講義レポート

セルフプロデュース戦略とプロフィールづくり

「出版道場」講義レポート

こんにちは。「出版道場」で助手を担当している鈴木貴大さんから、第1回に続き、7/28(木)に行われた第2回の講義レポートが届きました! さっそくご紹介いたします!


出版道場」助手の鈴木です! 第2回の「出版道場」は、ゲストにK-1日本王者・長島☆自演乙☆雄一郎さん芥川賞作家・長嶋有さんを迎えて行われたプレミアム講義。鈴木教授もいっちょうらの初音ミクTシャツを着て、気合が入っていました。コスパの通販で買ったそうです。
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▲身長は3人とも同じくらいなのに、キャラが全然違います。


鈴木教授が自演乙さんの著書『自伝乙』(スコラマガジン)でエージェント、長嶋さんのブルボン小林名義での著書『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』(太田出版)で編集を担当したことから、今回のWゲスト講義は実現。最初に鈴木教授から、ふたりの名前がとてもよく似ている(本名:ナガシマユウイチロウさんと、ナガシマユウさん)という意外な共通点の紹介がありました。

そこに、長嶋さんから追加の補足が。「僕は賞を獲ったとき、書き込んだこともないのに2ちゃんねるに『自作自演、長嶋有』というスレッドを立てられた。だから実はナガシマだけでなく自演乙つながりでもあるんですよ」と! これには自演乙さんも鈴木教授も驚いたようです。

ちなみに、自演乙はネットスラングで「自作自演おつかれさま」の略。2ちゃんねるを代表とする匿名掲示板では、本人が別人のふりをして自分を褒めたりすることが可能なため、ポジティブな意見には「自演乙」「本人乙(本人おつかれさま)」などと書き込まれることが多いのです。

さてさて、第2回の講義テーマは、「売れる!と思わせるプロフィールのつくりかた」。前回のレポートにも書きましたが、鈴木教授いわく、出版社の編集会議で使われる書籍企画書で、プロフィールは最重要項目。プロフィールがぐっとくる人なら、テーマが微妙でも「このテーマじゃ厳しいけど、別のテーマで書いていただくことはできないの?」と話が前向きに進んでいくからです。

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▲受講生のみなさんも興味しんしん。立っているのが僕です!

まずは、自演乙さんから、無名のジムからK-1という民放ゴールデンタイムで放送されるリングに上がるまでの経緯を語っていただきました。いまでこそK-1日本王者のコスプレファイターとして知られていますが、キックボクシングを始めた当初は、無名のジムに所属する唯一のプロ選手でした。格闘技選手のピークは短く、よくて5年といったところ。自演乙さんがピークにあるうちに目標だったK-1のリングに上がるためには、自分の力で「おもしろい!」と思わせるプロフィールをつくることが必要不可欠でした。

「本の著者になるのは、売れる売れないを無視すれば、日本で1年間に出版されている約7万冊のうちの1冊になるだけだから、それほど難しいことじゃない。でも、これまでK-1選手を輩出したことのないジム、しかも当時はスパーリング相手もいないジムからK-1に出て、しかもチャンピオンになるというのは奇跡に近いこと」(鈴木教授)

格闘技のプロ選手は強くて当たり前。もちろん、試合で全勝していけばいつかはK-1のリングに上がれたとは思う。でも、身体的にピークにあるうちにリングに上がるためには、多くの人に『おもしろいファイターがいる』と思ってもらって、そのスピードを早める必要があった。それに役立ったのがコスプレと”自演乙”というミドルネーム。僕が魔裟斗さんのデビュー当時のように遊び人キャラを装っても、実態はオタクなので絶対に無理がある。格闘家でキャラ立ちしている人がいない分野で、本当に好きだから嘘がないもの。それがネットと萌えアニメだった」(自演乙さん)

「『自伝乙』を読むと、格闘技の人脈が広がっていく過程が、『mixiで○○さんに誘われて』とかサラッと書いてあるんだけど、これは90年代ではあり得なかったこと。仲間とかコネがなくても、ネットで気の合う練習相手を見つけたりとか、積極的にネットを使って自分で切り開いていっているのがおもしろかった。これは格闘技じゃなくても、何にでも応用できることだと思う」(長嶋さん)

「mixiでも、プロフィールを見てもらって関係が広がっていった。プロフィール欄はSNSでも重要な部分と思う」(自演乙さん)

自演乙さんのブレイクのきっかけとなったのが、2ちゃんねるの「痛いニュース」板でした。コツコツとコスプレ入場をしながらキックボクシングで連勝街道を走っていた自演乙さんが、初音ミクのコスプレで入場してニュージャパンキックボクシング連盟(NJKF)のタイトルマッチに勝利したことが、「痛いニュース」板で話題になったのです。

スレッドのタイトルは「初音ミクのコスプレをしたアニヲタのキックボクサー『長島☆自演乙☆雄一郎』が圧勝で新王者に」。このスレッド、2ちゃんねるのおもしろいスレッドをまとめた人気サイト「痛いニュース(ノ∀`)」(月間1億ページビューを誇るニュースサイトです)にも転載され、大きな話題となりました。鈴木教授もこのサイトを見て、自演乙さんの存在を知ったそうです。

