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道具に宿る美意識

FREEfromFREEDOM!

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隔週で発行している「自由大学マガジン」の人気のコラム、FREE from FREEDOM!そのバックナンバーをお届けします。


先月、自由大学では硯(すずり)職人に弟子入りして、自分の手で硯を彫るプログラムを実施しました。子供の頃、書道の時間で使ったあの硯です。同じく子供の頃図工で使った彫刻刀の何倍も大きなノミを持って数時間。彫って彫って、全員が見事に硯を完成させました。 出来上がって驚いたのは、一つ一つ形が違う個性あふれた硯が並んだこと。

四隅を削ってアールをつけた人、逆に角をきれいに残してシャープに仕上げた人。そもそも硯の内側(墨を擦る部分)を四角ではなくて、まるで人の手のような形にしちゃった人など。硯という見知った単純な形の中にも、こんなに個性が発揮される余地があるのだということに気づかされました。書は人を映すというけれど、書をかく前の道具づくりからすでに人格は宿っているのですね。

墨を擦る時間はいわば、日常から書をかくモードへの切り替えスイッチ。心を鎮め、書に向かうための大事な時間。そこでどんな道具を使うかで、きっと作品は変わる。道具の機能性も大切だけど、自分でつくった愛着のある硯や自分の美意識が反映された硯なら、クリエイティビティをより一層引き出してくれるに違いない。みんなが作った硯は、書をかくときにわざわざ出してくる道具ではなく、いつもその人がいる部屋に自然と置いてあるような、そんな存在にも見えました。もしそんな硯があったら、これからの書の文化はもっと身近なものになるかもしれない。

しかし、自分で硯を彫る機会に遭遇する人はほとんどいないし、文具店に行っても硯などほとんど置いていなかったり、選択肢はとても少ない。そもそも書をやる人が減り、書道教室でも墨を擦らずに墨液を使うところがほとんどという現状。自由大学では、昨年秋から宮城県石巻市雄勝町の硯産業の復興プロジェクトに参画し、硯を書という文化や、文房具という視点から学ぶ講義をつくってきました。

今回、自由大学では硯職人のもとでMy硯をつくりましたが、プロジェクトの方では石のアーティストやプロダクトデザイナー、7人に依頼して、新たな硯をデザインしてもらいました。現在の書のおかれている状況の理解から始め、これからの書の文化をつくろうというコンセプトのもとで作られた雄勝硯。もうすぐお披露目となります。

Contemporary Ink stone Exhibition of OGATSU.
会期:2014年3月14日(金)~18日(火)
時間:12:00~19:00
場所:みどり荘(東京都目黒区青葉台3-3-11)
http://midori.so/

text: 小酒ちひろ(クリエイティブチーム)

[自由大学マガジン vol.103 2014/4/2]


カテゴリ: ☞ コラム


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