ブログ

写真にはあなたにしか見えない世界が写る

「カメラで捉える感性」教授 / 秋山まどかさん

IMG_8420

誰でもスマートフォンでかんたんに写真が撮れる時代。すてきな写真がSNSに溢れ、「自分もあんな写真を撮りたい!」と思う人も多いのでは。

自由大学でも3月から新講義『カメラで捉える感性』がはじまります。教授はコマーシャルフォトグラファーとして活躍する秋山まどかさん。もともとは自由大学の卒業生でもあります。世に多くの写真講座がある中で、この講義でしか得られないものとは何なのか。写真との出会い、カメラマンになるまで、カメラマンとしての仕事。秋山さんが自由大学で講義をはじめるまでのストーリーを、『カメラで捉える感性』のキュレーターを担当する、自由大学クリエイティブチームの佐藤大智が伺います。


‐ まどかさん、ちょうど今日、10人目の申込みがありました!
安心しました。どれぐらい興味を持ってもらえるかわからないし、開講できないかもしれないと思っていたので。

‐自由大学以外でも、写真のスキルやテクニックを学べる講義はよくありますが、この講義のアプローチは少し違った角度ですよね。
タイトルにある通り、「感性」という部分を伝えたいです。「美は見る人の目の中にある」ということわざがあります。写真自体は、カメラのシャッターを切れば誰でも撮れるけれど、撮れたものには撮った人の感性が表れるんです。

‐講義が終わったあと、受講生は学んだことをどう使うことができるでしょうか?
それぞれの受講生が何を目指しているかによりますが、講義で学んだことを様々な方面で活かせると考えています。たとえば、撮りためたものを深めて作品や個展に向かう、写真で仕事をしてみたいと進んでいく。あるいはチームを作ってzineやイベントを作ってみることもできます。例えば自由大学は、編集やスタイリング、動画などのクラスもあって、一緒に何か作っていく仲間を見つけるにはぴったりだと思います。

IMG_8578

コマーシャルフォトグラファーの秋山まどかさんと、担当キュレーターの佐藤大智

‐秋山さんは、ご自身を「写真家」ではなく「カメラマン」と名乗っていますが、そのあたりは
?
私は自分を商業カメラマンだと思っています。「手に職をつけたい」という意識がありました。その職が私にとっては写真だから、仕事として写真を撮っている「カメラマン」と名乗っています。コマーシャルフォトグラファーという肩書で呼んでいただくこともあります。

‐アートとして写真を撮ることはしなかったんですか?コンテストに出したり、個展をしたりなど
。
コンテストは興味を持たなかったですね。というのも、私はアートとしての写真の良さを理解するのが遅かったんです。まだ学生で写真を勉強しているとき、コマーシャルフォトの良さはわかっていたけどアートとしての写真にピンときていなかった。自分には難しいなと。

そう感じていた理由は、いい写真を見る、という経験が足りなかったからだと思います。学生時代は、今よりデザイン、アートなどに触れようとする機会が少なかったんだと思います。アートは難しいと思っていたのと、出身の奈良ではギャラリーや美術館の数も今より少なかった。東京に出てそれらに触れる機会が増えて、アートとしての写真の捉え方も深まって楽しめるようになったと思います。

‐コマーシャルフォトのどういう部分に惹かれたんですか?
意識しない日常の中に素敵な写真が入ってくるのが魅力的でした。例えば、元旦の新聞にはたくさんの会社が広告を出しているんです。新年の抱負、目指すべき理想の未来… どの企業も綺麗な写真をのせて夢いっぱいに語っている。それがすごくいいなあと思いました。

それに、時代として雑誌のビジュアルが強かったと思います。広告に力があって、夢があって。それを具体化する写真というツールに興味を持ちました。

‐少し時間を戻して、自分で写真を撮り始めたきっかけを教えてください。
そもそも、写真との距離は近かったんです。今の中高生がスマホで自撮りするみたいに、当時は「写ルンです」をみんなカバンに入れていました。プリクラもまだなかったから、写ルンですで撮り合って、撮った写真を交換したりして。写真は、日々流れていく一瞬を切り取ることができます。写真ってすごいなと思った瞬間を覚えていて。

ある日、よその家のガレージが開いていて、庭が見渡せたんです。そこに梅の木が生えていて、まるでスポットライトが当たっているように見える光景と遭遇しました。「わあ、美しい!」とハッとしてその風景を切り取って写真として残した。これが原体験かもしれません。写真って気持ちいい、いい写真を撮ることってこういうことだと目覚めたきっかけですね。

‐印象的な出来事だったんですね。それから写真を学校などで学ばれたんでしょうか
?
芸大を受けたいという気持ちはありましたが、タイミングもあって普通の四大に入りました。でもカメラをやることは決めていて。大学3、4年生は暇になると聞いていたから写真専門学校の夜間部に並行して通い始めました。その後両方を同じタイミングで卒業して、都内のスタジオに就職しました。

