ブログ

植物を治すという仕事

現在第3期を募集中の『新盆栽学』の教授塩津丈洋さんに、「根」を知ろうとすることなどのレポートをしてくださった藤代雄一郎さんが、植物との関わり方や仕事観についてインタビューし、ご自身のサイト「ボクナリスト」にまとめられているのですが、良い記事なので一部ご紹介します。

盆栽と言うものは、年配の方が松の木をチョキチョキしているイメージが強く、縁が無いと思っている方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、実際に「盆栽」という日本ならではの不思議な美意識に触れると、その印象は大きく変わります。


僕はその盆栽というものに触れ、植物の繊細さを知り、正直怖じ気づきました。自然と人間の間にある、今にも壊れてしまいそうなバランスそのものに気づいてしまったのです。しかしそのバランスを、自分の手で少しづつ変えていこうとしている人がいます。
塩津丈洋さん。僕に盆栽の魅力を、そして自然の繊細さを教えてくれた同い年の盆栽職人。彼の言葉と志を、今一度ゆっくり見つめ、この場で少しでも多くの人に伝えたいと思います。寒さが厳しくなるなか、仕事場である「塩津丈洋植物研究所」へお邪魔しました。

お花が枯れてしまった時の受け口になるような場所があったら良いなって。
━━ 病院?
はい(笑)。不思議に思われるのですが、そこに自分はこだわっていて。こんなこと言うのは何ですけど、植物ってそんなに自分たちと変わらないものなんじゃないかって思ってるんです。
で、どんなレベルまで「病院」ってあるのかなって調べたら、やっぱり動物までなんですよね。人間向けはもちろんあるし、水族館だったらイルカや魚たちもあるし、ペットショップだったら犬や猫もある。動物園に行けば、パンダだってライオンだって注射打たれたりして、獣医がいるじゃないですか。
━━ はい、資格をもった獣医さんがいるわけですよね。
で、植物になると、明治神宮の大楠のような国の保存樹等を治療してくれる樹木医と呼ばれる方達がいます。だけど例えば、家のベランダの小さなプランターのひまわりが枯れかけてますっていう時に、来てはくれないと思うんですよね。
何年も飼っているわんちゃんの体調が悪くなったら放っておかないと思うんですよね。でもベランダのひまわりが枯れかけても、なんとか必死に手を施す人なんて10人居たら1人居るか居ないかだと思うんですよ。もっと言うと、100人居てもなかなか居ないんじゃないかって思うんです。それが普通だし「植物ってそういうものだ」という風になってるじゃないですか。
━━ 僕も枯らしたことがあります。手の施し方が分からなくて、諦めてしまって。
ですよね。じゃあそこの境界線って何なのか?って考えると、それはアヤフヤだし、誰かが線引きしたわけじゃないけど「そういうものだ」ってみんながフワ~っと思ってるだけなんですよ。だから、そういう仕事をしている人は居ないんです。でも自分はそれが嫌で、「どういうことなんだろう?」って気になっちゃって。
━━ なるほど、そういう視点で…。
自分がこういうことやってるのも、単純に「植物が好きだ」っていう理由だけなんですよね。別に深い意味もなくて、植物が好きだからこういうことをやってて、植物が好きで仕事にしていこうって考えたときに気付いたのが「植物の病院」ということなんです。いつも疑問から発生してるんですけど、すごいんですよ、日本のお花屋さんの数とか。
━━ 多いんですか?
東京だけで何百店とあるんですよ。お店はそれだけあって、そこにお花が数百円~数千円で飾られて売ってるじゃないですか。「綺麗だな」って思って、買って帰って。でもそれを誰が最後まで面倒をみるのか?て思うと、売ったのは良いけど、買った人は最終的に枯れかけてしまったお花をお店に持って行かないですよね。
━━ そうですね。全然「お店に持って行く」という考え自体がなかったです。持って行かないですね。買った時点でその人自身のものになって、最後の責任もその人次第っていう感覚があります。
ですよね。そうなったときに「じゃあ自分が責任をもってみたら良いんじゃないか」って思ったんです。
━━ なるほど。
植物を育てる人ってたくさん居るんですね。でもやっぱり「治す人」っていうのは基本的には居ない。農大だったり研究者の方々でやってる人も居ますけど、「電話一本」で自転車で来てくれるような人って居ないんですよね。でもそういうメンテナンスが何よりも大切だと思っていて、今の仕事を「病院」と言って、活動しています。

(中略)
植物が元気無くなったときに「治すのが当たり前」という世の中にしたいんですね。植物研究所というのをやっていて、「どうやったら植物と人間が共存していけるのか?」ということをずっと考えてきているんです。道路沿いに植えてある街路樹って、排気ガスとかの影響で寿命がすっごい短いんですよ。本当はもっと生きるイチョウの木が、幹を擦ると手が真っ黒になるくらい汚れているんです。人間の環境に「適応している」のではなくて、人間の環境に無理矢理「当てはめられてる」んですね。そうじゃなくて、もっと違うアプローチがあるはずなんです。「花キューピット」のような形態ってすごく良いと思ってるんですが、あれってどこでもネットワークがあるじゃないですか。それを模倣して、変かもしれないんですけど「植物の治療団」みたいなのを作りたいんですよね。自分1人では賄えない部分を、ネットワークで解決していく。日本中にそういう人が散らばっていて「植物は治すのが当たり前」という世の中を実現するためには、そういうことが必要だろうと、色んなことを考えてますね。


ここではインタビューの一部を紹介させていただきました。
全文は「ボクナリスト」サイトに掲載されています。是非ご覧ください。


講義情報:
『新盆栽学』 育てよう緑の小宇宙、盆栽の世界。
教授:塩津丈洋 キュレーター:明石優


カテゴリ: ☞ コラム


関連するブログ