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未来はエゴのない社会に向かう

創立者 KUROTERUに聞く「自由大学のこれから」



人々が協調して暮らす都市・ポートランド

 深井:この9月に自由大学恒例の「CREATIVE CAMP in ポートランド」が開催されます。少し未来の働き方、暮らし方のヒントを現地で体感してみんなで探るわけですが、30年以上足を運んできた黒崎さんから見て、現在のポートランドはどんな都市でしょうか。

黒崎:ポートランドは天国ではないけれど、「エゴが少ない社会」という点が魅力。土地や建物の所有者が誰だとか、成功したのは誰の手柄だとかは重要ではないのね。アメリカならではの寄付文化も深く根付いていて、各自が持っているものをシェアする意識が高い。

世田谷区より小さい街なのに、世界的に影響力を持つ会社がいくつもあって、かつ個人が望む働き方ができている。お金持ちでも自転車で移動するような、趣味の良い、人間らしいという意味での贅沢さがあって。そういうポートランドの価値観は粋だなと気に入っています。プール付きの豪邸に住んで、高級車を乗り回すみたいな資本主義社会の価値観の次があると思う。

ただ、悪くなっていることも。ポートランドの評価が上がるほど、土地の値段が馬鹿みたいに高くなって、地元のデベロッパーが手を出せなくなってしまった。ヒッピーが生み出したポートランドにも、資本主義の巨額なお金が流れ込んで来ました。

ポートランドが手本になるか、と言えば、真似をする必要はないと思うけど、少し未来の都市のあり方として参考になるでしょう。「みんなで仲良くする」社会ができているよね。資本主義でもなく社会主義でもなく、Working Together を実践している都市であるところが魅力的かな。

深井:学ぶために必要な姿勢は何でしょうか。


黒崎:常に問い続けることでしょう。それには好奇心が必要で、いつも無邪気に、子供のような好奇心を持っていなくちゃいけない。学習はデータベースを頭に詰め込むような行為ですね。でも僕が必要だと思うのは学問。問うを学ぶこと。それを諦めずに追求していくのが重要で、それが「自由」なんですね。そういう人が学ぶ場が自由大学でしょう。ぼくらは「それ面白いんじゃない?」ってのを拾っていく。

お金がたくさんあって、何でもできれば自由だと考える人も多いけど、それは自由ではない。手にしたお金を失いたくないからと、縛られて窮屈な暮らしをしている人はたくさんいるんだよね。

ゆとり教育の失敗は「休みに何をすればいいかわからない」ことへの対処ができなかったこと。自由の扱い方がわからないのに時間が与えられ、でも何をすればいいかわからないから、何も得られない。働いていても同じだね。働き方改革で「残業しなくていい」と言われて、時間を持て余している人はたくさんいる。仕事がある、朝9時に行く場所があることは実は楽なんです。自分で決めなくても、考えなくてもいいから。どこに行けばいいかわからない人が多いなと感じるね。


深井:やりたいことがないと、ゆとりを持て余してしまうんですね。逆にやりたいことがある人は、どんどん独学でも進めていく。黒崎さんも美大出身でもないし、デザインも独学ですよね。


黒崎:学びはすべて独学じゃないかな。先生から学ぶ、つまり先生の持っている知識をトレースするのがこれまでの学習だったわけです。先生がいたとしても、それを自分なりに解釈して自分のものにしなくては学びにならない。「文句を言わずに先生の言う通りに学べ」というのが日本の学校がやっている学習ですが、僕はそれに反発してた。だからずっと独学を続けています。

 

お金は社会への貢献を通して得られるもの

深井:黒崎さんは学生から就職せずにいきなり独立されたわけですが、「組織づくり」を学んだことはないんですよね。それでも300名規模の組織にできた。マネジメントの経験がないのにできてしまうのは、これも独学の力でしょうか。


黒崎:修行のために大企業に入るという考えもあるけど、新しいものを作るときにそんな模倣はしないほうがいいかな。「会社とはどんなものか」を問い続けることは、中に入らなくても外から注意深く観察していればできます。世の中の成功や失敗を観察していれば、「だったら自分はこうしよう」と決めることができるじゃない? 僕の考えとまったく逆の思想で成功している会社もいっぱいあります。自分の価値観とは違うけど、うまくいっている会社のことは、無視したりせずに観察しているようにしています。「なんでうまくいっているのかな」って。


深井:ぼくも25歳で独立してからは特に、外からどんなビジネスを見ても勉強になります。うまくいっている人にはランチをおごって話を聞かせてもらいます。みんなが自分の代わりに時間とお金をかけて実験してくれてるととらえると、まわりを観察しない手はないですよね。黒崎さんは世の中の働き方の変化について、気になることはありますか?


