講義レポート

クリエイティブ都市学ー北欧学を受講して

クリエイティブ都市学 − 北欧学3期 講義レポート

受講後に自身の価値観がこれほどまでに広がり、こんなにも新しい世界観に出会えるとは思ってもみませんでした。講義を重ねる毎に得られる学びは、期待を何倍も上回る満足度で、受講から数週間経った今でも心の充実感に包まれています。これが「北欧学」を受講しての感想です。

【北欧学受講までの経緯】

このように、大きく期待を裏切られながらスタートした「北欧学」。

そもそも受講の第一の目的は、友人でもあるフィンランド人アーティストの日本での活動を今後サポートしていくにあたり、フィンランド人である彼女のこと、更にはフィンランドデザインのことをもっと理解したいと思ったのがきっかけでした。

彼女の作品がそうであるように、北欧出身のアーティスト達の多くが自然からインスピレーションを得た、素晴らしい作品を発表しています。

ここで説明するまでもなく、フィンランド(北欧)のデザインは注目を浴びる一方ですが、なぜ彼らは心がほっとするような美しい作品を生み出せるのか。性格的に日本人と似ているところもあるフィンランド人、でも一緒に過ごしていると根本的に日本人と違うところもある。なぜだろう。そんな心のもやもやを解決したいと思っていた矢先に目に飛び込んできたのが今回受講した「北欧学」でした。

その内容は、わざわざフィンランドから第一線で活躍中のアーティスト達がゲストスピーカーとして来日し、彼らのプレゼンを間近で聴くことができる。という素晴らしいカリキュラム。しかも自由大学のモットーとして、一方的に講師が知識を話し講義を作り上げていくのではなく、参加者全員で意見を述べ合い一つの講義として作り上げていく。まさにこれだ!と思い、飛び込んでみました。

SustainabilityTaukoTalkoot、そしてCreativity

講義の中で出会ったキーとなるいくつかの言葉。

今回のゲストスピーカーの方々が何度も口にしたのが《Sustainability》という言葉でした。世間の流れがそうであるからか、私もここ最近サステナビリティという言葉はよく耳にする言葉でした。

ただ彼らの言う《Sustainability》とは、彼らが作る作品の物理的な持続性はもちろんのこと、先人の知恵や価値をデザインを通じて未来へ継承する《価値の持続性》の役割を担うことまでも考えて作品作りをすることで、目先の利益ではなく100年先まで考えた際に今自分が何を創作すべきかまでを考えていたことには大変驚かされました。

そしてその先人から受け継いでいる価値の一つが自然を大切にするというとてもシンプルな考えであり、これが彼らアーティストの考えるデザインを理解する上でとても重要なキーポイントとなっていました。

この自然を大切にする一環としてハイキングやきのこ狩り、または趣味のハンティングなどフィンランドに身近に存在している自然と触れ合う時間を日常に取り入れており、この自然と触れ合っている間に育まれるインプットが作品としてのアウトプットに大きく影響していることが分かりました。

これはフィンランド語で休息(Break)という意味の《Tauko》(タウコ)とも呼ばれ、日々の雑多なことから頭と心をOFFにすること、心身共にリセットすることを意味し、彼らが非常に大切にしている考えの一つでした。

更には、困った時にはお互いに助け合うという「お互い様精神」《Talkoot》(タルコット)と呼ばれる考え方が存在し、日々フィンランドの人々が《Talkoot》精神で支え合っている環境が下地として整っていることも理解しました。

彼らは《Sustainability》の強い意志を持ち、大変な時は《Talkoot》で支え合い、《Tauko》で日々フレッシュな気持ちで仕事と向き合う。それらが彼らのCreativityの源となっていました。

【新しく見えた道しるべ】

今回の受講を通じて、表面的だけでない更に一歩深く掘り下げたフィンランドに対する理解を得ることができました。

なぜフィンランドの人々は自然からインスパイアされた作品を作り上げるのか、会話の中に “second hand” という言葉を多用していたのか。物を大切にし、使い捨てを避ける行動を取るのか。ただ単に自然に囲まれているという単純なことではない、より一歩踏み込んだ理解となりました。

印象的だったのは、彼らの芯の強さ・ぶれない姿勢でしたが、とは言ってもそこには窮屈さなど微塵もなく、その雰囲気や佇まいから人としての余裕や穏やかさまで感じるほど。私がフィンランドに惹かれる理由が、この人々の心の暖かさにあるのかも知れない。これまでフィンランドに関して疑問に思ってきた点と点が繋がった感覚を覚えました。

国連が発表している「幸福度」ランキングで今年1位になったフィンランド。その素晴らしい環境は全て与えられたものではなく、彼らのような一人ひとりの努力の末に掴み取ったものであり、自然を大切にしながら自然に寄り添った生活を送り、デザインとの調和によって生み出された心地よい環境で暮らした結果が幸福度として現れているのだと理解しました。

当初の目的、フィンランド人アーティストの友人を理解したいという思いから始まった自由大学でのフィンランドへの冒険は、なぜ彼らが彼らであるのか。言葉や行動の裏に隠されている、DNAに刻み込まれている彼らの考えの一端を理解する素晴らしい機会を与えてくれました。以前より深まったこの理解を糧に、目標に向かって一歩踏み出してみようと思います。

この講義を作り上げて下さったキュレーターの岩井さん、参加して下さった研究者やアーティストの皆さま、そして共に受講した様々なジャンルの仲間に心からの感謝の気持ちを込めて、レポートの締めくくりとしたいと思います。フィンランドにどっぷり浸かった最高の週末でした。

「クリエイティブ都市学 − 北欧学」
3期卒業生 隅田
順子



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