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自由に生きるための冒険

フリユニラジオ編集長 高橋宏文

隔週で発行している「自由大学マガジン」の人気のコラム、FREE from FREEDOM!今回はニューメディアラボ キュレーターの高橋宏文さんの文章です。


自由大学にはいつもいろんな職業の人たちがやってくる。会社勤めのかたわらで新しいことにチャレンジする人から、僕のようにフリーランスで活動する人まで、その生きかたはさまざまだ。みんなが自由大学のような場に惹かれてやってくるというのは、それぞれにきっと動機も違うのだろう。でも、自分の人生をもっとよりよい自由なものにしたいという思いはどこかで共通しているように感じられる。

では、自由に生きるとはいったいどのような状態を言うのだろうか。そのことについて考えるとき、僕はいつもあるミュージシャンのことを思い浮かべる。スコットランドのグラスゴーを拠点に活動しているザ・ブルー・ナイルという3人組のグループだ。

ザ・ブルー・ナイルは、ごく一部の音楽ファンから熱狂的な支持を集める「ミュージシャンズ・ミュージシャン」であり、「英国音楽の秘宝」とも言われる。彼らのことでもうひとつ特筆すべきなのは、そのアルバムインターバルの長さだ。1980年のデビュー以来、彼らがリリースしたアルバムの数はたったの4枚。平均すると、約8年に1枚というペースである。

彼らはいつでも、音楽と誠実に向き合うため、とことん納得がいくまで作品を磨き上げてからリリースする。そのためには、毎年1枚のペースでアルバムを発表するような音楽シーンとは一線を画す必要がある。その生きかたには勇気と覚悟がいるだろうし、多くの孤独だって味わうかもしれない。また、それらを実現するための環境づくりも重要になってくるだろう。

中心メンバーのポール・ブキャナンは、あるインタビューで「幸せであることとは?」と訊かれて次のように答えている。「さっき絵を描いていたんだ。線路があって、電車が路線を外れて野原を走り始め、乗客が窓から頭を出して手を振っている。もう電車は線路を走ることなく、自由な冒険ができるようになった。それが幸せというものかもしれない」。

今、自由大学に来ている人たちや興味を持っている人たちと話してみると、みんな何らかのかたちで「自由な冒険」を模索しているように感じられる。そう言う僕自身もそれをずっと模索しているところだし、偉そうなことは何も言えない。でも、この世の中には最高のスタンスで最高の音楽をつくりながら生きている人たちがいる、ということだけは知っている。

もちろん僕らはミュージシャンではないので、ザ・ブルー・ナイルのような生きかたは参考にならない、とあなたは思うかもしれない。それでももしかすると、どんな仕事であっても、ポール・ブキャナンの言う「自由な冒険」はできるのではないか、と僕は思う。そんな信念と美意識を持って生きること。それが、ザ・ブルー・ナイルという存在から僕が得た、自由に生きるための指針のようなものである。


カテゴリ: ☞ コラム


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