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「好き」が未来をひらいていく – お菓子作りが仕事になるまで –

FLY_61|遊馬光季さん/Chez Mikki オーナー

お店をはじめるラボ』を受講後、世田谷に工房を開業しオリジナルのお菓子を製造・販売している遊馬光季さん。子供の頃からの夢をどのように実現していったのかお聞きしました。好きなことを仕事にしていくこと、夢を具体化して行動力で現実にすること。自由に働き生きるために、誰かをトレースする必要はなく、自分で切り拓くことができます。


 

現在パティシエとして自分のお店を持たれていますが、ずっと製菓一筋だったのでしょうか?

小学生の頃からお菓子作りが好きでした。母親に習ってというわけではなく、レシピ本を図書館で借りて自力で作りはじめました。最初はかんたんなものから、美味しくできたり失敗したりくり返しながら、「いつか自分のお店をひらく」という漠然とした夢は持っていました。大学は製菓学校などではなく文学部に入ったのですが、在学中に休学してフランスに留学したのが転機になりました。語学習得が一番の目的だったので、まずは語学学校に半年通いました。でもフランスはお菓子の本場でもあるので、製菓の勉強もしようと考えて残りの半年は製菓学校に通いました。留学期間を通して、「お菓子作りを仕事にする」ということが具体的になりました。自分にできそうだな、とピンときたんです。ただ、1年の留学では物足りなさを感じて、大学卒業後にワーキングホリデーでもう一度フランスへ行くことにしました。正式にフランスの製菓学校を卒業して、2軒のお店でパティシエとして働きました。最初はパリ市内のパティスリーでした。それまでホテル専属の人気シェフが自身の1号店をオープンすることを知り、すぐに志願し、運良く、卒業後勤めることができました。2軒目は、老舗のオーベルジュへ旅行へ出かけた時に一目惚れしたレストランです。その場でスタージュ(研修)をさせてもらえるか交渉をしに行きました。体力勝負の仕事だし、キッチンはチームワークが重要なので、その点が最初は大変でした。言葉も一通り習得はしていましたが、学校のフランス語と現場でのフランス語、若い人の言葉も違うので、頭も体もとても疲れました。働いていた期間はトータルで8か月くらいと短かったですが、この2軒での経験は今でも自分の中でとても大きな力となっています。日本では製菓学校に通ったことはないので、製菓についてはフランスですべて学びました。

 

日本に戻って来てからも、製菓店やレストランなどで働かれたのですか?

帰国後は小さいパン屋さんで1年ほど働きました。ここで一通りパン作りについて学び、他にも仕入れとか原価計算とか、今もお店で役に立つ知識を得られました。パン屋さんを辞めた後、思い切って開業準備に集中することにしました。本当は働いているときも、「自分で店をやる」というイメージは持っていたので仕事のかたわらで準備を進めようと考えていましたが、まったく時間を取ることができなくて。拘束時間も長く体力もとても消耗するので、片手間では難しいとわかったので、働きながら中途半端に延び延びになるよりは一回自分の店をひらくことに集中することにしたんです。もし無理そうなら、好きなお店で働けるチャンスを見つければいいかなと思いました。

この時期に、自由大学の『お店をはじめるラボ』を友人が紹介してくれて受講しました。自分の中では開業することをほとんど決めていたのですが、あとひと押しが欲しいところだったんです。講義に参加したことで自分の中で明確にしなくてはいけないことがわかりました。経営や、お金のことは少しだけアドバイスを貰えば、自分でいくらでも調べられるということ、それよりも、実際にお店をされている方からそれまでにあった経験談をたくさん聞けたことが貴重で、とても勉強になりました。受講前の想像とは少し違いましたが、頭に残る話が多く、今もそのときの話を思い出すことがあります。

Chez mikki でオススメのタルトフラン。カスタードクリームをパイ生地流し込んで焼き上げたフランスでは定番のおやつ

 

受講した後、どのような経緯でこちらの工房をオープンされたのでしょうか?

