講義レポート

おしゃべり時間を取り戻そう

キュレーターコラム 「ネオスナックをはじめる」キュレーター 荒井 啓

ネオスナックコラム

 

「なぜか楽しくない。やりたいことを実現しているはずなのにどうして」

僕の趣味は自主イベントの開催だ。ひとり幹事スタイルで企画・集客・運営をする。多少の苦労はあっても、構想した企画の実現と参加者の楽しそうな笑顔をやりがいに続けてきた。でも、3年ほど前にイベント開催に達成感はあっても、嬉しさや喜びを感じなくなることがあった。

そんな、ある日。知人の運営する日替わり店長制のネオスナックに足を運んだ。仕事でクタクタな日々、雑談不足だった。重い足取りで、線路脇の雑居ビルの階段を上る。普段は満席の時間帯。とんぼ返りを覚悟しつつ、ドアを開く。正面には知人と新人ママ。視線を動かすと…誰も…いない。電車の通過音が、ガタガタと店内をこだまする。どうも僕がこの日1人目の客のようだ。しかも開店してから2時間近く経過していた。

新人ママにとって思うような滑り出しではなかったようだが、それでもママ時間を楽しんでいる様子だった。話を丁寧に聞いてくれる姿勢は安心感があり、会話が弾んだ。気づけば閉店間際の時間になっていた。話した内容はもう覚えていないけど、ふっと心が軽くなったことは今でも忘れられない。

 自主イベントでは彼女のように立ち振る舞いたい、と帰り道に思った。参加者ともっと話したいし、プランにこだわり過ぎず目の前で起きていることを楽しみたい。この一夜をきっかけに会話を重視した少人数の場に興味を持つようになり、今では自主イベントの主軸は「1日スナック」になった。

今年初の「1日スナック」は客足が少なく、次のお客さんが来るまで、遊びに来てくれた友人と2時間くらいずっとおしゃべりした。今になってあの日の新人ママの気持ちが分かるような気がした。雑談する時間は楽しい。その相手がいることも嬉しい。場を主催する人にとっても、遊びに来た人にとっても。そんなスナック活動を今後も気ままに続けたい。

TEXT:「ネオスナックをはじめるhttps://freedom-univ.com/lecture/neosnack.html/
キュレーター
荒井 啓

■プロフィール

1990年生まれ。静岡県出身。大阪大学大学院工学研究科修了後、材料研究の経験を活かして化学メーカーでの研究開発職からキャリアを始める。理系分野以外にも視野を広げようと自由大学の講義を受講したところ、人生の自由度の大きさや自分自身の美意識を育むことの大切さに感銘を受け、自由大学に魅了される。

現在は複業やパラレルキャリアを模索しながら、様々なプロジェクトに携わる。キーワードは自然派ワイン、出会いの場、キャリア自律、旅。ひとりひとりが自分自身にフィットし心が躍るような未来を実現できるような場作りや仕掛け作りに取り組んでいる。

・NPO法人二枚目の名刺 プロジェクトデザイナー
・ナチュラルワイン/自然派ワイン 主宰 (オンラインコミュニティ)
・日本合コン協会 認定合コンマスター
・スナックイベント 定期開催

 

■影響を受けた本

『鉱物採集・フィールドガイド』(草下 英明 (著)/草思社

鉱物採集の方法や日本全国の鉱物産地が紹介されている実践的な鉱物採集のガイドブック。小学生の頃、偶然図書館の書架で見つけた一冊。巻頭写真の鉱物の美しさに見惚れ、各鉱物産地の歴史や科学的な背景、採集のコツなどこれまで知らなかった世界にワクワクしながら何度も読み返したあの時の気持ちは今でも忘れられません。食わず嫌いをせずに様々な分野に興味を持つきっかけにも、理系の道に進むきっかけにもなりました。

 



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