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アイデアを公開する人、秘密にする人:前回のお話はこちらから
たしか寺山修二のエッセイだったか。こんな悲しい小話が載っていた(気がする)。


戦前のこと。ひじょうに数学の才能のある優秀な子がいた。先生は「君は才能があるから、上の学校にいきなさい」とすすめたが、その子の家は貧しくて、進学することができず、小学校を卒業しただけで、家の農業を手伝うことになった。


それから二十数年の歳月がたち、先生が田んぼ道を歩いていると、野良仕事をしていた壮年の男が喜び勇んで先生のところにやってきた。その男は、かつての優秀な教え子だった。
「先生、私は数学上の大発見をしました!」
彼は、ズボンのポケットからその式が書かれている手帳をとりだして、先生にみせたのだが、それをみた先生は流れる涙を止めることができなかった。そこに書かれていたのは、ただの連立二元一次方程式だった。


中学に進んでいれば、だれもが教わる方程式。しかし彼は周りの人に自分のアイデアを発表したり、質問する機会がなかったので、二十数年もこの方程式に費やしてしまったわけだ。
彼の本来の能力と、そこに至るために費やされた大いなる回り道を思うと、先生には彼にかけてやる言葉がみつからなかったことだろう。
1人の頭でうんうん考えていると、この悲しい生徒のようなことになる。自分では世紀の大発見だと思っていても、すでにみんなに知られているということもある。
逆に、自分では凡庸なアイデアだと思っていることも「そんなの初めて知った。感動した!」ということもある。人に発表する機会がないと、この辺の感触はわからない。
三島由紀夫も、文章を書く前にそのアイデアをいきつけのバーでみんなに話してみて、反応をたしかめ好感触なら、それを文章にした。
僕も「自分の本をつくる方法」ワークショップの後になるべく参加メンバーみんなでご飯を食べたり、お酒を飲んだりしている。これは、ただ僕が暇だからというわけではなく(それもあるけれど)、みなさんがアイデアを発表したり、もんだり、こねくりまわす場として、活用していただきたいという意図があるからだ。
あなたも、気軽にアイデアを発表してみてはどうか。腕試しに、次回6月26日(土)のレクプラに出てみるのもいいだろう。まだ出場者の枠は空いている。どなたでもエントリー大歓迎だ。 (了)
text : 深井次郎 @ 自分の本をつくる方法


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