黒崎:いつもずっと働き方については考え続けているのね。働き方は生き方につながってくるし、自由大学も働き方がテーマでしょう。

まず、働くことを「就職する」ことに矮小化しているのが日本の不幸ですよね。名のある会社に勤めているか、正社員か非正規かなどを重視することで自分で自分を労働者にしてしまっていますよね。時給がいくらだとか、週何日働くとか条件はどうかって。他人と比べて待遇が良いか悪いかでしか考えない。

利益が生まれたらそれをみんなで分配すればいいだけで、考えるべきは「どう利益を生み出すか」なんです。会社の看板とか名刺の肩書のために働くのではなくて、社会に貢献することで対価としてお金が戻ってくる。価値を生み出すのが働くことなんじゃないかと。

出版に例えたら、目的は本を出してみんなに読んでもらうことなのに、どこの出版社から出して、何万部刷って印税はいくらでと条件を考えて、大手の出版社から出したい。だから、その出版社で本を出せるようにアピールしようって、本末転倒だよね。大手だから売れる時代は終わっていますよ。


深井:僕の講義(自分の本をつくる方法)でも、出版の方法は1つではないと伝えています。出版社に力があり、全部やってくれる時代は終わっていて、著者が企画やPRも主導権を持って動かないと何も生み出せない時代になっていますね。

創造力が問われる時代

黒崎:本を作って売ることで得られる利益はたかだか知れているでしょう? でも例えば『TRUE PORTLAND』を出版すれば、本を作る過程でポートランドへの理解を深めることができる。お金では測れないけど、それは資産だよね。

「会社は大きいほうがいい、社員は多いほうがいい」というのはもう古い感覚になったいる。昔やっていたIDEEという会社は300人ぐらい社員がいて、50億売上があってという状況でした。働き口として人気が出て、新卒採用は10人募集の枠に1500人が押し寄せるような会社になってしまった。

僕は最終面接にだけ参加するんだけど、4次5次になったら面白い人はふるい落とされてしまうんですよ。それはつまらないなと思って、今いくつかやっている会社は、入社試験みたいなものは設けていません。集まってきた人が、面白いな、いいなと思ったら採用するようにしています。

「大きな会社が良いものを生み出せる」という時代は終わりました。日本はまだ経営者もサラリーマンだからその風潮は残っていますけど。何かあったとき責められないように、イケてなくても安定感のある大企業に発注しようとする。

CREATIVE CAMP in ポートランドでは毎年NIKEを訪ねているけど、NIKEは大手の広告代理店から離れています。小さくて名前はまだなくても、活きが良いイケてる若いクリエイターを使うようになっている。企業の価値はクリエイティビティで決まる時代。ナイキをどう世に発信してくれるかが重要であって、相手の組織の大きい小さいは本来関係ないよね。

僕の経営しているMEDIA SURF はすでに実践していて、たとえば大手町にあるシェアオフィスにStockholm Roast TOKYO が店を構えましたが、コーヒーを軸としたコミュニティづくりを期待された仕事です。無名でもイケていて、新しい風を吹き込んでくれそうな存在と評価されたわけ。社会全体をいきなり変えようというのは大風呂敷すぎるから、僕の周辺から、できることから変えていきたいね。

「働く」と「暮らす」の距離は近くなる

深井:結婚とか子育てとか、家族と仕事の両立も関心が高まっていて、新講義を準備しています。


黒崎:
MEDIA SURFには、4人子供がいる潤平というメンバーがいて、夏休みの時期は子供を連れて出社しています。彼は共働きですが、奥さんの会社も理解があるから、子連れ出社ができる。彼らの場合は環境に恵まれているとは言えるけど、社会全体がこういう方向へ変わっていくべきじゃないかな。夫婦だけではなくて、みんなで子供を育てる社会になったほうがいいし、うまくいくんではないですかね。

これから結婚とか、家族のあり方も変わっていくはず。その変革の中で、生きるための学びを自由大学でつくれるといいですね。

 

文:むらかみみさと (ORDINARY)
写真:YUKI (ORDINARY)


カテゴリ: ☞ コラム

タグ: ☞ 黒崎輝男


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