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「文脈登山」の始まり

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隔週で発行している「自由大学マガジン」の人気のコラム、FREE from FREEDOM!そのバックナンバーをお届けします。


世界有数の大都会・東京は、日本有数の“日帰り登山”の聖地。
こう言うと、ちょっとアウトドアに覚えのある人ならピンとくるだろう。

東京は、鉄道網が東西南北に極端に発達している。いつもと変わらない地元の駅から、いつもとは異なる方向へと向かえば、そこには大型商業ビルの入口ではなく、「登山口」がある。人が作り出すコンクリートで“上書き保存”が続けられる世界よりも、はるかに大きな「山」が、上書きされない姿で、静かに横たわっている。

地方から出てきたぼくにとって、実は東京が「自然に溢れた大都会」だという事実は、大きな喜びだった。なにせ、クルマがなくたってすぐに山に行ける。登山口が駅の近くにある山が多いということが、実に“都会”っぽい。休日早朝の中央線で、山に向かう人のラッシュアワーに遭遇するなんて、上京当時は考えもしなかった。

ところで、山には頂というものがある。その山の中で最も高い場所。ここを目指す登山を“ピークハント”と言う。いささか乱暴な言い方だが、登頂そのものを目的とする登山のことだ。

『東京・日帰り登山ライフ』は、登山は“手段”だという話から始める。
たとえば、日本という国の面白さを知る手段として。
あるいは、自分の暮らす地域の魅力を味わう手段として。
ピークハントに縛られない、登ることのみにとらわれない、自分らしい山との付き合い方を見出してもらうべく、山にまつわる歴史文化や地域伝承と現代社会との関係について話している。
登山というものを大変な行為だと思っていた人の多くは、この話を聞くことで、山に対する印象がガラリと変わるようだ。少なくとも、自分が知らないことを教えてくれる最高に楽しい舞台が「山」なのかもと、脱ピークハントのきっかけを掴むかもしれない。

人から聞いた話を手繰りながら、山を歩く。
自然の中に残された文化や営みを探しに、山に分け入る。
小説や伝説を追いかけて、山で過ごす。
ぼくは、この根底に流れる“文脈”に魅力を感じて、山と付き合っている。言うなれば、山脈ではなく、文脈を旅する登山だ。

山を楽しむ手段は数あれど、今日もまた、山や麓の面白い話を求めて、地域の伝統文化に携わる友人のところへと足を運ぶ。
その一歩が、文脈登山の始まりなのだ。

text: 大内征東京・日帰り登山ライフ 教授)

[自由大学マガジン vol.138 2015/7/8]

 


カテゴリ: ☞ コラム


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