講義レポート

本質を考えるフィンランド

クリエイティブ都市学−北欧学 第2回 ゲスト:Anni Ailinpieti(アンニ・アイリンピエティ)さん 講義レポート

「クリエイティブ都市学ー北欧学」のキュレーターの岩井です。

この講義は、毎回講義に異なる北欧の国(フィンランド、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー)の方をゲストに招き、トピックと都市やクリエティブを結びつけてお話してもらっています。
今回はフィンランドのインテリアメーカーとして80年以上の歴史を持つArtek (現在はVitra社)のAnni Ailinpietiさんにデザイン・ワークスタイル・都市ということでお話いただきました。

ミニマリズムではなく、クラリティー

「テクノロジーはアートを通じて磨かれ、アートもテクノロジーを通じて機能的、実用的になるべきだ」といったようにartとtechnologyを起源に始まったフィンランドのArtek社の歴史からAnniさんの話ははじまります。

モダンデザイン、バウハウスなどが全盛だった時代に立ち上がったArtek社は、合理的、機能的という部分に加え、自然の素材を取り入れるフィンランドのアイデンティティとも言える部分にフォーカスしたデザインを心がけているそう。
というのも、フィンランドでは5人に1人が森林地帯を所有しているほど、自然豊かな国だからです。
Anniさんはこのデザイン哲学を「Human Modanism」という言葉で表現します。

DSC03954

これ以外に持っているArtekのデザイン哲学でもある「Good design for everybody」という考え方は、フィンランドの国をカタチ創る考え方とも関連しています。スウェーデン、そしてロシアにも統治されていた歴史的な背景のあるフィンランドが独立した時に社会としても大事にしたい考え方として「みんなのために良いことは何なのだろうか。」という問題設定をします。

これに対して、Artekとして出した答えは、クラリティーなデザインであることだったそう。製造工程はもちろん、家具の構造としてもハッキリと明確で透明性のあるモノを目指す。
その姿勢が、ミニマリズムやシンプルと一言で括られがちな北欧デザインの中でもフィンランドらしい部分なのかもしれません。

貧乏な人は安いものは買っちゃだめ。

そうしたフィンランドとしての国のアイデンティティが確立していった中で、フィンランドの現地の人々は今、どういう価値観になってきているのかというと、長く使い古されて経年劣化により味が出てきたモノを大切にしていく人たちが増えてきているそう。
この味があることを現地では「パティナ」と言い、「いいパティナですね。」が褒め言葉になってきているそう。
この「パティナ」がしっかりと、味として残っていくためには、そもそものモノの丈夫さが肝になってくるとAnniさんは語ります。

DSC06462

フィンランドの首都ヘルシンキにあるArtek 2nd Cycle。いいパティナが揃う空間です。

だから、何かモノを買ったり、サービスを受けるときには、それがどのくらいまで使えるのか、それが暮らしにどのような影響をもたらすのか、などといったように目先の値段以上のことを意識的によく考えるのだといいます。

DSC09500

5月ごろから、屋外のアンティークマーケットが増えていき、店主とじっくり話をしている光景を目にします。

そういったモノの見方、価値観を端的に示した見出しの意味のようなフィンランド語の諺もあるそうな。

Noと言わないしつけ

このフィンランド的でより本質的な価値観はどこから来るのか?と疑問に思うかもしれません。

話はデザインからワークスタイル、ライフスタイルに移り、その中でAnniさんと姪っ子の話になります。ある日まだ幼いAnniさんの姪っ子さんが、危ない(いけない)ことをしてしまった時に、Anniさんは「ダメだよ!(No!)」と言ったそうです。すると保母さんとして働いているAnniさんの妹(姪っ子の母)に「フィンランドでは6歳までは〇〇してはいけないということは言わないんだよ」と指摘を受けたというエピソードを話してくれました。
その言葉の真意としては、ダメとひとこと言う前に、しっかりと選択肢を提示して判断させることをしつけているそうです。

これを教育という人もいるかもしれませんが、フィンランドではいたって普通の親と子のやり取りなんだそう。

こういった自分の意思で判断することを幼い頃から経験することで、何かを考える時により本質的なことを考えるようになっていくのかもしれませんね。

DSC03946



関連する講義


関連するレポート