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2013年 自由大学の進む道はどっち?

黒崎輝男(自由大学ファウンダー)×和泉里佳(自由大学学長)

自由大学は、その根底に流れる思想や美意識をとおしてこれまで多くの魅力的な人たちを惹きつけてきましたが、ではこれからの自由大学はどのような道を歩んでいくのでしょうか。2013年以降に立ち上げようとしているプランなどを中心に、自由大学を立ち上げて引っ張ってきた二人が語り合いました。

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自由大学は常に愚かでありたい

黒崎:まずはそもそも、自由大学を突き上げて動かしているものとは何だろう?ということですね。底流というか、そこに流れる考えみたいなものを話しておいたほうがいいと思うんですよ。それはたとえば里佳さんが上海で生活していたときに感じたこととかにも通じるんじゃないかな。ここ最近、中国がどんどん伸びてきているのに、日本は保守的になってきた。里佳さんはそれを見て、まず大企業を辞めて、池尻のあの界隈(※自由大学の前身であるスクーリング・パッド)のあの雰囲気を体験したことで、そこから沸々と湧き上がるものがあったでしょう?それで里佳さんのようにフリーランスになると、どこの大学を出ていようが関係なくなって実力主義になっちゃう。そのときに本当の意味での思考力や行動力や判断力をつけるにはどうしたらいいか。それこそ中国に行けば中国の人たちは自分を主張するから、すべてが喧嘩みたいでしょう?喧嘩するにはこっちの思想もなければいけないし、言葉で生きていかなくてはいけない。でもそういうことは日本の学校ではいっさい教わってこなかったと思うの。里佳さんはきっと子供の頃も弾けちゃっていて、賢くて強いお姉さんだっただろうと思うんだ。いや、実際はどうだったかわかんないけどね(笑)。

和泉:(笑)。そうですね。学校は大好きだけど、授業はつまらなくて暇。もっとやりたいのに変な平等で合わせなくちゃいけなくて、思いっきり伸びられないという感じですかね。

黒崎:伸びちゃいけない、上へ行っちゃいけない。

和泉:そうそう。それだとつまらない。でも、そうじゃなくて思いっきりやっていい、むしろ思いっきりやらなくちゃウソということが世界に行くとわかる。だから「やりたい放題、やってみればいい」ということが自由大学で出来ればと。それが今、すごくいいなと思っています。

黒崎:僕はいわゆる団塊の世代だったけど、18歳から一度も就職しなかったの。それで精神年齢18歳のままで知能指数はどんどん落ちていくし、いまや高校3年生からも落ちていって、小学生くらいになっているじゃない?(笑)でも、精神年齢18歳というのがすごく大切で、大学時代に学生運動とかやって騒いでいる奴らとかみんなおさまっちゃうわけ。すぐにコロッと変わって大人になっちゃう。僕の場合は、永遠に大人になれないから考え続けざるをえないし動き続けなければいけない、という状態が良かったかなと思うのね。興味の視点が今も18歳くらいの頃と同じなの。ところが、クラスの友達でいろいろ学生運動とか戦っていた奴がコロッと普通のおじさんになっちゃって、歌もその頃のビートルズしか歌わないとかさ、そうなっちゃうのは寂しいと思う。

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和泉:18歳の頃から変わっていないようでいて、それは実は時代の変化に合わせて変わり続けているということなんですよね。逆にすっかり大人になったようでいて、実は昔のまま固定化されて古くなっている。面白いですね。

黒崎:だから、馬鹿で居続けることがいかに大切か、ということだね。アメリカだと、馬鹿で失敗して笑われたりすることは恥ずかしいことではないというカルチャーがあるけど、日本の場合は、失敗しちゃったらダメだから失敗しないようにという状態で大人になっちゃう。

和泉:でも、それが大失敗だったりするんですよね。

黒崎:そう。昔の友達なんかに会っても、「実は何も面白いことをしていないじゃん」ということになる。だから、自由大学は常に愚かでありたい。気をつけないといけないのは、油断するとつい如才なくきっちりとまとまっちゃう方向に行ってしまうわけじゃない?確かにそれをやればそれなりに人は来るよね?だけどそれとは真反対で、そんなに賢くもないけど荒削りなところがあるものをわざと残しておきたい。そういうシステムがいいかなと思うんだよね。昔の寺子屋みたいなのがベースになって、教えるほうも資格がないし、学ぶほうも資格のために学ぶんじゃない。実利のある講義もあるけど、まるで実利のない講義だってあってもいいかもしれない。あとは高橋さんたちがやり始めている「ニューメディアラボ」や「クラウドファンディング学」など、新しい時代の流れみたいなものにもっとみんなが集まってもらうようなことも、来年はやりたいな。 里佳さん、自由大学の学長としての2013年の抱負は?

