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好きが高じて独立し、初めての著書「まるごとマルタのガイドブック」を出版

FLY_057|林花代子さん/フリーランス マルタ旅&留学ナビゲーター

今回登場するのは、念願だったマルタのガイドブックを先月発売したばかりの林花代子さん。マルタ共和国はあまり知られてはいませんが、イタリアの南側、地中海の中央に浮かぶ「地中海の宝石」とも呼ばれるほど美しい小さな島国です。林さんは37歳で会社を辞めて、語学留学に旅立ったのをきっかけにマルタの魅力に取り付かれます。しかし、知名度の低いニッチな国のガイドブックを出版するのは、簡単なことではありません。どのような道のりで出版まで至ったのか。多くの壁を乗り越えて、好きなことを実現する方法をお聞きしました。


 

まずは初めての出版おめでとうございます! 充実感がこちらまで伝わってきますが、そもそも林さんが自由大学へ訪れた経緯を、お話してもらえますか?

「マルタの本を出版して、マルタを多くの人に知ってもらいたい!」と思ったからです。これは、4年以上前から思い描いていた夢でした。これ以上、夢を先延ばしはしたくなかったので、具体的に実現するために必要なことを洗い出しました。すぐにできることから1つずつ実行していこうと。行動に移した1つが「自分の本をつくる方法」を受講することでした。

なぜマルタか。それは私自身がマルタ留学を検討していた時に、本屋にマルタ単独のガイドブックがなく、情報も少なくて困った経験があるからです。実際に行ってみて「こんな素敵な国がなぜまだ日本で知られていないのだろう。だったら自分が本をつくって、もっと多くの人に知ってもらおう!」と、無謀だけど絶対叶えたい夢を持ったのが始まりです。

 

マルタに語学留学に行ったのは、37歳の頃でしたよね。当時は、愛媛で働いていましたたが、住み慣れた地元を飛び出したのはなぜですか?

35歳を過ぎたあたりでしょうか、やりたいことを実現できていない自分が嫌になりました。本気で人生と向き合った時に「やりたいことを、やりたいことのまま終わらせる人生はやーめたっ!」と思ったんです。「”いつか”留学してみたい、東京で働きたい」、いつかいつか…と毎年同じことを言っているなと気づいたんですね。なぜ毎年思っているかというと、”いつか”をいつやるか決めていないから。やりたいのに行動を何も起こしてなかったから。仕事が忙しい、上手くいかないかも、と言い訳をしては、安全な毎日に流されて、行動しない自分を正当化していたところもあったと思います。

会社も仕事も、嫌だったわけではありません。むしろ地元愛媛での仕事はとても楽しかったですし、人にも恵まれていました。しかし、学生時代に経験できなかった「語学留学」や「海外生活」、そして「東京で働きたい」という思いが、ずっと心に引っかかっていたんです。他人にとっては大したことない心残りかもしれません。でも、自分の人生の中で「経験したい」と思ったことなら、やり残したまま40歳、50歳と年を重ねて人生終わっていいの?と強く思うようになりました。

「留学したい」「上京したい」と家族や友人に話すと、「その年で、今さらそんなことして何になるの?」と非難の嵐でした。しかし、実際に留学してみたら、私より年上の留学生や、自由に国境を超えてやりたい仕事や生活をしている人たちとたくさん出会って、急に視界が開けたんです。「いくつになっても留学していいんだ、やりたいことをやっていいんだ!」と。諦めて地元でずっと働いていたら、そんなことは知ることができなかった。一歩踏み出してみると、自由に羽ばたいている人たちがいて、違う世界があり、視野も行動も広がります。留学したことで、さらに上京への行動にも弾みがつきました。

 

帰国後、ブログを始めてマルタの魅力を発信していきます。マルタのどのあたりが、林さんを魅了したのでしょうか?

