ブログ

ヌーボー信仰からの自由

日本ワイン学教授 大滝恭子

自由大学マガジンの人気のコラム、FREE from FREEDOM!今回は、日本ワイン学教授 大滝恭子さんの文章です。


日本ワイン学を担当している大滝恭子です。ワインエキスパートという資格を持ち、ワインの楽しみ方を広める仕事をしています。

ヌーボーの季節ということで、新酒についてのうんちくを少し。ワインは元来ヨーロッパでは農作物でした。原料のブドウが米や麦などと違い保存ができないため、その年のブドウの出来によりワインの品質や生産量、価格にまで影響しました。だから良いブドウが獲れてよいワインが出来たことを祝い新酒を飲んだのです。もとも
とは関係者が地元のワインを飲む規模だったのが世界的なビッグイベントになったのは、フランスのボージョレという産地の新酒をフレッシュ感を売りにして輸出しようというマーケティング戦略からでした。

生産者委員会が解禁日を設けたことが人々のレア感を煽り、フランスでそして世界中でボージョレの新酒を待ちわびる構図が出来上がりました。90年代のバブル期、健康志向の赤ワインブームに沸いていた日本はそのマーケティング戦略にまんまとはまり、11月の第3木曜日にはあちこちで派手なボージョレ・ヌーボーのパーティーが開かれました。その後ワインがもっと日常的なものになり、ワインをちゃんと味わう人が増えてくる中で、ボージョレ・ヌーボーなんてそんなに有難がって飲むワインじゃないというような風潮に傾いていき、今ではスーパーでの最安値が話題の中心になってしまいました。

けれども、新酒は1年のうちで今しか味わえないもの。初物を食べるのは縁起がいいし、旬を大事にする日本人の食に対する感性に合うのでしょう。

大ブームは過ぎても、毎年この時期には新酒を、という風潮はこれからも続くと思います。最近はボージョレ以外の地区や、イタリア、そして日本ワインの新酒などもこの時期に多く見かけるようになってきました。熟成したワインとは一味違うフレッシュさを味わうよい機会と捉えて、もっと自由に楽しみたいものです。


カテゴリ: ☞ コラム


関連するブログ