和泉:「めちゃくちゃ」ですかね。学びも遊びも仕事ももっとごちゃまぜにしていきたいし、会社員とかフリーランスとかっていう人びともごちゃまぜにしたいです。「アメーバワークスタイル」の卒業生の女の子三人が「ウニット」というUNITを組んで、世田谷パン祭りのバッグを作成したりしましたが、自由大学で出会った人たちが会社以外の場所をベースに活動して、新しい仕事をつくっていくということがすでに生まれ始めているので、2013年はもっと「学校で活動しながら仕事も作っちゃう」ということが増えたらいいなと思います。あと、自由大学の講義自体は、「他で絶対やっていないよね!」みたいなめちゃくちゃ面白いやつをいくつかどんどん出していきたいですね。

黒崎:それ自身がクリエイションでインスピレーションだ、というような講義をつくりたいね。それはなぜかというと、他だと学校法人でカリキュラムも縛られて体裁とかいうのがあるけれど、僕たちの場合はそれが一切ないからさ。それでいてカッコイイというのは、ある種の思想と美意識がないと続かない。

和泉:たとえば「0円ハウス学」での、「ホームレスのおじさんとか、今まで誰も先生に呼んだことがなかったよね!」という衝撃的な感じとか、「そっちもありか!」みたいなものをどんどんやっていきたいですね。

 

自己増殖的に膨らむ組織体

—自由大学にはいろんな講義がありますが、やはり「キュレーション学」が核になっていますよね。あそこからいろんな名物講義が生まれそうな気配を感じたのですが…?

黒崎:それはね、やっぱり里佳さんたちにいろんなアイデアがあったとしても、たとえば声楽家とかああいう突拍子もない人は僕たちのなかにはいないからさ。そういう人たちが来てくれるというのがうれしいじゃないですか。

和泉:そうですね。キュレーターの数だけいろいろな世界が創られますよね。

—自由大学が他とまったく異なるところは、「キュレーション学」のような、実際にキュレーターが「こういう人がいるので教授として呼んできて、こういう講義をやってみたい!」ということが、面白ければ本当に実現できてしまう。これがそもそもシステム的に他とは違いますよね。

黒崎:そう、自己増殖的に膨らむ組織体になっているんだ。だから、キュレーション学を出たキュレーター候補たちが一緒に組むのもありかもしれないね。たとえば、「インドに学ぶスパイス学」「ハーブ学」「ジンジャー学」なんかを同時に3つぐらいつくってみて、それが「丁寧に食べる学部」とか「スパイスアップ学部」みたいなものになるとか。そういうことをしていけば、2013年はもっともっと面白くなって、それこそ寺子屋みたいになると思う。

 

Which Way? どっちにするの?

—昨年12月に行われたの自由大学祭のテーマは「Which Way? 信じた道を行け」となっていて、かなりメッセージ性を感じられるものになっていましたよね。

黒崎:そう、2つの道があって、難しくて失敗しそうな道と安易に成功しそうな道があったときに、どっちのオプションもある。手堅く行っておいてからちょっと実力をつけて冒険をする、というのもあるかもしれないし、最初から自分を捨てて茨の道に行く人もいると思うんですよ。とりあえず今回、潔くやるのであれば「どっちにするの?」ということ。それはやっぱり女の子のほうが強いと思う。いつもだいたい女性が男性に「どっちにするの?」ってケツを叩いているでしょ?「あんた、どっちにするの?アタシにするの?向こうに行くの?」って、そうすると男性は追い詰められて、「じゃあ、行くよ」みたいになる。だからたとえば里佳さんが「自由大学で学びますか?それとも今までどおりですか?」と言えば、「やっぱりこっちで学ばなきゃ」ってなるから、そういうプレイをしてもいいんじゃない?(笑)

—実際に、自由大学の講義を通して、受講生たちが何か気づきを得られた瞬間にもたくさん立ち会っていると思いますが…?

