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自由を奪われた人々

井本喜久/お店をはじめるラボ教授

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今年10月末に僕は生まれて初めてアフリカに行った。
アフリカ大陸の南西部に位置する「ナミビア共和国」に暮らす2000年間生活スタイルが変わっていない原住民「ヒンバ族」に会いにいくためだった。(ナミビアは日本の2.2倍の国土でありながら人口は220万人しかいない、世界で最も人口密度の低い国のひとつだ。)
香港とヨハネスブルグを経由して、ナミビア共和国の首都「ウィントフック」に到着したのは成田を出発して22時間後だった。そこからガイドと合流し、ヒンバ族の住むナミビア最北端のクネネ州の村までは車で2日間かかった(笑)

僕はヒンバ族とはじめて会った瞬間はとても感動した。彼らは本当に裸のまま暮らし、村の生活環境や道具はすべて木や土、皮革、石など自然のモノによる手作り。一つの村に5~10の家族がいて、遊牧をしながら基本的には自給自足の暮らしをしている。まさに日本で言う縄文時代くらいにタイムスリップした気分だった。

ナミビア政府の保護政策もあり、彼らの居住エリアに資本主義の文明的な悪影響が及ばないよう配慮されているのだが、それら保護も完璧では無いため、専門家による一説ではあと20年でリアルなヒンバ族は居なくなるとも言われている。(近年のヒンバ族は遊牧する環境も厳しく観光客向けのジュエリーを作って販売したり政府の自然保護事業を手伝ったりしながら生計を立てているらしい)

ヒンバ族の村は一見、とても閉鎖的な雰囲気にも見える。村の周りには枯れ木で編んだ柵が立ち、女と子どもと年寄りは村の中で一日中過ごしている。それは見方によっては外敵から村を守る要塞のようでもあるし、檻の中に追いやられて「自由」を奪われた珍しい生き方をする原住民のようでもある。

しかし、彼らと実際に触れ合ってコミュニケーションをしてみると、実に彼らは陽気にイキイキと悠々に、そして満足げに生きていると感じた。2000年間変わっていない生活スタイルは伊達ではない。彼らはどんなに文明の便利さに気づいたとしても、誇りを持って村の暮らしをつづけていて、村人同士が非常に仲が良い。

ガイドに僕は「なぜこんなにヒンバ族の人同士はイキイキしているのか」と質問してみた。するとガイドは「彼らは大自然と共に常に真っすぐに生きている。だから僕ら現代人のように些細なことに捕らわれないし余計な文明が無い分、いつも仲間同士や家族同士が十分すぎるほどコミュニケーションをとっているからだね。きっと。」と教えてくれた。

それを聞いて僕は思った。ヒンバ族にとっては僕らのような観光客の方が逆に「自由を奪われた人々」のように見えているのかもしれないのだと。

【text:井本喜久/お店をはじめるラボ教授】
コミュニケーションクリエイター。株式会社コズ 代表取締役。自動車メーカー、飲料メーカーなどのブランディングをプロデュース。2012年には仲間とファーストフードブランド「Brooklyn Ribbon Fries」を立ち上げ、表参道に世界1号店を出店。



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