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自分の本をつくる方法」の教授、深井次郎さんは、20代ですでに4冊の本を出版しヒットさせ、メディア取材多数の若手文筆家です。
私たちは「自分の本をつくるなんて、特別な人にしかできないはず」と思ってしまいがち。しかし。「無名でコネなし経験なし」の人物が本を出す例は、調べてみると実はかなりあるそうです。何を準備し、どういう手順で、何に注意して動きはじめればいいのか。「とかく感性や才能という言葉でうやむやにされがちな “本づくり”というブラックボックスを、だれにでもできる方法論として明るみにだす」というユニークな講座がはじまります。
さて深井次郎さんとは、はたしてどんな人物なのだろう。そんな教授、深井次郎さんにインタビューを行いました。


■20代で4冊の本を出されていますが、もともと文章が得意だったのですか?
まったくダメです。ぼくはすべて平均的なんです。父親は、サラリーマン中間管理職で、母親は専業主婦でパートを少々というような、おそらく日本の平均的な家庭に育ち、平均的な大学に行き、平均的な(?)社会学を学びました。ただ、父親が転勤が多かったせいで、新しい環境になじむために、人の気持ちだけはわかるようになったのかなと思います。
■そして就職も、本の世界とはまったく関係ない業界に行きまたね。
大学時代に本の魅力にはまりましたが、だからといって、出版社という感じでもありませんでした。就職は、社長の魅力で選びました。心底惚れた社長のもとで修行させてもらいたいと思いました。仕事は大変でした。入ったそばから子会社の立ち上げメンバーになってしまい、電話もパソコンもパンフレットもない事務所で、飛び込み営業1日100件やってました。本の世界とは真逆の体育会系の仕事でした。その後、本社に戻り、人事で新卒採用の責任者になりました。人事の採用の仕事は大好きでした。全国飛び回って、就活のイベントで講演したり、会社説明会をしたり、面接したり。午前に名古屋、午後は大阪で、夜に福岡で宿泊ということも何回もあり、しゃべってばかりで、のどがおかしくなりました。
■充実していたのに、なぜ辞めたのですか
仕事も楽しかったし、給料も満足だし、何も不満はありませんでした。むしろ、本当に最高の環境でした。理想だと思います。でも、次のステップに進みたくなったのです。なぜか本を書きたくなってしまったのですね。特に何をってことも決まってなかったのですが。でも、現状を続けながらだと現実的に忙しくて、本を書くためのまとまった時間はとれませんでした。それで、社長に「独立します」と。
■社長には止められませんでしたか
社長は、ぼくの想いを応援してくれました。社長という人種は、独立する人の気持ちがわかるのかもしれません。「面白い、どんどんチャレンジしなさい」と。今でも僕の師匠です。ぼくの本を「わかりやすくていいね」と褒めてくださいます。ほかの役員からは、止められました。辞めてどんなビジネスをやるんだと聞かれ、「本を書きます」と答えたら鼻で笑われました。「いや、お前ね。書くのは勝手だが、誰が買うんだ、お前の本を」と。これは、正論なんです。確かにそうだと納得しつつも、やっぱり書こうと思い、ドロップアウトしてしまいました。
■不安はありませんでしたか
自分で決めたことながら、恐怖で足が震えました。もう死ぬと思いました。僕の身内や親戚はサラリーマンや公務員や農家でしたから、モデルとなる人もいませんし、きっと独立のDNAみたいなものもない気がするんです。給料が毎月入ってくる生活から、何かしなければ飢え死にしてしまう世界への冒険です。 収入はないし、出版業界のことは何もわからないし、知り合いもいない。ゼロからのスタートでした。頭もよくないし、文章の書き方すらわからない。わからないけど、とにかく書きたいことを書いてみようと思いました。書こうと思っても、本になるかどうかもわからない原稿を書くのは、けっこうしんどい。 ゴールのないマラソンはきついんです。不安と戦いながら、出版業界や文章の書き方について勉強し、どうやったら普通の人が本が出せるのか、道を探りました。
■会社を辞めて1年後の2006年3月、ようやく1冊目の本が出たのですね

