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起業家にとって最高の学びの場とは

西村琢さん「プレイフル起業学」教授【学長対談】


自由大学で活躍されている教授をお招きし、学長の深井次郎(左)がその生き方や考え方を訊く対談シリーズ。今回は、新講義「プレイフル起業学」がスタートした西村琢さん(ソウエクスペリエンス代表)が登場。一度も就職せず起業し14年。経験してきたからこそわかる、起業したい人にとっての初めの一歩とは?

深井:琢さんとの出会いは、自由大学がスタートした10年前。いつも楽しそうでごきげんなのが印象的で、周囲も笑顔が絶えません。自由大学創立と同時に、「未来の仕事」を開講し、たちまち人気講義になりました。

今回はさらに「起業」に特化し、アップデート。この『プレイフル起業学』はリリースしてすぐに満席になり、キャンセル待ちが並ぶほど。期待度の高さが伺えます。起業は座学で学ぶものではない、という意見もあると思いますが、講義ではどんなことを伝えていきたいですか。

西村:すでに興味がある分野や事業が決まっている場合と、そうではなく、起業したい、ビジネスをしたい状況なのかで、学ぶ優先順位は違うと感じています。「事業テーマ」と「ビジネススキル」は両輪です。起業も基本的なスキル、どんな分野にも通用するビジネス的な「作法」はあります。たとえばビジネスの基本は「安く仕入れて高く売る」ことですが、この利益の出し方のアプローチのように、ビジネスを立ち上げる、うまく回すためのセオリーがいくつもあるものですよね。

同時に、自分が何を大切にしていて、興味関心を持っているか。つまりビジネスとして取り組みたいテーマも必要です。「テーマが絞れているか」と、「ビジネススキルがあるか」。この両輪が満たされていれば、比較的スムーズに起業が回り出すと感じています。どちらかしかない、あるいは両方ない場合は探したり、学ぶ必要がありますよね。

深井:琢さんと同じで、ぼくも学生時代から独立志向でした。修行のために新卒ではいったん上場企業に就職しましたが、師匠である創業者のすぐ近くで、現場で学んできました。ただ「25歳で起業する」とだけ決めていたものの、何をやろうか。テーマがなかなか決まらなくて…。「アントレノート」に考えたビジネスアイデアを書き溜め、師匠から毎週フィードバックをもらえるのですが、これだ!というテーマを絞るのに苦労しました。見つけ方のコツはあると思いますか?

西村:テーマを何に絞るかに時間がかかる人はいますね。分野の他に「規模感」という側面もあります。たとえば「服を作って売る」というビジネスを考えたとして、小さなブランドを立ち上げるか、ユニクロを目指すかでレベル感が大きく違いますよね。社会にインパクトを与える事業か、小商いなのか。規模は大きくなく一般的には無名でも、熱狂的なファンが付いているファッションブランドなども最近は数多く出てきています。

深井:自分の志向する規模感を知ること。「会社は社会の公器だから、起業家は基本的に上場を目指すべき」という哲学を師匠から学んできたので、当時は「大きなインパクトを与えられるアイデアしか価値がない」と思い込んでいて。今思うとそれがブロックになっていたのかもしれません。向き不向きがあって、自分の場合、目の前の顔の見える人を喜ばせる小さなアイデアは出しやすいけど、万人に支持され世界を変えるような大きなアイデアになると途端にイメージしにくくなるんです。手作りとか、小商いが向く人も多いはず。琢さんはビジネスを立ち上げるとき、「事業の規模感」はどのくらいを狙おうと想定していましたか?

西村:どちらかというと小商いというよりは拡大路線でした。経済的に成功したいのも当然あるのですが、「自分の仕事を普遍的なものにしたい」という思いはずっと持っています。チキンラーメンやスーパーカブ(HONDA)など、世の中にあって当たり前、のちの定番の商品になるようなものを生み出したい。

とはいえ業界、市場によって、サイズの適正規模はあると思うのですが、どの程度まで最大限、大きくできるかはチャレンジしたいと思っていました。当初は、誰も「体験ギフト」など知らないわけで、ゼロからイチにするのに苦労する段階でした。ただ、やるからには「体験ギフト」のポテンシャルを最大限引き出したいという気持ちでやっていました。

深井:事業規模の決め方に法則はあるのでしょうか。

西村:自分がやるべきことの、やるべきサイズや形態、自分がそれをしたいかの掛け合わせなのかなと。ある程度、合理的に決めていい気がしています。僕はベンチャーがすべてとは思っていません。個人でライターをやるのも、町の洋食屋も、企業経営で上場するのも、商売とか自己表現という点ではどんな働き方でも平等だと考えています。

深井:本人が満足していることが重要で、大きさがすべてではないですね。お金や名誉などの社会的成功だけが成功ではないという。

西村:上場しなくても、「10年企業が生き残る」ということ自体、価値があると思います。事業として跳ねたかという視点以外で、会社として継続しているということは少なくとも誰かに一定の価値を提供している証左なので。

深井:何かしらの価値を提供できていなければ、続けられないですもんね。

ところで、「体験ギフト」の事業アイデアは、すぐに見つかったのでしょうか。

西村:時間はかかったと思いますよ。大学を出て一度も就職せずに起業しましたが、最初はゴーカートを使ったレジャー事業を検討していました。「身体性を伴う面白い体験」が自分の興味関心あるテーマだったのですが、ただゴーカートが商売として大きくなる可能性があるのか、はたして稼げるのか、もどかしさは感じていました。とあるときに「体験を贈る」という文化がイギリスにあることを知り、面白いなと感じました。ビジネスとしてもこれは筋が良いのではないかと。

深井:なるほど、テーマは見つかった。もう一つ、ビジネスとして成立させる知識やスキル、「作法」も重要ですよね。作法の部分はどうやって学びましたか?

