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FREE from FREEDOM

隔週で発行している「自由大学マガジン」の人気のコラム、FREE from FREEDOM!そのバックナンバーをお届けします。


 

スピードの速い現代社会の中で、自分の操縦桿を握りなおす方法をいくつ持っておけるか。それこそがしなやかに自由に生きながらえる秘訣ではないだろうか。

自由大学で「脱藩学」を受講し“脱藩”する前、私は金融機関で働いていた。何事も回転を速くすることが求められる毎日の中で、必要に応じて自分自身をペースダウンする必要性を切に感じていた。ではどうやって?人によって手段はヨガ、瞑想であったり、趣味に没頭することであったり、お酒を飲むことだったり。私の場合はいろいろ模索をした結果、学生時代の恩師からすすめられた茶道にいきついた。

茶道がなぜ効いたのか。茶道は五感を刺激する。オフィスにいては使わなかっただろう感覚が色鮮やかに蘇るのだ。しのばせた香の薫り、松風の音にたとえられるシュンシュンという湯の沸く釜の音と衣擦れの音。繊細な甘さの菓子とほろ苦い抹茶の味。たてられた抹茶は深い緑色。ひと肌に温められた茶碗のぬくもり。お茶室の内外に四季があり、自然とのつながりも思い出させてくれる。人間らしく生きている、そんな嬉しい実感があったりする。

思想という面でも、仕事では「マルチタスク!スピードアップ!発言・質問・メモをとる!」という反射神経を鍛えることが求めら
れてきたのに対し、茶道では「動作をもっとゆっくり『能』の歩き、所作は体で覚えるものであり頭で覚えなくてよい」ということが
繰り返される。二つの相反する価値観を行き来するスイッチが組み込まれることで、今いる世界の輪郭が見えてくる。たまたま今いる場所がすべてではないことを思い出させてくれほっとするのである。

お茶室に座っているときは相手においしいお茶を飲んでもらいたいということ以外、頭は空っぽ、何も考えない。それは凝り固まった心、嵐のような頭の中を調律する時間だから。

感覚を蘇らせる場所、違う価値観で成り立つ世界、主体的に日常のスピードを緩める場所、を生活の中でもう一つ持つことは、自分が時間の主導権を握るためにも必要なことではないだろうか。

text: 花村えみ(クリエイティブチーム)

[自由大学マガジン vol.126 2015/1/21]



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