『お店を始めるラボ』を受講したのは2015年の年末ぐらいで、この物件が決まったのが翌年の4月頃です。大きなきっかけとしては、講義の同期が新宿のNEWoManで半年間、『マインドリップコーヒー』というポップアップショップをやることになったことです。そこでコーヒーと一緒に提供するお菓子を作ってくれないかと声をかけてもらったんです。やりたい気持ちは大きかったんですが、場所がないと難しくて。工房の準備が間に合えばという話をして、結果的に運良くこの物件と出会うことができました。

初めから馴染みのある世田谷や渋谷の方で物件を探していましたが見つからず、都内の東のエリアなども見て回ったのですがしっくり来なくて。ダメ元で再び近所の不動産屋さんへ行ったらこの物件を紹介されたんです。ここなら、町の雰囲気とか、どこに何のお店があるかとか土地勘もあるのではじめるには最適な場所だと直感しました。2016年の4月頃物件が決まって、内装業者の方と相談しながら什器など決めていきました。

諸々準備や工事が入って、5月のGWにここをオープンしました。メインは工房として、「お菓子を作る場所」でしたが、毎日のようにここで作業をしていると、通りかかる人も「ここで買えるの?」と覗いてくれるようになって、夏前くらいに本格的に店頭でも販売をはじめました。少しずつこの場所に定着してきたことを日々感じています。開業準備期間中は、物件を探したりどんな店にしたいか考えて調べ物をしたりしていました。その間働いていなかったので、同世代の友人は会社勤めなどしているのを考えると、遅れてしまう感覚というか、「働いていない」状態への不安はゼロではなかったですが、両親や親しい友達も応援してくれていたので取り組むことができました。

 

このようにお店という場所を持ってよかったことはありますか?

物件を探している時に、ピンとくるところがなくて、予算を考えてもマンションの一室という形になりそうでした。そうなると、室内にこもっての作業となって、仕事も今ほど楽しめなかったかもしれません。偶然ではありますが、対面販売もできるような工房を持つことができて、近隣の方との繋がりもできました。また、場所があることで、生産できるだけじゃなくて居場所があるのはいいことだと思います。信頼にもなりますし、出会った人たちが「ここに行けば買えるんだ」という場所を持っていることは意味のあることだと思っています。お店を持ってからこれまでイベントで出会った縁や、たまたまお菓子を手にとってくださった方、人づてに紹介いただく形で販路を広げているので、これからも出会いと縁を大切にしたいと思っています。

お店で一番人気のあくまのクッキー。ホワイトチョコとマカダミアナッツのチャンククッキーで、食べだしたら止まらないというのが名前の由来

 

今後のお店の展望はありますか?

お店は今年で3年目に入りますが、まだお店としても、私自身の人生としても途中の段階だと思っています。3年目に向けて、どういう風にしていくかを考えていきたいです。長期的にはっきりと「こうしたい」というのはまだなく、模索中ですが、お店や営業スタイルは変わったとしても事業を続けていくこと、絶やさないことが重要だと思っています。

そのためには変化も必要なので、年末にはじめて人を雇いました。これからは、自分が営業や打ち合わせなどで外に出ていくことが増えると考え、その間お店を守ってくれる人がいるといいなと思いました。それと、不思議なことですが、作業の効率はひとりがふたりになると、2倍以上の生産ができます。すると今までよりも多くの人にお菓子を届けることができます。もちろん人を雇うと責任が出てくるので、別の課題も生まれますが、この挑戦をプラスにしていければいいと思っています。

「お店をやりたい」というのが夢だったときは、お店を持って以降を想像できていませんでした。今その想像の中にいるので、その先に一歩ずつ出ていっています。

 

最後に、遊馬さんにとって「自由」とはなんですか?

一生懸命になれる何かがあることです。それは仕事でも趣味であっても良いと思っています。そういう意味で、今の自分はとても自由だと思います。そこで辛いことや大変なことがあってもそれは私にとっては足かせではありません。それはきっと次へ行くためのステップや、新たな目標を見つけるチャンスへとつながるのだと感じています。そういう中で、周りには支えてくれる人がいて、多くの人と出会えるチャンスがあって、つながりは広がっています。


プロフィール

遊馬光季(ゆうま みっき)

大学在学中のフランス留学をきっかけに本格的に製菓の勉強を始める。帰国後、再びワーキングホリデーで渡仏、現地のパティスリーやレストランで経験を積み帰国。その後、約1年間パンと焼き菓子のお店で働き、昨年5月にChez Mikki (シェミッキ)として世田谷に焼き菓子のお店をオープン。「贈りたくなるおかし」をコンセプトに、現在はネット販売や、カフェの卸、イベント出店などを中心に活動している。

関連講義:お店をはじめるラボ

文・撮影:むらかみみさと(ORDINARY

 



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