和泉:はい。でも、それは自分で気づくものだから、私たちはその環境をつくっているだけ。だから、気づかせてあげているわけでもないし、何かを導いてあげているわけでもなくて、ただジャンプ台を用意している、みたいな(笑)。

黒崎:だから、自分から変わらないとどうしようもないので、思ったよりは時間がかかるよね。

和泉:かかる!

黒崎:やっぱりみんな慎重だからさ、ちょっとずつ「こうかな?」とか思いながらやって、またちょっとずつ変わっていくから。「自由大学に来て、いきなり人生が変わりました」とか言ってくれる人もいるけど、実際にはそれほどでもないよね。

—でも、自発的に気づきを得ている人たちも少なからずいて、そのうえで昨年12月の自由大学祭のテーマは「どの道を行くのか?」と、メッセージ性が強かったですね。

黒崎:確かに強いよね。でも、そこまでいかなくても、ちょっと「どっちなの?」というのがあって、最後にWhich Way You Go!って、道が2つに分かれている。その道はつながっているかもわからない。そこがポイントだと思う。右か左かわからなくて、でも結局は同じだったんだと。だけど、こっちに行って良かったね、というようなノリを僕たちはイメージとして持っている。

和泉:現代に生きていると全て用意されていることが多くて、「自分で決める」ことがちょっと遠い感じがしますよね。だから自分で決めることをどんどん楽しんでいければいいなと思って、そのためにこの「信じた道を行け」というメッセージを入れたいなと思ったんですよね。「みんながそうだから」ということからはもう脱却するときが来ている。だから、まずは自分で考える。そうすれば、「あっ、間違えた!」ってなっても責任は自分にあるから、そのあとでも別になんとかなるじゃないですか。

黒崎:コンピューターの世界だと「検索から探求へ」と僕は言っているのね。検索すれば何でも得られるけれども、探求というのは好奇心とか自分の意志がないといけないじゃないですか。今の人たちの問題点は、検索しているから何でも並列にいっぱい知っていて、とっ散らかっているわけ。そのなかから何が好きで自分はこうしたいという、もう一歩先に…まあ「キュレーション」とも言えるんだけど…探求していく気持ちが「学ぶ」というものの核になると思うんだけど、自由大学ではそこらへんにも持っていきたい。そのためには、バラバラにいっぱいいろんなものがあるよ、というような状況をつくること。「探究するのはあなたたちであって、僕たちではないから」という姿勢でいきたいなと思うんです。つまり「検索から探求へ」、そして「それらの編集から、もう一歩先のキュレーションへ」ということだと思うんですね。そのへんをわかってもらえると、「そうかそうか」と自分でやることができるようになる。だって今ほど、自分で学ぼうと思えば何でも学べる時代もないわけだし、別に自由大学に来なくても、そこで話している知識自体はネット上で集められるでしょう。それなのになぜ自由大学というリアルな場に来るのか、というのがポイントだと思うんですよ。自分の意見としてそれが話せている、という瞬間が自由大学の醍醐味かなと思うんだ。僕たちはその場をつくりながら、渦巻きをつくっている。当然、働きかたとしてのリスクは大きいわけで、自分の好きなように生きるには、「あんた、どこで稼ぐの?どうするの?」っていう問いかけがあるわけだから、それだったら自分たちで徐々に組織をつくって仕事をつくっていく、というのが「アメーバワークスタイル」であると。2013年は自由大学内でもそれをどんどん充実させていって、そういう状況が出来たところで、僕は里佳さんたちの後ろでほくそ笑むっていう(笑)。

 

学びの場から社会ムーブメントをおこす

—2013年は、自由大学出版を立ち上げて本を出版する計画もあるし、自分たちのメディアを立ち上げる予定もありますね。

黒崎:「フリユニラジオ」というWEBマガジンも準備しているね。それから「MOONLIGHT FM」は、仕事が終わった夜21:00から翌2:00までオンエアしようというもの。 —でも、これだけいろいろなものが立ち上がってくると、もはや学びの場にとどまらなくなってきますよね。