西村:当時はまだ学生でビジネスをした経験がなかったので、本を活用しました。ビジネス書とかお金の本とか、ギラついているイメージもありますが、そういう知識も大事だと思うんです。どうやって利益を出すかとか、稼ぎ方を知っているのと知らないのでは、ぜんぜん違う。大量のインプットは効果があります。もちろん本を読んだり話を聞いて「やった気になる」のはよくないかもしれないけど、アクションをしていく中で「あれはそういうことだったのか!」と知識が身体性をともなって腑に落ちて、血肉になっていく。まだ経験のないことでも、大量の知識や事例がインプットされていれば、かなり想像で補うことができますよね。頭の中でシミュレーションし、疑似体験してきた場数があるから、成功の確度は高まると思います。

深井:自由大学の前身であるスクーリングパッドに参加した動機はなんでしたか? なにか事業で課題があったのでしょうか。

西村:明確に何かを期待したというよりも、「黒崎さんって面白い人だな」という関心がスタートでした。これが一番の理由で、IDEEの経営を退かれたタイミングでもあり、「なにか面白そうなんじゃないか」と感じたのが一番の動機です。自分たちの見えている世界とは違う世界が見えるんじゃないか、という。スクーリングパット以外でも、当時から話したいなと思った人にはフットワーク軽く会いに行ったりしていましたね。

深井:会いに行く。行動に移すと、何かが動きますよね。ぼくも自由大学プロジェクトに参画するそもそものきっかけは、当時IIDに入居してた内沼晋太郎さん(NUMABOOKS)の紹介なんです。同世代の新しい出版の活動家として注目の内沼さんに初対面でしたけど押しかけて、ビジネスアイデアを相談に乗ってもらったんです。「次は出版社か学校をつくりたい」って話をしたら、「そういえば黒崎さんが自由大学構想を話してて。イメージが近いかも」と。起業家って、基本みんな太っ腹に話してくれたりするじゃないですか。企業秘密みたいなことも教えてくれたり。やっている人に直接連絡して会ってもらう、一緒に働かせてもらうというのも吸収する方法としていいかなと感じています。

西村:特に学生や若者は、そういう意味でチャンスが多いですね。無垢だし、警戒されないし。バイトで始めてノウハウを学ぶことができ、もしその会社が合えばずっと働くこともできますし。

深井:「未来の仕事」の講義も実施されていましたが、これからの働き方はどうなっていくでしょうか。

西村:起業するかどうかは置いておいて、SNSで自分が知っていることを発信したら、サラリーマンぐらいのお金を稼ぐこともできるし、人脈もできる手段があります。求人情報で勤め先を選ぶことを否定はしませんが、自分で何かを始めて稼ぐことも可能な社会になってきている。インターネットによって情報の発信・収集手段の民主化、課金手段の民主化がもたらされ、それが起業の民主化を後押ししていると思います。

「自分の興味関心を追求することで、商売になる、仕事にする」という考え方が、もっと広まっていけばいいですね。そこにビジネススキルや知識を取り入れることで、端的に言えば経済的にもしっかり回すことができる。今回の「プレイフル起業学」でもこの経済的な視点は持っています。

深井:「起業はリスク」と敬遠する人もまだまだ多いけど、大きな借金して人生かけて起業しなくても、会社員をやりながら複業的に、小商い的にはじめることもできますよね。

何も準備していない人に比べて、基本的な起業知識は身を助けます。今回の講義は、各人の「テーマや興味関心の発掘」と「ビジネススキルの獲得」のどちらを重視していますか。

西村:参加メンバーの状況によると思います。学びの種類とアプローチが違うというか。テーマや興味関心は他人から教えられるものではないですから。教えるのではなく、引き出す必要があります。その人がどんな人生を送ってきたかを掘り下げることでわかるので、対話してテーマを引き出さなくてはいけない。

ただ、半年という限られた期間でビジネスを立ち上げることを目標にしているので、なんとなくテーマが決まっているか、迷っていても決める勇気を持っている人がいいと思います。決めた内容の善し悪しは置いておいて、まずは決めないと先に進めないので。

深井:他の可能性を絶たなくてはいけないので、決めるのは勇気が必要ですよね。ぼくも3年間決まりませんでしたが、独立する期限が来たので「ベストじゃないけどベターな案」で決断しました。優柔不断な人は、締め切りがないと進まない。

ただ、これだ!と決めたアイデアが、いざ始めて見るといろいろ見えてきて方向を変えピボットするケースも多いですよね。初志貫徹に縛られなくていいし、そこは柔軟に。どんなに机上で起業を学んできた人でも、失敗はつきもの。致命傷を負わない、トラウマにならない程度の失敗をくり返しながら、みんな事業を育てていくんですよね。

西村:学びとアクションをつなげることが必要で、それを講義で実践したい。行動につながらない学びは意味が薄いですから。

深井:この6ヶ月はアクションするための期間だと考えています。インプットした上で、行動につなげる講義にしていきましょう。メンバーのみなさんの今後が楽しみですね。

プロフィール

西村琢(にしむらたく)
1981年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学経済学部卒業後の2005年、ソウ・エクスペリエンスを設立し代表取締役に就任。「クリスマスプレゼント」にすっかり定番になった体験ギフトに加え、今年もいくつかの新しい提案をご用意しています。

深井次郎(ふかいじろう)
自由大学学長。2009年自由大学創立から参画し、多数の講義を生み出し新しい時代の学び方、働き方を提案している。1979年生まれ。現在、教授をつとめる「自分の本をつくる方法」(第52期 平日昼間)を募集中。

 

文:むらかみみさと 撮影:YUKI(ORDINARY)



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