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自由大学の人気講義『お店をはじめるラボ』の卒業生、横峯智子さんが、2017年2月に家庭料理カフェ『tiny peace kitchen』をオープン。横峯さんの他にも、講義の卒業生がお店づくりに参加しています。講義で学んだことや経験を活かしながら、出会った仲間を力に夢を実現していく。自由大学が掲げる理念を実践する横峯さんに、お店のオープンまでの経緯と今後の展望をお聞きしました。

‐ 会社員を続けながら、『tiny peace kitchen』を経営されているとうかがいました
現在勤めている、株式会社ガイアックスの福利厚生から発展した新たな事業として運営しています。このお店をはじめる前に、福利厚生の一貫として社員食堂とケータリング事業を半年ほどおこなっていたんですが、五反田からこちらのビルに移転することが決まって、次のステップとしてカフェの構想が立ち上がりました。

「自社オフィスを人の集まるハブとして機能させたい」という会社の思いがあって、コミュニティの中で食は重要な要素なので、カフェという場が担う役割は大きいのではないかと考えています。このビルではみどり荘や自由大学などとも連携して『Nagatacho GRID』(永田町グリッド)を運営していますが、それと同じように、社会との接点になるのではと思っています。

‐『お店をはじめるラボ』を受講された動機は、飲食店をやりたかったからなのでしょうか?
お店を出すことが目標というわけではなくて、食を絡めて事業をつくることに関心がありました。私がどんなことに興味を持っているか知っている先輩が、こういう講座があるよと教えてくれました。受講したのは2014年の夏です。まだ表参道キャンパスがオープンする前だったので、IKIBAやMarche(国連大学)など場所を点々としながら講義を受けました。

そのときは飲食店をやりたいというよりも、私の中で、将来取り組みたいキーワードとして「サステイナビリティ」「心と身体の健康」「生産と消費のつながり」あって、それを事業化するヒントを得たいという気持ちでした。

受講当時は、まだ社会人2年目でしたが、留学や大学院を経てから会社に入社しているので、同期よりも年齢を重ねていました。漠然とですが、「30歳までに自分のライフワークと言える仕事に就いた上で、出産をしたい」という思いがありました。事業を作るということがどういうことか学びたくて、ガイアックスに入社したのですが、なんとなくイメージが湧いてきて、自分の想いで事業を作ってみたいという気持ちが強くなりはじめた時期でした。

‐ 受講されてからどんな感想をもたれましたか?
講義の中で、すでに事業をやっている方たちの話を聞いて、具体的なイメージを持つことができました。

教授の井本さんは『Brooklyn Ribbon Fries』というポテトフライのお店を経営されているんですけど、その初期投資と月額コスト、売上を見せてくれたんです。お店をつくるにあたって、仲間内のアイデアからどうコンセプトメイキングしていったか、デザインやブランディングについて、赤裸々に話してくれました。それが自分の中で大きかったです。

講義の最後に、こういうお店を作る、というプランを考えるのですが、その頃には自分が何をやりたいかイメージを掴み始めていたので、「もうやるしかない」という気持ちが強くなっていました。昔から、直感的に方向性が見えると一気に走り出してしまう人間でした。実際に、自分のやりたいことを実現している講師の方にたくさんお会いして、すべての講義が終わる頃には、気持ちが止められないところまできてしまいました。

そこで、勤めているガイアックスは大好きでしたが、ITベンチャーで飲食の仕事はできないよなぁと思い、「やりたいことがみつかってしまったので、残念ですが会社を辞めます」と伝えました。会社を辞めたら、飲食店でアルバイトをして修行をしながら、いつか自分のお店を開けるようになりたいと考えていました。

‐ すごい行動力ですね!反応はどうだったのでしょうか?
最初に話をした事業リーダーは、「その年ですでに人生をかけてやりたいことが見つかったなんて、俺は嬉しい!」と泣いて喜んでくれました。まだ2年目だったので、ふつうなら怒られたりたしなめられたりしそうなところですが、応援してくれたんです。それはすごく嬉しかったですね。

ただそこで、では辞めます、という話にはならなくて。いろいろな上司と話を重ねていく中で、「いきなり会社を辞めるのではなくて、まずは社内で実績を積んだらどうか」という、あり得ないほど光栄な提案をいただきました。私がまとめた事業プランについて、上司や経営層とディスカッションを行った結果、まずは福利厚生という立て付けで、ケータリング型の社員食堂をやらせていただくチャンスをもらいました。

それがこのカフェの前身となる「まいにち食堂」のはじまりです。2014年夏に『お店をはじめるラボ』を受講して、2014年秋に社員食堂をやることが決まりました。それから半年ほどかけて社内調整をおこなって、2015年夏に『まいにち食堂』をオープンしました。

‐ どんな社員食堂を運営されていたのでしょうか
当時のオフィスには食堂として利用できるスペースはなかったので、会議室をランチタイムだけ即席の食堂として利用しました。ランチョンマットを敷いて雰囲気を出して。
もちろん、調理できる場所もないので、私の実家の一室を改装してキッチンを作ってしまうことにしました。やるなら営業許可を取ってやりたかったので、小平市の実家で料理を作って会社に運ぶことを半年続けました。

‐ 調理以外にも細々とした仕事がたくさんあると思うのですが、ぜんぶご自分でされたんですか?
そうですね。配膳や後片付け、細々とした雑務もあります。食材の調達も、もちろん1人でやるのですが、農家さんに会いに行き、仲良くなった農家さんのところへ毎回足を運び、仕入れをおこなっていました。会社の休みを利用して、プライベートで友人を訪ねて秋田に遊びに行ったのですが、そこでも生産者の方を訪ねていって、調味料やお米の仕入先を探したりしていました。

