ブログ

自分の仕事をつくること  伊藤洋志さんのナリワイ part4

伊藤洋志/ナリワイをつくる教授

tumblr_inline_mk2kwnSAaY1qz4rgp

伊藤洋志さんは自由大学で「ナリワイをつくる」の講義をやっていると得られるものがたくさんあり、その経験から、ちょっとしたアイデアを発表できる場が大事なのではないかと感じています。各自がやれることをどう組み合わせて仕事をつくるのか?伊藤洋志さんのナリワイ完結編です。聞き手は、自由大学学長の和泉里佳さんです。

聞き手:和泉里佳(自由大学学長)
司会:高橋宏文(フリユニラジオ編集長)
写真:水澤充

part1 仕事をつくるためのフィールドワーク
part2 無駄な支出からアタックする
part3 「ナリワイをつくる」の講義が目指すもの
part4 ちょっとしたアイデアを発表できる場


ちょっとしたアイデアを発表できる場

和泉 ナリワイの講義をやっていて、得られたことって何ですか?

伊藤 メチャクチャありますよ。毎回、講義では各自が無駄な支出とかやりたいことを持ち寄るんですが、そうすると、ナリワイの種は至るところにあるなということがみんなで共有できるので、ひとりでやるよりも断然、選択肢が違って、それは大きいですね。あとは一緒にやると、ひとりではできないことを協力してやることができる。まあ、当たり前といえば当たり前ですが。「ナリワイをつくる」の講義を受講してそれを実践している人を見ていると、だいたいみんな2〜3人とか話の合った人たち同士でやっていることが多い。ひとりでやれる人もいるんでしょうけど、ちょうど3人くらいだとバテないというか。そういう相手を見つけるという意味でも、人が集まる場所は大事ですね。

和泉 卒業生たちと伊藤くんが何か一緒にやることもあるんですか?

伊藤 今だと、ナリワイを始めた卒業生たちに相談されていろいろ話すとか。あと、「ナリワイをつくる」の本が出版されたので、そのタイミングでイベントを企画してくれたりとかもありますね。山形出身なので山形でやりましょうと言われて山形に行ったりとか、そういうのはありがたいですね。

和泉 確かに、先ほどの「自分ひとりだと思いもつかないようなアイデアが出てくる」というのは自由大学もけっこう近くて、「キュレーション学」とかをやっていると、そのなかからビックリするようなことを考えてくる人もいる。それでいろいろな講義が増えている、というのがちょっと似ているなあと思いますね。

伊藤 そういう場所が必要なのかなという気がしますね。

和泉 そうですよね。みんな実はけっこう面白いことを考えているのに、ちょっと遠慮しちゃうことってあるじゃないですか。でも、ここで思いっきり出してみて「案外いいね!」ってことになると盛り上がりますよね。

伊藤 そう、基本的に前向きな場所でそういうアイデアを言ったほうがいいですよね。会社員のときはそのあたりの勘がよくわかっていなくて、とりあえずアイデアを出しあう会をそのへんの喫茶店でやったんですけど、その相手がとにかく後ろ向きな人で「それ、意味あるんですか?」とか「それは理想が高いと思いますね」とか言われてその場で終わりました。やっぱり人間の心って折れやすいんですよね。

和泉 ちょっとしたアイデアって、「いいね」とか「無理だと思う」という、ちょっとした意見にすごく左右されますよね。

伊藤 そうですよね。アイデアを言っている本人もただの思いつきで言っているから、自信も確信もないというか。

和泉 それが最初に「いいね」となれば、ちょうど雪だるまのようにゴロゴロっとなって、大きな雪だるまになっていくというか。

伊藤 そういう意味でも、自由大学のような場は大事ですね。まあ、大小限らずそういうアイデアを話せる友だちが4〜5人いるという単位から、自由大学のような場まで言えることだし、「ナリワイをつくる」の場合は、講義を受講したあと定期的に同窓会をやっているので、そこでアイデアを発表することもできるんですが、そういう場所が生活のなかでさまざまなところにあるというのは大事なことですね。意外にそういう場って、つくらないとないので、そういう場をつくることから始めるといいでしょうね。

和泉 つくらないとないけど、つくればどれだけでもある、と。

伊藤 それは、ひと手間をかけるだけでできることだと思いますね。そういう感じで各自のやれることを組み合わせていけば、何らかの仕事はつくることはできるし生きていくこともできる、というのを習得するのが「ナリワイをつくる」という講義ですね。

