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【vol.5 見せぬが華か】岡島悦代

好奇心のフラグ

自由大学READY STUDY GO

最近は、完成までのプロセスをSNSなどで開示することが主流になっている。アイドル選挙の悲喜交々には興味ない…と言い切ろうとしたけれど、実は昔アーティストの製作現場をレポートして情報発信するという業務をやっていた。そうやって、完成品の背景を伝えることで親しみを持ってもらったり、そこに掛ける姿勢を伝えてファンになってもらい消費に結びつける。

それとは逆の考え方もある。長年雑誌編集をされている方が、発売になった雑誌で全てを語るという考え方だったので、原稿に赤入れしているところや撮影風景をSNSで発信するのに抵抗があると言っていた。時代の流れだから仕方ないのだけれど、こだわりを持ってつくっているものこそ、湖を優雅に泳ぐ白鳥が水面下で足をバタバタしている姿を見られたくないのかもしれない。その時の完璧のみを披露する、という美意識もある。

時代の気分は、人前で全てのプロセスを公開することに軍配が上がっている。レストランに行ってもオープンキッチンで、シェフの手元が客席から見えるようになっていたり、商品広告でも原料選びから生産者と企業の関係性、工場で働いている人が何を考えて製品づくりをしているのかを語る。人気をキープしたい海外セレブに至っては、私生活までさらけ出しニュースサイトのトップを狙ってくる。

だけれど情報発信をするにも粋と野暮ってものがあると思う。ある時、往年の下町の旦那衆がどんな遊びをしていたのかを聞く機会があった。自分の柄を施した手のひらに隠れる細長いポチ袋を職人につくらせ、お座敷遊びの際、芸妓さんの着物の首元や袖にスッと手を入れてポチ袋を忍ばせる。心付けを渡すにも、宴の隙を狙って交わされる男女の駆け引き。仕事を終えた芸妓さんが着物を脱ぐと、いろいろな所に忍んでいたポチ袋がわらわらと畳に落ちて、袋の柄を見れば誰の好意か分かったそうだ。限られた情報であれこれ想像する宴の余韻。この感覚はきっとAIには真似できない。

 

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