半年間、ほぼ毎日早朝から深夜まで働き続けていて、とても楽しかったのですが、1人で長く続けていくのは無理だなと悟りました。何よりも、自分1人でやれることの限界値が見えすぎていて、早く仲間を増やして、みんなでお店を作れるチームを作りたいと考えるようになっていました。

‐ 調理もご自分でされていたんですね。食、料理という興味が強いのでしょうか?
「健康的なごはんがもっと気軽に身近に食べられる世の中になったらいいのに」という想いが強かったので、昔から食に関する興味は強かったと思います。自分が安心できる素材でごはんをつくって、それを喜んで食べてもらうことは昔からとても好きでした。結婚してからは更に、その想いが強くなりましたね。「仕事」って社会の中で役割を担うことだと思っていますが、夫にご飯を作って食べてもらっている時に、「仕事しているな〜!」って実感することがあって、そこに賃金は発生しませんが、真っ当な仕事だなって感じていました。

実は大学に入るまでは、自分の母親みたいな専業主婦になることが夢だったんです。今はカフェを経営しているというのが肩書になってはいますが、変な話ですが、自分としては主婦の延長としてやっているという感覚です。自分一人で作って家族に食べさせるのではなくて、みんな(tiny peace kitchenメンバー)でつくってみんな(お客様)で食べるという感じです。

‐ ひとりで食堂を運営していたあと、このようにカフェという形にして変わったことはありますか?
人の力を結集させるとすごいことが起きるんだなと感動しています。みんな得意なことがあって、才能があって、それぞれ持ち寄ると大きなことができると実感しています。このお店を始めてみて、たくさんの才能に出逢うことができました。
私自身はアーティストではなくて、たくさんのアーティストの方に活躍してもらうプラットフォームを作る人間だということに気が付きました。とにかくジェネラリストなんです、私。スペシャリストに強い憧れは持っているんですけどね。今のお店は17人のメンバーがいますが、主体的に動いてくれるメンバーばかりです。

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ランチの定番メニュー、「発酵カレー」

‐ 箱だけがある状態でお店を始めたとうかがいました
メニューも決まっていない状態から皆で議論しながらつくりあげました。私は働いている人の主体性が大事で、その熱量にこそ一番の価値があると思っています。

言われたことをやる、決められた範囲の役割をこなすという意識では難しいかなと思っていて、たとえば将来お店を持ちたいという人が、自分のお店の時はどうするだろう、と考えて、経験を積める場になるのではないかと思っています。お店をはじめるラボの実践の場のような。
メニューもなければ、当然オペレーションも決まっていないしマニュアルもありませんでした。お店がオープンしてからもドタバタしていますが、現在進行形で、みんなが気持ちよく主体的に働くために必要ルール作り、やメニューの見直しなど、日々試行錯誤していっています。

‐ 社員食堂がカフェになって、たくさんのひとを巻き込んで事業が大きくなったんですね
なので、「ここは私のお店だ」なんて口が裂けても言えません。働いているスタッフはもちろんですが、それ以外にもお店づくりには本当に多くのパートナーが協力してくれています。お店のロゴ、ウェブサイト、お店でかかっている音楽も、友人に協力してもらっています。また、このお店を始めることになって、新たに出会ったたくさんの素晴らしいパートナーもいます。場所や資金の提供、カフェの事業部分のアドバイスは勤めている会社からもらっているし、本当にたくさんの人が協力してくれていて、それらのたくさんの力を結集させることが自分の役割だと思います。

‐ これからどんな風に変わっていくのかも楽しみですね。最後に、今後の展望をお聞かせください
メニューやオペレーション、運営の仕組みなど日々実験ですが、ゆくゆくは多店舗展開も考えています。支店を増やすという意味よりも、独立したい人を応援する場になれるのではないかと。それぞれの才能を輝かせる場づくりがしたいですね。

もともと強い関心をもっている「食の生産と消費のつながり」についても実践したいです。店名の「tiny peace」は、毎日の食卓を少しづつ変えていけば、より世界が平和な場所になれるのではないかという思いも込めています。スタートの地が東京都小平市だったので、その小平を直訳しただけでもあるのですが(笑)

調べるほど、世の中に安心して食べられるモノが少ないと感じています。飲食業という見方をすると、利益を出すとか、ビジネスとして正解が求められますが、それ以上に今の世の中に求められている「安心できる食卓」を再現していくことが大切だと思っています。店舗を増やしてたくさんの従業員を雇って大きなビジネスを成功させたいというよりは、健康的な食事が気軽に身近に食べられる世の中に近づくためには、もっとやれることがたくさんあるな、と感じているところです。

実は2016年末に出産したばかりでして、お店がオープンするタイミングは育休中でした。信頼できる店長がいてくれるからこそできたことなのですが、店長も私も、これからも出産が続くと思うので、支え合いながらライフプランと仕事を両立できるチーム体制や仕組みを作り上げていきたいです。

‐ 『tiny peace kitchen』からたくさんのお店が生まれて、安心で美味しい料理を食べられる場所が増えることを楽しみにしています。ありがとうございました。




受講した講義:お店をはじめるラボ

取材、編集:ORDINARY  むらかみみさと

撮影:武谷朋子



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