高橋 仕事って普通はひとつしかないものだと思うんですが、ナリワイの場合はいくつもの仕事を組み合わせていくというのがポイントになっていますよね。

伊藤 それは現実的な対応というのもありますね。普通だと、一個の事業でどれだけ規模を拡大できて利益率が高くなるかというのが最大の評価軸だと思うんですが、僕はそれよりも自分の時間というか、健康になって面白い生活を送ることができるというのが最優先だから、それを最優先にした場合、一個では成り立たない仕事もけっこう見つかってしまう。めちゃくちゃ面白いけどこれを一個でやるとつまらなくなってしまうなとかが多々発見されるので、それをいろいろ拾っていくには別に一個に絞らなくていいんじゃないか、というのが現時的な対応としてある。あと、何個かやったほうが今の時代だととくに相乗効果が起きて面白くなるんじゃないかと思います。

高橋 横と横がどんどんつながっていくという感じでしょうか。

伊藤 そう、そこが面白いところではないかと思うんですね。モンゴル・ツアーをやって、それがパンの学校に応用されて、「古今燕」という京都の町家を自分で改装しないといけないからいろいろやっていると、 床を張りなおすことにはすごい可能性があるんじゃないかということに気づいて、「全国床張り協会」が立ち上がる…と、そういう感じでひとつひとつが連動してくると、逆に今の時代だと面白いんですよね。実は一緒にやれることがあった分野もバラバラになっていた、というのがこれまでの時代だったと思うんですが、実際に組み合わせたら面白いことができるという分野はたくさんあって、それを見いだしていくことが複数やることの面白さのポイントかなと。

tumblr_inline_mk2kyvVdK01qz4rgp

和泉 では、最後の質問ですが、伊藤さんにとって人生でもっとも大切なものとは?

伊藤 うーん、「健康」とか言ってもあんまり面白くないかな。でも人間ってやっぱり身体が快適に動いていればいちばん幸せなんじゃないかと思いますけどね。それは精神的なことが大きいから、自分のやりたいことがあるということも大事だと思いますが、最終的にはそこがいちばん大事かなと。なんとも平凡で申し訳ないですけどね。

和泉 でも確かに、身体の調子がよくないと、何か新しいことや面白いことをしようという気持ちが少し下がるじゃないですか。まずは健康であって、それだからこそいろいろなところに行きたいし、床も張りたいし…ってなりますよね。

伊藤 最近思うのは、健康になってからやるというのもあるけど、やっていると健康が維持される要素を仕事に入れていくというふうに考えていくのがいいんじゃないかと。たとえば、床を張るのは確実にボケを防ぐことができる。あと、僕の場合、梅の収穫をするので、足腰は確実に鍛えられる。かと言って、ずっと梅の収穫ばかりやっていると腰を痛めるから、文章を書く仕事も入れるとか。

高橋 健康って人間の生活にいちばんリンクしているものだし、伊藤さんのナリワイは仕事と生活が分断された状態でなくてもっと関わりあいになったものだから、ナリワイを考えると必然的に健康にも行き着く、ということでしょうか?

伊藤 そうです、太極拳みたいなものですね。

和泉 グルグルまわるわけですね。やると健康になるし、健康になるとまたやりたくなる。

伊藤 そう、そういういい循環を生み出したい。

和泉 それで仲間も増えて楽しく暮らせると。

伊藤 そう、床を張って仲が悪くなるほどハードにはしない(笑)。「おまえのせいで…」とかそういう競技性はないから、「みんなで張れてよかった」という感じ。それも重要なさじ加減ですよね。そこまで考えて仕事をつくっているということです。利益以外の要素というのが実はたくさんあって、そっちを含めた設計をしていきたいと思っていますね。

伊藤洋志
ナリワイ代表
1979年生まれ、香川県出身、京都大学森林科学専攻修士課程修了。LLPナリワイ。零細ベンチャーの立ち上げメンバー、農業ウェブマガジンの編集長を経て、頭と体をつかう生活と仕事が一体化したナリワイづくりをテーマに個人サイズの仕事作りに取り組む。
ナリワイ 古今燕 twitter: @marugame

tumblr_inline_mk2lttxSVM1qz4rgp



関連するブログ