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自分の仕事をつくること  伊藤洋志さんのナリワイ part2

伊藤洋志/ナリワイをつくる教授

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大学卒業後、「ナリワイ」を実践し始めた伊藤洋志さん。まずは自分の生活のなかでどこから見なおせばよいのかを考えて実行に移します。具体的に実行したこととは?伊藤さんが最初に手をつけたのは「無駄な支出をアタックすること」でした。聞き手は、自由大学学長の和泉里佳さんです。

聞き手:和泉里佳(自由大学学長)
司会:高橋宏文(フリユニラジオ編集長)
写真:水澤充

part1 仕事をつくるためのフィールドワーク
part2 無駄な支出からアタックする
part3 「ナリワイをつくる」の講義が目指すもの
part4 ちょっとしたアイデアを発表できる場


無駄な支出からアタックする

和泉 そのときに、無駄で大きな支出として発見したものって何でしたか?

伊藤 やっぱり食費は無駄でしたね。関西から東京に出てきて働いた場所が自由が丘だったんですが、おしゃれマダムの食べる軽いランチが1000〜1200円とかするんですよ。大した野菜も載っていないのに(笑)。毎日が忙しかったからぜんぜん自炊できなかったんですが、そうすると毎日出社すると昼ごはんだけで3万円くらい飛んでいくじゃないですか。夜ご飯も外食することになるから、そうすると6万円が飛んでいく。僕は家賃5万円という激安の部屋に住んでいましたが、お風呂がないから銭湯に行くと月2万円かかる。これですでに13万円も使っていますよね。これで交通費とかときどき友だちと飲んだりするともう残り3〜4万円くらいになって、服を買ったら終わりみたいな。だからまずは6万円の食費からアタックして、2万円くらいでしかもすごく栄養のある食事をとることができたら、4万円稼いだということになる。

高橋 それは具体的に言うと、自炊をするってことですよね?

伊藤 そうそう、自炊をすることになる。ところが実際に自炊をしてみると、一人暮らしの自炊は非常に面倒くさいということがわかるわけですよ。ワーッとつくりすぎてお腹がいっぱいになって胃がモタれるとか。あと、食べ終わったあとに皿を洗うこともキツくて、翌朝、水をためた食器を見て「ハーッ」とため息をつくことになる。だから気力の限界もあるわけですが、そういうことをどうすればいいのかずっと考えていたんです。その後、スクーリング・パッドに通い始めた頃に、飲み会が多くて結局お金がかかるのもそれと一緒ということで、それらを一緒に考えてみることにした。ちょうどスクーリング・パッドにはレストランビジネスデザイン学部というものがあって、飲食系の人も建築系の人も通っていたので、そこに通っていた4人くらいで物件を借りて、建築系の友だちと一緒に部屋を直してイベントをやることにしました。そうすると1500円くらいでたくさん食べられて、しかも毎回ゲストを呼べば面白げな話を聞くことができる。娯楽を自給するということを始めたんです。よくわからない偉そうな人の講演に行って3000円を払わなくても、たとえば世界一周をしてきた夫婦を自分たちのイベントに招いて自分も旅した気分になる、ということのほうが生活の質としてはいいんじゃないかということを発見した。

単純に最初は「飲み会が高すぎる」というどうでもいいような動機だったんですが、そこからいろいろなものが見えてくるというか、場所さえあれば自分たちでもちょっとしたお話を聞く会はできると。そうするとだんだん自分たちでもいろいろなことができるのではないかと検討し始めることになる。それまで、ご飯は外食するしかないという選択肢だったけど、広がっていくんですよね。最初は自炊をやって、ひとりでやっていることに限界があることに気がついたら、じゃあ次はみんなで食べればいいんじゃないかと。どうせ1人分をつくるのも5人分をつくるのも一緒ということで、そうやってだんだんやれることが増えていき、見えていくことがナリワイの発展過程だったわけです。

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和泉 それってやってみないとわからないことだし、やることで見えて広がっていく世界ですよね。

伊藤 重要なのは、やりながらなんとなくテーマを持っているということ。僕は農学部出身だったからか「なるべく自給したほうがいいんじゃないか」という雰囲気が漂っていたこともあったけど、そういう意気込みでいろんなことに問題意識を持っていると、「自分の家がこんなふうに直せたのであれば、別の家や仕事場でもできるんじゃないか」というふうに、徐々に拡張していくわけですね。

和泉 しかも、伊藤くんたちがやっているのを見て、周りの人たちも「なんかできそうかも!」という気になるというか。

伊藤 やっている人が周りにいるのはすごく大きいと思いますね。

和泉 そういう意味では、いつもこういうことを始めるフロンティアですよね。

伊藤 ああ、そういうふうに見えているのかなあ…。でも、ほかにもけっこういるんですよ。学生の頃、シェアハウスに住んでいたんです。それは建築学科の友だちがシェアハウスをやっていて、さすがに住居とか空間を扱う人だからそういうことをやるのも早かった。それを見て「なるほど、これは家賃が安くなる!」と思って、さっそく僕もやり始めた。だからいろんな人がヒントをあたえてくれるので、それを見逃さないように生きているといいかなと思うんですよね。

和泉 ということは「いついつからナリワイを始めました」というよりは、そういう小さな積み重ねがどんどん膨らんで増えてきているという感じですね。

伊藤 そうですね。だから「よっしゃ、起業するぞ!」みたいな意気込みというよりは、ふだんの生活で変えられるところがたくさんあって、それをひとつずつアタックしていくと、だんだん増えてくるという感じですね。まあ、気持ちの切り替えは徐々に起こりますね。最初の頃は会社を辞めて不安なので、当面の家賃を何とかしようとしてうっかりバイトでも調べようという時間が多いわけですよ(笑)。でもナリワイを続けていくと、だんだんそういうものがどうでもよくなってくる。


伊藤洋志
ナリワイ代表

1979年生まれ、香川県出身、京都大学森林科学専攻修士課程修了。LLPナリワイ。零細ベンチャーの立ち上げメンバー、農業ウェブマガジンの編集長を経て、頭と体をつかう生活と仕事が一体化したナリワイづくりをテーマに個人サイズの仕事作りに取り組む。
ナリワイ 古今燕 twitter: @marugame

part3 「ナリワイをつくる」の講義が目指すもの

 



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