講義レポート

情報無料化時代の出版の価値とは

「ベストセラー企画会議」講義レポート

こんにちは、学長の和泉里佳です。原宿IKi-BAキャンパスで開催中の新講義『ベストセラー企画会議』。ベストセラーとなるような本の出版を目指す人が集まりそれぞれの企画を考えていくこの講義、今回はNHK出版松島倫明さん(@matchan_jp)をゲストに迎えた第4回の様子をレポートします。

松島さんは、あの一世を風靡した『FREE』『SHARE』『PUBLIC』の三部作をはじめ、『BORN TO RUN 走るために生まれた』、そして映画化もされている今話題の小説『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』など、みんな書店で一度は目にしたことのある作品を手がけたまさにベストセラー編集者。数々のベストセラーが生まれた経緯や編集者的視点に教授の中吉さんが迫りました。


本が好きで書籍編集者になったという松島さん。編集者というのは、売れれば売れるほど自分のやりたい作品を作っていけるという仕事だそうですが、これから著者になろうという受講生に向けていろいろな話をしてくださいました。まずは雑誌と書籍の違いについて。常に〆切がありどんどん新しいテーマで作っていく雑誌は短距離走、それに対してひとつの事柄にこだわりとことん突き詰める書籍は長距離走に例えられ、扱う情報のタイプや量も異なります。また著者と編集者の役割や視点の持ち方の根本的な違いにも迫りました。

松島さんは主に翻訳書を担当されているので、通常は著者が行うようなソーシャルメディアを使ったプロモーションでも実績のある方。2009年9月の「フリー」の発売時には本のテーマにもなっている無料経済の体験として1万人に無料ダウンロードを実施し、当時まだ日本で使われて間もない頃のTwitterで大きな話題となった時のエピソードや、「BORN TO RUN」の公式Twitterアカウント@BornToRun_jpでの走るリアルコミュニティーづくり、最近では「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」のリアルな感想RT戦略など、これからデビューする著者の卵たちも目を輝かせながら聞き入っていました。

編集者としてどんな人に著者オファーしたいか?その他、ソーシャルメディアを使った著者デビューの可能性や、いま気になる分野や興味のあるジャンル、電子書籍の現状と今後の展望など、話は多岐に渡りました。

なかでも電子書籍の話では、電子書籍がライフスタイルとして馴染み市場が大きく拓けているアメリカではセルフパブリッシングバブルが到来しているそうです。誰でも自由に自分の作品を世の中に出すことができるということは、質の振れ幅がとても大きくなるという現実を引き起こしていて、市場の電子書籍の99%以上は1年に1冊しか売れないという状況も有り得るとのこと。でもそれは一方で、リアルな書店では面積がなくて置けない本でもインターネット上では1年に1冊売れる新たなニッチ市場が生まれていると捉えることもできるし、今晩からでも著者デビューできる可能性が眠っているとも言えます。

「フリー」でも書かれている通り情報が無料化する時代において、紙で出版することの意味、5年10年先にも残っていく価値観や、お金を払ってでも手に入れたい情報とは何か?を改めて考える時間になりました。この先情報がどんどん電子化されても、「質や役割は変わってくるものの、紙の本はなくならない」という松島さん中吉さんお二人の力強い言葉が印象的なあっという間の熱い1時間半でした。
次回はいよいよ最終回。前回までの宿題で強みの際立つプロフィールが次々と完成し、明らかに皆その表情にも自信が見えてきた受講生たち。最後はどんな企画発表会になるのか楽しみです。



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