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自分の仕事をつくること  伊藤洋志さんのナリワイ part3

伊藤洋志/ナリワイをつくる教授

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自由大学「ナリワイをつくる」教授の伊藤洋志さん。講義にはどんな人たちがやってきて、どのような場になっているのでしょうか。講義をとおして得られる視点や気づきをどうやって実践するのか。伊藤さんは、自分の生活からスタートすることがポイントと言います。多くの人と共通項が生み出せるナリワイの仕事とは?聞き手は、自由大学学長の和泉里佳さんです。

聞き手:和泉里佳(自由大学学長)
司会:高橋宏文(フリユニラジオ編集長)
写真:水澤充

part1 仕事をつくるためのフィールドワーク
part2 無駄な支出からアタックする
part3 「ナリワイをつくる」の講義が目指すもの
part4 ちょっとしたアイデアを発表できる場


「ナリワイをつくる」の講義が目指すもの

和泉 「ナリワイをつくる」の講義は、始めてもう3年になりますよね。どんな人が来ていますか?

伊藤 けっこういろいろで、基本的には、会社勤めをしていてこのまま40年働き続けるのかとかある程度疑問に思っている人が来るのと、あとはたまに学生の人や、就職活動中でハローワークに行っても気分が盛り下がるだけでこれは何なのでしょうかという人とか。

和泉 「ナリワイをつくる」の講義って仕事を紹介するわけではないけど、仕事のつくりかたのヒントを見つける場所だったりしますよね。

伊藤 最近は実際に仕事を紹介できるような気もしてきているんですよね。雇用ではないケースですが、たとえばある町で繁盛していた鰻屋さんがつぶれたんだけど、やる人がいないから鰻屋さんがなくなったとか。単に歳をとってパタッとやめるケースが多いわけですね。でも、事業のモデルとしてはこのままトントンのプラスアルファくらいで続けていけるだけの利益は出ているけど、単にやる人がいなくてなくなってしまうと。ぜんぜん保証はないけど、たとえばそういうところに若い人が行って鰻屋をやれば、今までそこでうなぎを食べる人たちがいたからその店は保たれていたわけなので、ハマればぜんぜんいけると。そういうのが京都の純喫茶にもすごくたくさんあって、みんなそろそろ年齢がヤバイんですよ。だから東京でカフェを新しく立ち上げるよりも、京都の純喫茶を切り替えすほうがよっぽど面白いかもしれない。新しいお客さんを開拓しつつ、いつも来ているおばあちゃんにも受け入れられるような切り替えをちょっとだけできれば…。

和泉 そういうことが時代をつないでいくことにもなるし、いきなりパタンって変わるのではなく、受け継ぎながら新しいものをつくるってことですよね。

伊藤 そういう流れを「ナリワイをつくる」の場で紹介していくことができるかもしれないなと最近思うようになりましたね。

和泉 そういう探究心と目のつけどころがいつもすごくいいですよね。

伊藤 自分が楽しみたいというのがまず第一にありますし、それが基本にある。だから最低ラインは「自分」なわけですよね。自分が「これはいいや」と思うものをクリアしないとダメで、それができないものもたくさんある。その場合は自分の仕事ではないということで諦めるのですが、超えられるものがあったときはそれをほかの人にも適用できる方向に工夫して変えていく。そうすれば仕事に成長していくのではないかと思うわけです。ボーダーラインで止まった場合は、自分の趣味として満足するってことですね。だからそういうものをいろいろ探していくと、いつか仕事になるものもあるし、趣味で終わるものもある。その細かいチャレンジがたくさんできればいいんじゃないかなと思いますね。

高橋 今までの時代だと、とくに会社勤めをすると仕事にたくさんの選択肢はなくて、基本的にあたえられた仕事をやるしかないという思い込みのようなものがあったと思うんですが、伊藤さんが「ナリワイをつくる」の講義をやっているなかで、受講生の人たちの仕事に対する意識って変化してきていると思いますか?