マルタの魅力を挙げればキリがないほどです。透明度の高い海、手つかずの豊かな自然、絵になる街並み、要塞や世界遺産の神殿など歴史も興味深い。小さな島国に、あらゆる魅力が点在している、まるで宝箱です。もちろんそれらの美しさにも心奪われましたが、一番魅了されたのは”不便さ”だと思っています。

電車もない、コンビニもない、バスの時刻表もあってないようなもの。それらを除けばヨーロッパの大都市と変わらない生活に必要なインフラはたいてい揃っていますが、満たされすぎてもいないシンプルな暮らし。そんな多少の不便さがあるからこそ、どうにか自分で工夫したり、与えられたものを大切に使ったり、人とコミュニケーションを取って助け合ったり。自分で大変さを乗り越え、人の力も借りて温かさにも触れられる。

なんだか、マルタはまるで「ヨーロッパの四国」のような感じがしたのだと思います。田舎から飛び出したのに、結局田舎の良さが染み付いていたようで…。田舎で、流行も遅くて、モノも情報も少なく不便なところもあるけれど、人は優しく温か、どこかほっと安心する…私が住み慣れた街と人が感覚的に似ていて心地よかったのでしょうね。

マルタは林さんにとって第二の故郷と言える場所なのだという。(撮影本人)

 

 

上京後は、編集プロダクションで働きながら、自由大学の講義を複数受けています。深井次郎教授の「自分の本をつくる方法」や森川寛信教授の「自分スタイル世界旅行」など。実際に今回の本づくりには役立ちましたか?

もちろんです。深井先生の「自分の本をつくる方法」では、本をつくるために必要なことを、多角的に学べたのがよかったですね。「出版の講義」と聞くと、書くテクニックをどう高めるかを考えがちですが、それだけにとどまらない内容なのです。「書くスキルだけが本をつくる全てではない」という学びを得た上で実際に今回の本づくりに挑めたのは、書きすすめる上で「ブレない軸」ができて、とても助かりました。

執筆中にも、講義テキストを読み返しては反芻しながら書いていました。講義内容が活きたことはいくつもあり、一番学べてよかったのは「自分はどういうタイプの書き手か」を知れたことです。これを知った上で書くのとそうでないのとでは、筆の進み具合や本の内容にも影響すると強く実感しました。診断では「スタータイプ」だったので、取材した情報を淡々と列挙するだけの書き方だと、どうも筆が進みませんでした。やはり私が見て体験して感じたことを、自分の言葉で私らしく伝えるようにすると気持ちが乗って筆も進みました。書き手の人称をどうするか、どういう語り口調で書くかで、本の全体像も変わるので、この方向で行こう!と納得する軸が定まるまでは、かなり試行錯誤しました。

 

しかし、出版社で採用が決まるまでには、多くの壁がありましたよね

「実績なし知名度なしの私」と、「市場が小さくニッチなマルタ」という、二軸の問題点をどうカバーするかですね。受講時にガイドブックの出版企画書はつくっており、当時深井先生からすでにご指摘頂いていたこれらの問題点は、出版社への企画提案中にも何度も壁として立ちはだかりました。

私の「マルタ留学ブログ」で情報発信活動は4年行っていたものの、情報深度を在住者並みのレベルに深めるためにどう補完するか、出版社がニッチな市場に乗り出すためにどうアプローチするかに正解はありません。出版社へ持ち込みをしてダメだったら次に活かし、常に走りながら攻め方を変えながら行動あるのみでした。

企画提案を始めてから、採用が決まるまでの期間は2ヶ月半。ほとんどの出版社からは、本のあとがきにも記したように「こんな小さな国、市場が小さすぎて本にならないし、売れないよ」と断られました。営業した11社のうちの1社に企画が通った要因は、他の多くの出版社と真逆のスタンスを持たれていたことです。「ニッチな国こそ面白いし、本にする意味がある」と採用に至りました。ブログやイベントの活動実績と、そこから一定数の読者と認知を得ていることから、「届くべき読者層にはきっと届く」という見込みと信頼を得られたことも要因のひとつです。

誰にだって「自分だからこそ書けること」がある。ポップ付きで並ぶ『まるごとマルタのガイドブック』林花代子(亜紀書房刊)

 