25歳で会社を辞めて、1冊目が出たころには26歳になっていました。『ハッピーリセット』という20代~39代の女性にむけた自分を変えるためのエッセイ本です。発売日に、本屋に平積みされたんですけど、隣に江角マキコ、小泉今日子、叶恭子、安住紳一郎アナといった有名人の本に囲まれて深井次郎の本が並んでて。すごい違和感でした。「こいつ、だれやねん」って不思議な気分でした。影で隠れてみてたら、一人の女性が僕の本を手にとって、立ち読みしだしたんです。
「買ってくれ~」って5分くらい念じたら、レジに持っていってくれて。ストーカーっぽく思われそうなので、彼女の購入を確認してから、逃げました。
■本が出てから、読者からの反応はありましたか?
手紙やメールもうれしいですが、実際にお会いするとうれしさ倍増です。東京国際フォーラムの相田みつを美術館を貸切させていただいて、出版記念パーティーを開いたのですが、その時生まれて初めて、サイン会と握手会をしました。照れくさいのと、緊張で手が震えて相手のお名前を書き間違えてしまいました。興奮気味に感想を述べてくれる読者さんや、お花を持ってきてくれる読者さん、本を出す前は何のつながりもなかった方たちが今、目の前にいる。これはとても不思議な感覚でした。本は不思議です。
■本を出して、他に変わったことはありましたか
母校の大学から講演のオファーを頂いたのが、面白かったです。大学の方がたまたまぼくの本を読んで気に入ってくださって、著者について調べたら、「あれ、うちの卒業生じゃないか!」ということだったようです。テーマは『夢をかなえる方法』。本を1冊出したくらいで大げさなと思いながらも、喜んでお受けして。教授や学生200人の前での講演だったんですが、ぼくが学生時代にお世話になった教授もたくさん座っていたのが緊張しました。あとは、企業の講演や雑誌取材のオファーもいただけるようになりました。
■出版不況といわれ、本が売れない時代に、どうしたら売れるのでしょうね

新刊本が1日200冊も出版されていると言われています。そしてそのほとんどが本屋に並ばずに返品されていく。平積みされるのはごく一部だけ。 新刊でも棚に1冊ささるだけというのが普通の、大変厳しい世界です。ぼくの1冊目の場合は、なぜか広島や福岡の書店で火がつき、ラジオでも紹介され、全国にクチコミが広がっていきました。無名の著者ですし、出版社にも全然期待されてなかったのですが、クチコミの評判を聞いて「あれ、これはいけるんじゃないの」と出版社の営業サイドも本気になってくれ、新聞の広告やキャンペーンを打ってくれました。
1冊目の『ハッピーリセット』は、じわじわと4万部ほど売れています。もちろん、何十万部も売れているベストセラーからみれば、小さな数字ですが、4万人の人が自分の本を持っていると考えると、すごい。例えば、400人乗りのジャンボジェット機が100機ずらーっと並んでて。その乗客全員が自分の本を持っているのを想像してみると、おお~と思います。本を1冊出すだけで、人生は面白い方向へ変わっていくもんだなと実感してます。
◆今回の講座で伝えたいことは何ですか
自分の出版だけでなく、他の著者の本をプロデュースしベストセラーにしたノウハウなどもお伝えしようと思います。本を1冊書きあげる労力は大変なものですし、売れるのはもっと難しい。でも、自分の頭の中でしか存在しなかったアイデアが本という物体として現れる達成感と、読者さんからフィードバックをもらったときのエクスタシーは何にも変えがたいものです。
書いてるうちは自分だけの本なのですが、それが出版されて何万人もの人がその本を持つと、「みんなの本」になっている。そして、どこか知らない街の、まだ会ったことのない人が、自分が書いた本を読んでいる。これはなんとも照れくさいしむずがゆくなるけど、幸せを感じます。ぼくは書くのが遅いので、スピーディーに本はだせないですが、ゆっくりでも良い本をつくっていきたいと思っています。
これからは、出版のありかたも大きく変わっていきます。次世代の出版、文筆家の働き方についてもお伝えできたらと思います。自由大学でどんな方々にお会いできるのか。同じ興味をもつ仲間が集まれば、面白いことが起こりそうでワクワクします。
【教授プロフィール】
深井次郎
文筆家/コミュニケーションディレクター。
1979年9月9日生まれ。大卒後、IT系上場企業に入社。初任給50万円の新卒社員として、全国紙等でも話題に。トップクラスの営業成績を挙げ、人事部に異動後、採用責任者として8000人の選考に関わり、就職人気企業ランキングを1年間で2倍に上昇させる。
2005年25歳で独立し、コミュニケーション・コンサルティングを行うオレンジ有限会社を設立。2006年『ハッピーリセット』(大和書房)が全国 TSUTAYAチェーン年間ベストセラーランキング第4位(心あたたまるエッセイ部門)に選出される。『自信サプリ』(廣済堂出版)、 『だからあなたが選ばれる』(大和書房)、『どんな仕事も楽しくなるすごい!法』(三笠書房)では執筆だけでなく、脱力系イラストも手がけるなどクリエイティブワークは多岐にわたる。2009年、30歳を目前に会社を譲渡し、人生をリセット。再びゼロからフリーランスとして活動開始。
現在、書籍の企画プロデュース、雑誌での寄稿や監修、広告のコピーディレクションのほか、全国の企業や団体で「文章表現とクリエイティビティ」の講座を手がける


カテゴリ: ☞ コラム


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