黒崎:だからある種の社会ムーブメントになると思う。来年はそうやって、ラボ、出版、放送局、WEBマガジンなどいくつものプロジェクトがあるじゃないですか。あと、運動部をやりたいね。毎月1回は世田谷公園でランニングして、シーズンごとに代々木公園を走って、年に1回くらいは皇居を2周くらい走るとか。それにアメフトやラグビー観戦など、スポーツを生活のなかに取り入れるような一連の運動系というのかな。

和泉:そろそろ自由大学内で部活みたいな感じのものって出来る気がします。自由大学でいくつかの講義を受けて定着してきた仲間がいて、「アメーバワークスタイルラボ」もあって、そこに出入りする人たちが増えてきているから、その人たちのなかで部活みたいな感じで、走るとかバドミントンをやるとか。サークル活動として、写真部とか手芸部とかも出来そうになっているし。

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黒崎:昼間とか、そういうの、いいんじゃない?

和泉:うん、でもなんか会社勤めをしながらそういうことをやる方が面白いかなって。夜の部活って言うのかな?講義を受けたり、部活したり、そこで恋愛とかもしちゃったりして。学校っぽいですよね。

黒崎:たとえば作品展や発表会をやると、みんな盛り上がるよね。だから出口があるというか、何か発表できることをやるといいと思う。

 

もう一歩、動いていくこと

—来年はまたいろんな講義も出来そうだし、部活やメディアや本など、どんどん膨らんでいきそうですね。

和泉:あと、たとえば「復興クラブ」も遠藤さんの家の隣に良いアジトが出来て、そこを拠点に畑をやったりお米を東京で売ったりもできるし、こういうこともどんどん膨らんで発展してきていますよね。

—今後はもしかしたら東京にとどまらない動きも出てきそうですね。

黒崎:そうそう、だからスウェーデンカフェをつくるとかもやれるしね。

和泉:今年、「クリエイティブ都市学」で現地集合・現地解散の旅をポートランド、ストックホルムなどいろんなところでやってきて、そういうことが今後、海外や国内でどんどん増えてくると思います。仙台でもそうやって現地集合でずっとやってきているわけだし。

黒崎:だけどね、たとえば「オイスター・バーをやりましょう」とか「あそこの家のこの場所が最高だから、これをやりましょう」と言い切る人はいないわけ。なぜなら今の優等生はみんな客観的にいいことをしているんだけど、自分の個人的にやりたいことを抑える傾向があるんだよ。日本人の場合はなぜだかそういうことを言っちゃいけないというのがある。じゃあ、誰の力が強いかと言えば、お上の力とかそういうのに頼りたがるわけだ。それが残念ながら、今の日本人を個性的でなくしてしまっているのだと思う。人種としては個性的だと思うんだけど、「あそこの場所でこういうことをやろう」と言い切る人がいない。だから自由大学のチームとか、自由大学にやってくる面白い可能性を持った人たちがもう一歩いろんなことをやれると、明治維新のようにポンポン出来てくるので、そういう人を育てたいなと思う。最初のうちは僕も出て行って、踏み台にされても何でもいいけど、徐々にそういうことが出来てくると、自然にそれがムーブメントになって、今の時代としてはいいかなと思う。だからもう一歩なんだよ、2013年が大切だね。

和泉:だから、自由大学で何かをやりたいという人には何も制限はしないし、その環境はある。でも「何かをやって」と言われるのを待っていたら何もない、ということでしょうね。

 

黒崎輝男(自由大学ファウンダー)
1949年東京生まれ。「IDEE」創業者としてオリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に、“生活の探求”をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開。東京デザイナーズブロック、Rプロジェクト、スクーリング・パッド、青山でのFarmer’s Marketや246Commonなど、東京の今をつくるプロジェクトをいくつも仕掛けている。

和泉里佳(自由大学学長/キュレーター)
1979年名古屋生まれ。黒崎さんの始めたスクーリング・パッドの1期生として、刺激的な学びの場を共に創っていく経験をする。上海での毎日が大冒険的仕事生活を経て、帰国後自由大学の運営に。人生が大きくシフトチェンジするきっかけをここで得たことから、そんな感覚や経験を生かして、ワクワクの学びスイッチがONになる状況を創っている。

司会&対談構成:高橋宏文(ニューメディアラボ


カテゴリ: ☞ コラム


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