講義レポート

出版社をつくろう第4回目は「クラウドファンディングを使った仕組みづくり」と題して、クラウドファンディングサイトのCampfireの立ち上げを行なった出川光さんとクラウドファンディングを使った「一幸庵」和菓子本出版プロジェクトを絶賛進行中の南木隆助さんをゲストにお招きし今、この時期に出版社を立ち上げるならどのような資金集めの仕組みができるのかのヒントについて実体験を交えてお話いただきました。

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(出所:https://greenfunding.jp/miraimakers/projects/1037/news/2293#home)

 

■クラウドファンディングと出版

国内最大のクラウドファンディングのCampfireを立ち上げ、今はクラウドファンディングを軸に様々なプロジェクトのアドバイザーとして活躍する出川さんから、出版とクラウドファンディングを合わせた事例を話してもらいました。

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 安野モヨコ『バッファロー5人娘』オールカラー豪華本プロジェクト

著名な漫画家である安野モヨコさんのクラウドファンディングプロジェクトですが、こういった有名人がプロジェクトを行なった時のよくある支援者の反応は「有名な漫画家なら自分でお金を出して出版すればいいじゃん」といったもの。そこで、あえてクラウドファンディングを使ってこの出版プロジェクトを行なった想いや理由として“読者への感謝をカタチにする”ことをしっかりと表明し、それをプロジェクトの軸にして、見事目標金額の達成や電子書籍化での次のビジネスへ展開させました。

 押し花アート作品集「flora」の書籍化プロジェクト

出川さんの美大時代の同級生が手がけたプロジェクトで、自分の好きなこと・得意なことを出版としてどう表現して、世の中に認知されていくかといった視点でクラウドファンディングを実施。最初は本としてのクラウドファンディングは、あまり上手くいかないだろうということだったが、当時facebookのカバー写真が始まった当初だったこともあり、支援金の特典としてそのカバー写真で使える本人の名前を押し花アートで作成してもらえるという特典が好評に。本としての支援総額は少ないものの、結果として作品の認知度は上がりました。

 アイデンティティを触発する、美容師のための美容文藝誌「髪とアタシ」創刊プロジェクト

zineと雑誌の間の美容文藝誌の「髪とアタシ」の創刊プロジェクト。無名の企画者で48人のフォロワーが集まった事例で、特典として編集会議に参加できる権利や編集の進捗をしっかりとフォローしていく体験を軸に、支援者を共感させることができたプロジェクト。

3つの事例からもあるように、支援者をどう共感させてポジティブな行動させていくかという部分がクラウドファンディングではとても大事なポイントだということがわかります。それでは、こういった概念というのはそもそも最近できたものなのでしょうか?

 

■昔からあったクラウドファンディングのマインド

クラウドファンディングの変遷について、出川さんは「昔からあった応援してあげたいといった気持ちをWeb化したのがクラウドファンディング」と表現します。そして、昔からあったクラウドファンディングのマインドについて、その当時の状況をよく知る教授の黒崎さんからグレイトフル・デッドを事例に話は進みます。

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「ビートルズやローリングストーンズなどがライブの際に音源の録音を固く禁じていたその当時、グレイトフル・デッドはライブ音源を録音することにとても寛容で、ライブに参加しているファンたちはこぞって、テープにライブ音源を録音していた。そのテープ音源について、「やれ、いついつのライブのセッションがいいんだよ!」とか、「この時のアドリブが最高だよね!」といったようにファンたちの間でその録音されたテープのシェアが多発的に起き、グレイトフル・デッドを取り巻くコミュニティーマーケットが形成された。こういうことが今あるSNSのシェア思想と同じで、良いモノをシェアしたいということは不変で根源的なことなんじゃないか。」

資本主義大国アメリカでただの消費とは正反対の『良いモノは分かち合おう』というヒッピー思想は、さらに支援などのマインドも加わって発展していきます。

「twitterの共同創業者のジャックドーシーは、友人のガラスアーティストの作品を買う手段が無いことに疑問を抱き、その手段として決済システムsquareをつくった。そこには本当にやりたいことや良いと思うことだから、バックアップしていこうよ!システムがないなら作ろうよ!といった後押しするような思想ができてきた。だからアメリカ最大のクラウドファンディングプラットフォームのKickstarterもそういう名前なんだよ。(「何か始めたいけど、お金がないし、どうしよう。。」って思っているなら、俺たちがバックアップしてあげるよと一歩踏み出せるように背中を押す?蹴る?というイメージ。)」とオプティミスティックな思想で支援し、面白いことを小さくはじめることができる土壌ができ始めていることをまるで、その状況のライブで見ている感覚になるように話してもらいました。

では、日本のクラウドファンディングの状況はどうなっているか、実際にプロジェクトが進行中の南木さんの「一幸庵」和菓子本出版プロジェクトを事例に語ります。

■自分の周りの10人を共感させる〜「一幸庵」和菓子本出版プロジェクト〜

昔から誕生日ケーキの代わりに4,500円のいい羊羹をねだっていたと語る南木さん。めちゃくちゃ偏愛をしている和菓子とその和菓子職人さんをどうしたら世の中に伝えられるのかという動機からこのプロジェクトは始まったそうです。予算がゼロ円で始めたプロジェクトなので、写真やエディトリアルデザインは「協力者の善意と南木さんの和菓子に寄せる情熱」で共感を得て出版に向けて動き出しました。「この協力者を共感させる営みも実は“行動のクラウドファンディング”なんですね。人は頼むことより頼まれる方が嬉しいのではないのか。」とその当時の気づきを振り返ります。初めは海外に向けて出版していこと考えていましたが、しっかりと本というものを作ってという思いが芽生え始めて、クラウドファンディングに挑戦します。

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普段はクリエイティブディレクターとして活躍しており、PRとかが南木さんが想定していた「エッジの効いた若者」というターゲットにしっかりヒットすれば、すぐにクラウドファンディングの目標が達成できるものだと思っていたそうです。しかし、蓋を開けてみるとなかなか金額が増えていきません。これに危機感を抱いた南木さんは出川さんに相談を持ちかけます。

それに対して出川さんから「自分の周りの10人がお金を出してもらえるようになるのがまず一歩」「友達に居酒屋で話を聞いて面白そう!見てみたい!とどうやって思わせるかということが大事」といったようなアドバイスをもらいます。

南木さんは自分の伝えたい和菓子を、和菓子を好きな人たちに伝えるため、早速そういったネットワークを持つ母親に連絡をとり“お茶好き”“和菓子好き”の人たちに口コミを広げることで、クラウドファンディングの支援金が増えている結果になってきました。

このプロジェクトをとおして、「本を出すことで業界全体に一石を投じる」という、始めた当初は思ってもみなかった違う視点の意味合いや文脈が生まれたと語る南木さん。出版したことによるフラグやノウハウを今後どのようなビジネスに展開していくのかとても楽しみです。

この事例にもあるように、まず身近な人たちから始めていって、大きい概念から個人的な情熱にいかに共感を持ってもらい広げていくか、またそれをどうやって物欲や経験と結びつけていくのか。こういったやり方や概念がこれからの出版をやる場合とても相性がいいように感じます。



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