講義レポート

本を軸にしたコミュニティーや関係性のデザイン〜出版社をつくろう 1期 第2回レポート〜

「出版社をつくろう」講義レポート ゲストスピーカー:ブックディレクター・クリエイティブディレクター・内沼晋太郎さん、フリーライター・清田直博

出版社をつくろう第2回目は「本を軸にしたコミュニティーや関係性のデザイン」ということで、ブックディレクター・クリエイティブディレクターとして活躍される内沼晋太郎さんをゲストにお招きし、フリーライターとして博報堂の広報誌「広告」の編集にも携わる清田直博さんとセッション形式の講義を行いました。

本屋はメディア

「本屋はメディアだ。」そう講義中に話をする内沼さんは、ブックディレクター・クリエイティブディレクターとして“人と本との出会いの仕事”、つまり本を売るときの仕掛けを考えて、本屋でない場所に本のチカラで人を集め、本の価値を再定義する活動を続けてきました。

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そんな内沼さんは、普通の新刊本を新たな本屋で売ろうとしても難しいと言われていた2012年に、B&Bという本屋を博報堂ケトルと協業でオープンさせました。新規参入は数年ぶりということだったそうです。

B&Bの特徴は3つに分けられます。

  店内でビールが飲め、ビール片手に本が選べます。

  目黒の北欧ヴィンテージショップのKontrastから家具の委託商品を買うことができます。

  平日1本、土日2本ペースで毎晩行っている著者を招いたトークイベントが開催されています。

本は通常の販売ルートで販売すると委託商品になり、それ単体だけで収益をあげようとすると現在の流通システムの中では成立させることは難しい状況になっているそうです。だから大手書店などは周りに、今流行りのテナントを入れてその収益で成立させる「本を手段としたテナントビジネス」がメジャーになってきています。

B&Bはこういった状況の中、あえて本を中心にした発信の広がりをビジネスにしようとしていると内沼さんは語ります。

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冒頭の「本屋はメディアだ。」という言葉は、従来の業界で言われていた、本や雑誌を作って全国の書店に並ぶ流通網を通し、広告主にとってメリットがでる “出版業界”としてのメディアという位置付けではありません。いかに本の価値を下げずに、本を取り巻く世界やコミュニティーを売り出し成立させていくことが、これからの出版を考えた時に重要な視点になってくるのではないかと、本とコミュニティーの関係性についてに話が広がっていきます。

本を取り巻く世界をどう売り出していくか

本を届けたい人にどう届けていくかという問題は、今の取次を通さない方法でも実現できるのではないのかという問いかけから、事例がいくつかあがります。

食材を食べたくなるようなストーリーの雑誌が食材と一緒に手元に届く「東北食べる通信」、高齢者の会話型見守りサービスを行っている会社が提供している親の自分史雑誌がオンラインで作成できてしまう「親の雑誌」といったように、アイデア次第で、本と出会えるメジャーな場所であった本屋を通さない流通のやり方もあるということがわかります。

また、本のブランディングとコミュニティーをしっかりと作った事例としてmother houseとオチビサンの事例があげられます。漫画のキャラクターが背負っているバッグを人気のあるバッグメーカーと組んでグッズ販売をすることで成立させています。

本という核の世界観にあった、本とは別のモノと合わせて売っていくことで、普通の顧客をファン化させていきコミュニティーを形成することが可能のようです。例えばそのコミュニティーの中の熱狂的なファンにはプレミア感のある価値を提供し、それ以外の人には通常の価値を提供していくなど、そのコミュニティーの中にいる人たちに対して払い方のバリエーションを増やしていくことも本の世界観やコミュニティーを通して本のビジネスを成立させる方法でもあると語ります。

その一方、本のコンテンツを作っていく編集者は、「売り方まで考えられないとこれからの時代は難しいのでは」と示唆します。いいコンテンツだけを作れば売れる時代は終わって、いかにそれを見つけてもらう仕組みを考えられるかというプロデューサー的な視点がこれからは必要になってくるのではないのでしょうか。

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本を取り巻く世界観やコミュニティーを絡めて、その相乗効果で全体を成立させていくような仕組み、こういったReading Experienceをどう作っていくかということを考えさせられる第2回になりました。B&BがまさにReading Experienceなのでしょうね。



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