出版業界の常識的には実現困難な企画。それでも行動したことが亜紀書房での採用につながりました。執筆期間も長く大変だったと聞きました

「私だからこそ書けること」「私が書く意味をどう深めて形にしていくか」という点に苦労しました。大手出版社がシリーズで出しているガイドブックでもなく、在住者やタレントのガイドブックでもなく、小さな「林花代子」という人間がどこで勝負できるのか。それは、ないものを新しく作るのではなく、すでに自分にあるものの中から、小さなかけらでもよいので見つけ出し、深めて、煮詰めていく大変な作業でした。ここがないと薄っぺらい内容の本になってしまうので、編集者さんとも、自分とも何度も対話して掘り下げる作業を繰り返しました。

具体的には、既存本にはない「留学情報」と、人脈を活かして「留学経験者の声」を集めて掲載したり、「留学・旅行の経験者目線で本当に役立つ情報は何なのか」を突き詰めて考えました。これも深井先生のアドバイスですが、時代が変わっても左右されない情報として「成功するお店の真髄」や「オーナーの想い」などを手間暇かけても粘って聞き出したのは、「長く愛される本」にするために工夫したところです。

海外のガイドブックづくりは、相手が外国人ということでの時間感覚の違いや、すぐに行けない距離もあり、情報確認と許諾に時間も労力もかかりました。ここに時間をかけすぎると、情報が旬でなくなってしまいます。締切が刻一刻と迫る中で早急に返答をもらい進められたのは、現地在住者とのコネクションと協力者のサポートのおかげです。これまでにイベント活動やブログ発信で人脈を得ていたことが縁につながりました。自分の夢に理解があり、困ったときに助けてもらえる信頼関係を築けている仲間をいかに持っているかは非常に大切だと実感しました。

「うれしい、しっかり平積みされてますね」深井教授と書店まわり中のひとコマ。「先ほども1冊売れましたよ」と書店員さんから朗報をいただいた。(青山ブックセンターにて)

 

 

ようやく先月9月26日に発売されました。全国の書店に「自分の本」が平積みされている光景を見て何を思いますか。出版して変わったことは?

まだ発売後1ヶ月ほどなので、大きな実感や成果はこれからかなと思います。現時点では、自分の肩書きに1つ確固たるものが増えたことは大きな喜びでもあり自信になりました。今まではフリーランスという立場上、法人と比べるとどうしても弱い立場になりがちなところがありました。それが嬉しいことに今回の出版活動がきっかけで、新規の仕事の相談が増えたのです。たった1冊でも、本の実績1つで仕事の幅や可能性が変わってくることを少しずつ実感しています。

 

最後に。独立してフリーランスになったわけですが、どんな時に「自由」を感じますか?

「要・不要」を自分で選択して、自分の中から生まれたもので、仕事を作り出していけたときに、自由を感じます。時間、作業、人間関係など、会社員だったころに”見えないルール”で縛られていたこと、ずっと無駄と感じつつもそのままにしてしまっていたことを、自分の意思で選び取ることができるし、選ばないこともできます。既にあるものから仕事を選ぶのではなく、自分で仕事を生み出すこともできる。そんな今が、いちばん心地いいです。

 

イベントなどで忙しい中、本日は、ありがとうございました!林さんのこれからの活躍が楽しみです。




プロフィール
林花代子(はやしかよこ)

1974年生まれ。愛媛育ち。出版社、編集プロダクションでWEBディレクターとして働き、現在はフリーランス。37歳のときに会社を辞めて行った語学留学をきっかけに、マルタという国に魅了される。その後もマルタを定期的に訪れ、現地やマルタ留学についての情報をブログ「まるぶろ。」「Malta Journal360」で紹介し、数少ないマルタ専門ブログとして注目を集める。2016年にスタートした女性のためのマルタ留学相談を中心に、コラム執筆・WEBディレクション&プロモーションなどを精力的に行っている。

林さんが受講した講義:『自分の本をつくる方法』『自分スタイル世界旅行』『出版道場』

 

取材、撮影、編集:ORDINARY



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