痛いニュースに転載されたら、それまで2,000くらいだったブログのアクセスが、いきなり5万とか10万になった。それでなんかおもしろいやつがいると話題になって、フジテレビ『スーパーニュース』と『週刊アスキー』に紹介してもらえた。2ちゃんねらーからは自演乙という名前のおかげで『俺らの仲間がキックボクシングやってるぞwww』みたいな好意的な反応が多かったけど、『ブログに書いてるの最近のアニメばかりだからにわかじゃね』という批判もあって。ただ、プロフィールの好きなスポーツに『大運動会』と90年代に流行った古いアニメのことを書いていたら、『こいつやりおるで』『バトルアスリーテスか懐かしいな』などと言ってもらえて」(自演乙さん)

「『バトルアスリーテス大運動会』ってセガサターンのゲームから派生したやつ? あ、急にこんなところでオタクの会話で盛り上がってすみません!」(長嶋さん)

自演乙さんはネットユーザーのなかでも2ちゃんねらーに向けたアピールがきっかけで支持を得ていき、キックボクシングを始めてから2年半という史上最速のスピードで、2009年にキックボクシングの最高峰K-1の舞台に立つことに成功しました。そして2010年、K-1日本王者に輝き、年末の「Dynamite!!」では総合格闘技のDREAM世界王者・青木真也選手に衝撃の2R4秒KO勝ちを果たしました。

自演乙さんのすごいところは、試合もそうだけど、常に他人の目、お客さんの目を意識していること。バイトのときに書く履歴書と一緒で、プロフィールは自分ではなく他人に見せるものに他ならないので、自演乙さんのように知らない人がおもしろがってくれるかどうかを考える必要がある」(鈴木教授)

自演乙さんは今年プロレスデビューも果たしましたが、デビュー戦で大柄な佐藤耕平選手と戦う際に作戦を「コードネーム:進撃の巨人」と名づけたところ、当時は面識のなかった『進撃の巨人』(450万部突破!)の作者・諌山創さんが当日駆けつけてくれたそうです。その他、たくさん他人の目を意識するためのヒントをいただいたのですが、文字数が足りません!

続いて、長嶋さんから小説家としてデビューしたときのお話をしていただきました。竹内結子主演で映画化もされているデビュー作「サイドカーに犬」は、それまではあまり小説の舞台として描かれなかった80年代のキーワード「山口百恵」「パックマン」などが散りばめられた異色の作品です。長嶋さんは”他人のやらないこと”を考えて、「サイドカーに犬」の舞台設定を考えたそうです。小説は漫画などと同様にプロフィールよりも内容が重視されるジャンルですが、長嶋さんが舞台を選んだ過程は、自演乙さんのセルフプロデュース戦略と多くの共通点を感じました。

「そういう(多くの読者と出会いたいという)野心は僕にもあった。90年代から文学賞に小説を送ったけど、1次選考、2次選考は通過しても、なかなか最終選考まではいかなかった。書きたくないことを戦略的に書くということはしないけど、書きたいことで、自演乙さんと同様、人のやらないことをやろうと思っていた。エヴァンゲリオンや酒鬼薔薇事件などの影響もあったかもしれないけど、当時はリストカットとか暗いテーマを選ぶ人が多い傾向があってね」(長嶋さん)

「人間の中身、内面みたいな話ですよね」(自演乙さん)

「そうそう。同時に、90年代が2000年代に変わるころということもあって、みんな時代の最先端を行こうみたいな感じがあった。一方で、これは小説じゃなくて音楽だけど、60年代、70年代のリバイバルをする人たちも出てきて、単純に『80年代が空いてるな』と思った。80年代を小説で書く人はいなかったし、僕は80年代が思春期だったから、書きやすい。小説の中で何年の何月とは書かなかったけど、山口百恵が引退して松田聖子が出てきた、なにかが変わろうとしていた時代を舞台に据えようというのは、最初から決めていた。誰も書かないということは、書けば目立てるかもしれないと思ったから」(長嶋さん)

長嶋さんの戦略はずばりと当たり、「サイドカーに犬」は文學界新人賞を受賞。その後も芥川賞、大江賞を受賞するなど、躍進が続いています。「ただ、格闘技と違うところは、いま萌えアニメのコスプレしてる人がいないとか、他の、1,600人くらいいる応募者のデータがわからなかったこと」(長嶋さん)

長嶋さんは別名義のブルボン小林さんとして第5回講義にもゲストで登壇していただくので、また別の角度でたっぷりお話を聞けるのが楽しみです!

プロフィールは、一旦いいものをつくってしまえば、ちょっとアレンジするだけでずっと使うことができる。300字くらいだからつい軽視してしまうけど、実は本を買うときにすごく読者が重要視する部分でもある。重要じゃなければ、どんな書籍にも著者プロフィールが書いてあるはずがない。著者を目指す人は、まず真剣にプロフィールづくりに取り組んでみるべき。他人が見てぐっとくるプロフィールがつくれれば、応用で他人が見てぐっとくるテーマを選ぶこともできるはず」(鈴木教授)

講義はあっという間に終了し、受講生からは「1時間くらい延長してほしかった」という声も! それを聞いた鈴木教授もご満悦でした。みっくみくでよかったですね。今回、写真は遊びに来ていたプロカメラマンの大平啓吾さんにコンデジで撮影していただきました。大平さん、ありがとうございます!

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次回、第3回の講義テーマは「売れる!と思わせる専門家になる」。著者が書籍を出版するとき、読者が書籍を買うときに問われる著者の専門性について、フィジカルトレーナーの古家政吉さんをお招きして解説します!


第3回のゲストは、長島☆自演乙☆雄一郎さんのフィジカルトレーナーであり、講談社から筋トレ本の出版が決定している古家政吉さん。どんな講義が展開されるのかご期待ください!



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