伊藤 潜在的には変わってきている人たちが受講しに来ていると思いますよ。この講義を発見してくれて「なるほど、こういうやりかたもあるのか」ということで受講してくれる。受講前の段階では「就職しかないかな」という気持ちでやってくる人も多いと思いますけど、それは僕の学生のときと大して変わっていない気はしますね。僕もひたすら就職サイトを調べまくっていたので、そうするとある一時期、「そこ以外にはない」という感覚になってしまう。そこでしか探さないからですね。でも試しにGoogleで「求人・日本文化研究」というワードで検索してみると、いろいろなものが出てくる。そうすれば「就職サイト以外にもあるんだな」ということになって、だんだん増えて広がっていく感じですね。まあ、わずかな作業ですけどね。検索サイトで直接探すか、就職サイトのなかで探すか、というちょっとした切り替え。

和泉 でもそれって、自分では気づかない限界をつくっているところだったりもするし、もしかするといつも通っているカフェで求人を見つけることもあるかもしれない。そういうレイヤーがあることを知ってその感度を高めるというのが、「ナリワイをつくる」の講義のなかでもポイントのひとつだったりするのかなあと。

伊藤 やっていて、そういうふうになればいいなあと思いますけどね。講義では「無駄な支出を考えてくる」という課題もあったりして、これはそういう練習なわけですよね。

 

 

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和泉 仕事をするというのは本来、対等であるはずで、お金を払うほうが偉いわけでもないし、どちらが偉いわけでもないのに、そういう常識のなかに現代の私たちは取り込まれつつありますよね。先ほどの、求人サイトで探すか検索サイトで探すか、というのと同じように、お客さんとのビジネスという関係性に入るか対等な関係性でやるか、というのは、ちょっと視点を変えるだけなのにすぐ忘れてしまう。「ナリワイをつくる」では、そこに気づくきっかけにもなるのがいいですよね。

伊藤 そうですね。ナリワイの仕事って、基本的に自分の生活からスタートするわけです。だからある意味で素人性が高いんですが、自分がほしいものとか生活のなかから出ているものを他人に提供しようかなと。すると、だいたい共通項が生み出せる。「壁をぶっ壊したいですか?」と聞けば「ストレスが溜まっているので、ぶっ壊したいです」となる。たとえば謎すぎるビジネスモデルを出されても、「はあ〜っ、変わったことをしていますね」で終わっちゃうし、隣の人と共通項を見いだしにくいケースが多い。でも、ナリワイは生活と仕事があまり乖離しないようにしているので、だいたいの人がちょっと面白そうだなと思える余地が見いだせるわけですね。そうすると、たとえば壁と無縁の人生を送っている人はいないわけで、みんなが壁について話すことができる。そういうところで人との関係を築いていく余地があるなと思います。そのテーマ設定は各自が工夫しなくてはいけないところですが、テーマ設定をつくるのがうまいというのは、ナリワイをつくるうえでは非常に良いことだと思うんです。そういう意味では、自分のハードルを最初に超えられればもう大丈夫じゃないかというのは、一個人がいいと思ったものは共感する人が何人もいるだろう、ということからですけど。

和泉 そうですね。自分がいいと思ったものには「好き」という気持ちがあふれるじゃないですか。それにみんなが共感するということはありますよね。

伊藤 逆に、なんか大して良いと思っていないものを勧められても、ちょっとね…(笑)。


伊藤洋志
ナリワイ代表

1979年生まれ、香川県出身、京都大学森林科学専攻修士課程修了。LLPナリワイ。零細ベンチャーの立ち上げメンバー、農業ウェブマガジンの編集長を経て、頭と体をつかう生活と仕事が一体化したナリワイづくりをテーマに個人サイズの仕事作りに取り組む。
ナリワイ 古今燕 twitter: @marugame

part4 ちょっとしたアイデアを発表できる場



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