‐スムーズにカメラマンになられたんですね。「カメラマンになれなかったら… 」という不安な気持ちが湧いたことはありますか
?
自分の中で、カメラマンという仕事について「なれるか、なれないか」という意識で捉えたことがないんです。確かに「写真で稼げない」とか「体力的にきつい」という業界話は聞いていましたが、やめなければカメラマンで居続けることはできると思っています。自分がやり続けるかどうか。

‐秋山さんはずっと写真を撮り続けてきたから、カメラマンであることがあたりまえなんですね
。
私にとって写真を撮ることはごはんを食べることと同じなんです。他にすることがないので写真を撮っていると言ってもいい。自分にとって、社会との接点が写真です。

‐大学卒業後、スタジオに就職して写真の道へ進むことに決めたのも、自然な流れだったのでしょうか。営業とか事務とか、会社員になるべく就職活動をしている友達が多かったのではないですか
?
就職活動をしなくちゃ、という気持ちは起きなかったですね。写真が好きで、撮って、それで食べていけるならいいことだなと。写真で食べられない時期もあったので、写真に関係ないアルバイトもいろいろやりましたよ。でも全部写真のためで、フィルム代を稼ぐため。仕事としてはずっと写真だけです。

‐写真を撮ることが好き、という大前提はあると思いますが、カメラマンとして仕事をする中で自分の興味、関心発ではない被写体やシーンを扱うこともあると思います。「自分が撮りたいものを撮る」ときとモチベーションの違いはありますか?
ラッキーなことに、「秋山さんらしい写真を撮ってください」とオーダーされることも多いです。そういう意味ではあまりストレスは感じません。

もちろん商品撮影やきっちりとしたイメージのある撮影など「これを撮ってください」というオーダーにはちゃんと応えます。撮ることが好きなので、「どんな風にきれいに撮ろうかな…… 」とすごい集中して楽しめることが多い。

ただ、たとえ同じコップでも私が撮れば他の人と同じにはならないんです。もちろん、佐藤さんが撮っても誰とも同じものにはならない。それぞれの感性が反映されるんです。そこがおもしろいなと思います。

IMG_8522

「同じモノを撮っても同じ写真にはならない。それが感性。あなたの写真いいね!って褒めあいたい」

‐秋山さんらしさ、という部分で、「奈良の光の影響を受けている」という話が印象に残っています。
奈良の盆地の光ですね。光があふれるというか。奈良が特殊、ということではなく、各地方、地形によって、ここは光が硬質だなあとか、柔らかいなあと感じます。

だけど奈良は盆地のおかげで、夕方の光がとてもいい。光が地形を反射してふぁーっと包み込まれる感覚があるんです。

‐奈良の光がベースにあるから、秋山さん独特の光の感覚が写真に現れているのですね。ご自身で「自分らしい写真」を意識されたきっかけはあるのでしょうか?
明確にこのとき、とは思い出せないのですが、私の写真を見た人から、「ふわっとしている」「明るい」と言われることが多くて、自分でも「そうなんだな」と思うようになりました。

‐カメラマンという仕事を続けるなかで、自分自身が変化した部分や、業界、社会が変わっていっているな、と感じることはありますか
?
30歳ぐらいになると、昔から一緒に仕事をしている人たちの役職が上がるので、私へ依頼される仕事の幅が広がりましたね。好きな媒体での仕事が増えるとか。

それに時代も変わったなと思います。大きな代理店の大きな仕事をというだけではなく、クリエイターが集まって自由度が高くて、感度も高く、いい仕事をいいメンバーで実現できているなと感じます。その中で自分ものびのび、良さを発揮させてもらっているのではないでしょうか。

‐お話を伺う中で、秋山さんは目指す道をまっすぐ進んで来られたような印象を持ったのですが、仕事で迷ったことや不安を感じたことはありますか
?
自分の撮る写真と違うテイストが流行った時、自分の写真がウケなくなるかな、と考えることがありましたね。「トーン」だけで仕事をしていたら、流行り廃りで評価される・されないが決まってしまうなと。

でも、トレンドを追いかけてもうまくいくとは思えなかったんですよね。結局、きちんと撮ることだなと。自分らしさを磨いて、きちんと撮ることを積み上げる。それが次の仕事につながると思いますし、それをやってきたから今も仕事がいただけるのかなと思っています。

‐自分らしさを磨くという中に、自由大学に通った理由もあるのでしょうか?
そうですね。私にとって写真がすべてで、すべてが撮ることにつながっています。「実践!アーバンパーマカルチャー」を受講したことも、そこで学べることは自分の写真に必要だと思ったからです。

‐最後に、講義への思いを。いろんな感性に出会えるのが楽しみですね。
はい、この講義が自分の感性を知る種になるといいな。教授と受講生という関係に限らず、受講生同士、カメラマン同士として、「どう世界を見ているか」「何を感じているか」をシェアし合える場になるのではと思っています。

カメラで日常を切り取ることは、自分の感性を知ることができる方法の1つだと思います。それは仮にこの講義のあとカメラを続けなかったとしても、料理だったり文章だったり、他のことをやるときにもここで捉えた感性は生きてくるに違いありません。

担当講義:カメラで捉える感性

構成、文:むらかみみさと 写真:ORDINARY



関連するブログ