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カフェで旅をつくる

アキバガイド学キュレーター 桐澤智子

FREE from FREEDOM

隔週で発行している「自由大学マガジン」の人気のコラム、FREE from FREEDOM!今回はアキバガイド学 キュレーター桐澤智子さんの文章です。


私は今、静岡県三島市で、観光に関わる仕事をしています。といっても、実際は小さなカフェを営んでいるだけです。

三島は15年ほど前から観光に力を入れるようになった街。私の店にも色々な所から観光客が訪れます。私は道を訊かれたりお土産の情報を提供したり、ちょっとした会話をする程度ですが、皆さんが旅を楽しむきっかけが作れたらと思っています。

「観光にまつわる仕事をしたいなら、ホテルとか市役所の観光課とか旅行会社で働けばいいのに、なぜカフェなの?」と言われたことが何度もあります。でも私は、職業選択が自由なのと同様に、仕事を選ぶ動機も自由であるべきだと思っています。

観光の仕事をしたいからといって旅行業界に仕事のフィールドを絞る必要はありません。旅する人と接する仕事は、ホテルや旅行代理店だけではありません。カフェでも八百屋でも自転車屋でもいいと思います。ついでに言うと、カフェをやるのは料理人でなくてもいいし、カフェを営む動機としては「料理が好き」と同じくらい「この街に興味がある」「観光客と触れ合いたい」だってアリだと思うのです。

私がキュレーターを務める自由大学の講義「アキバガイド学」でも、ここは最も掘り下げたいポイントのひとつでした。アキバを案内するのにオタクである必要はない。プロのガイドでなくてもいい。ガイドする相手は家族や友達でもいい。たくさんの人・モノ・情報が常に行き交っているアキバだからこそ、なおさら自分が素直に面白いと感じるものを選び、相手に伝える感覚が重要になると考えたのです。

観光客の方と接していてたまに驚くのが、「ガイドブックに載っているお店以外は入らない」という人や「テレビで紹介された場所だけ巡りたい」という人が多いことです。近くにとびきりの名所があっても「載ってないから」と素通り。かと思えば、大して興味がない店なのに「テレビに出てたから」と行列に並んだり…。

失敗を恐れる気持ちが強いのでしょうか。好きなものを素直に選べない人や、旅を自分らしくカスタマイズすることを楽しめない人が増えていると感じます。年配の方だけでなく20代の若者にもたくさんいます。私は、あまりに残念な回り方をしている人は放っておけず、お節介と思いながら「帰りの新幹線を1本遅らせて○○に行きましょうよ」などと言ってしまうこともあります。

相手の好みを探りつつ、主観的に自分がいいと思う所を紹介するスタイルは私の性に合っているようで、これを実現するにはやっぱりカフェでよかったのだと思います。旅行会社や観光案内所の人がやったら怒られそうなやり方です。

そんなことを2年ほど続けているうちに、旅行客の方が少しずつ私の意見を求めてやってくるようになりました。敢えて何もプランを持たずにカフェにやってきて、その場で偶然見つけた情報をたよりに散策する人もでてきました。

この調子で、もっとたくさんの人が、ガイドブックに頼らず、自分の気持ちの赴くままの旅を楽しんでほしいです。そうなって初めて、私がカフェを開き、アキバガイド学を作ったことの意義が生まれるのだと思います。


カテゴリ: ☞ コラム


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