテンキオス村。その寒さはマイナス78℃にもなる!想像できない寒さです。ヤクート人の間では、冬をこすのが一大事。冬に食べるものを蓄えるため、夏に男は狩りに出かけます。生き抜くための伝統的行動が脈々と受け継がれていることを感じました。
・津波の被害地のその後 @インドネシア バンダアチェ
海外で起こる自然災害がニュースで報道されなくなったあとの状況を見に行くのが目的の旅。
巨大な船が海から2キロ地点まで押し流されて放置された姿など、1年経った今でも被害を目の当たりにすることができます。復興途上の中、仮設住宅で暮らすこどもたちの強い精神と笑顔に、むしろ励まされました。
・ヒンドゥー教から仏教へ。不可触民に学ぶ @インド ナグプール
ヒンドゥー教のカースト制度で動物以下の扱いを受ける不可触民を救うため、ヒンドゥー教から仏教に改宗させることに尽力する日本人を追う旅。その名は、佐々井秀嶺先生。すでに2万人以上の民をヒンドゥー教から仏教へ改宗させて、まちの住民のほとんどが仏教徒となった。改宗したこどもたちが笑顔で話す。人に触ることができるのがうれしい。自分の周りにいる人が幸せになることがうれしい、と。つい、自分のことばかり考えがちになってしまうところに、衝撃的な言葉が突き刺さった。
世界各国での体験と多くの出会いによって、末吉さんは考えました。この美しい地球とこどもたちの笑顔を未来に残すために何かできないかと。そこで着目したのが”フェアトレード”です。フェアトレードとは、私たちの日常を支える輸入品の多くを作っている開発途上国の生産者たちと安定かつ持続可能な取引をすることで、生産者の環境を守り彼らの生活をサポートする貿易の仕組みを指します。
これを末吉さんは、「世界の貧困をなくす仕組み」であり、「人にやさしい、環境にやさしい仕組み」と説いてくれました。とても力強い、熱のこもった瞬間でした。なぜ貧困をなくせるのか。答えは、開発途上国の労働環境にあります。
開発途上国の労働者の多くは、先進国への輸入品生産のために、低賃金、長時間、強制的な残業、不衛生な環境等過酷な労働環境を強いられています。スライドでは、バングラデシュのダッカで、小さなこどもが長時間同じ場所で同じ作業をさせられていたり、非常に狭くて不衛生な小屋に労働者が住まわされている状況が、インドでは、農薬漬けのコットン生産者のうち年間で2万人もの人が健康障害となり、この12年間で20万人ものが自殺をしたという事実が綴られます。フェアトレードによって生産者の労働環境が改善されれば、このような現実は変えていける。
ここで、末吉さんはとくにフェアトレードファッションに注目します。なぜか?
・ファッションは作業工程が多く、多様な仕事を創出できる
・伝統的に手仕事が多く、地域で採れる自然素材を使うことで、地域文化を生かし継続することができる
・オーガニック農法を前提とするため、土壌や生態系の改善につながる
と、さまざまな理由を挙げています。
では、実際、労働環境はどう改善されているのでしょうか。末吉さんが取材で訪れたバングラデシュのタナパラ・スワローズという、世界機関の認定を受けたフェアトレード団体においては、
250人あまりの女性たちの雇用を創出しています。ここでは、工場の隣に保育所が設けられ、こどもを預けて働くことができます。素材はもちろん自然のもの。働く時間が管理され、対価として適正な給料が支払われていました。
労働環境の改善はもちろん、衣服ひとつひとつが手仕事で作られ、大量生産とは違う温もりが製品から感じられることも大きな気づきでした。日本に住む私たちは、ひとつの服を買うときに、その裏に隠れる温もりのようなことを考えているでしょうか?ファストファッションが隆盛な今、古くなったからすぐ買い換えればいい、安いから買う、といった、安易な行動をとっていませんか?それは消費者として価格の安さや流行だけに流されて買わされているのであって、ある意味アンフェアな状況と言えます。
フェアトレードの「フェア」は、途上国の生産者に向けられたものだけでなく、私たちのような消費者にとっても選ぶ権利がある「フェア」であり、「自立」につながることである。そして、フェアトレードは一方的な「支援」ではなく、生産者や企業、消費者らが対等な立場で「共存」できる活動である、と末吉さんは熱く語ってくれました。
今後もフェアトレードに関わる活動を精力的に行い、自分のプロデュースするブランドをつくっていくのが直近の目標だそうです。バイタリティあふれる言動が、とても魅力的でした。
末吉さんがフェアトレードに行き着くキッカケは、旅のひとつのワンシーン、キリマンジャロの氷河でした。旅で感じることは人それぞれ、それが感じたことが何にどうつながっていくのかも人それぞれ。少なくとも、誰もがその感性を持っているはず。末吉さんのお話からは、ふだん気にしていなかったり見過ごしていることを気づかせてくれる、そして、一歩踏み出せる勇気をもらえた気がしました。
世界を旅してみつけたこと
未来のためにできること

あなたもぜひ、探してみてください。
きっと、見つかると思います。


講義情報:
『旅学』 教授:SUGEE
日程:金曜日 1/27, 2/3, 2/10, 2/17, 2/24(全5回)



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