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食で世界を変える。様々な可能性を秘めた、乾物のある人生

「乾物のある生活」教授/サカイ優佳子さん 田平恵美さん

サカイ優佳子さん(左)と田平恵美さん(右)は、一般社団法人DRYandPEACEを主宰され、乾物で世界をPEACEにする活動をされています。そして、すでに第16期を迎える「乾物のある生活」の教授も務められています。食と社会という大きなテーマに基づいて、多岐にわたる活動を精力的にこなすおふたり。実は元々は乾物に重きを置いて活動していたわけではなかったそうです。なぜ、乾物に注目したのか。乾物を通して伝えたいことは何なのか。「食で世界を変える」という強い信念を持つおふたりの熱のこもったお話を伺ってきました。


 

-そもそも乾物を広める活動を始めた経緯を教えていただけますか?

田平:元々は乾物から活動を始めたわけではないんです。2012年に食育ワークショップ「食の探偵団」を二人で立ち上げた時から、料理の技術や栄養の知識だけではなく、自分の五感を使って料理や食べ物に向き合う」とか「食卓や食べ物から社会を見る」という視点を大切にしたいと思ってきました。乾物を様々な角度から捉えなおしてみると、ただ食べつなぐためだけでなく、環境や食品ロスの問題などにもキーとなる食材として考えることができると思ったんです。それが2011年。

サカイ:そのすぐ後に東日本大震災が起きて。私たちが住む地域では計画停電が実施されました。冷蔵庫が使えない。それなのにスーパーでは生鮮食品が売り切れて、乾物がいつも通り残っていることにショックを受けて。「冷蔵庫が使えないなら乾物があるじゃない」という思考にならないのか、あるいは普段乾物を使っていないから使おうと思っても使えないのか。そんなことから「今のライフスタイルにあった乾物の活用のしかたを提案していこう!」と思ったんです。

 

-その後、自由大学で講義を始めることになったきっかけはどのようなものでしょうか?

サカイ:レクチャープランニングコンテスト(企画者が魅力的な講義のアイデアを発表し、観覧者も含めた全員が意見を交わし投票する自由大学の公開企画会議)がきっかけです。以前、私はスクーリング・パッド(自由大学の前身である専門スクール)の農業ビジネスデザイン学部に通っていたんです。ちょうどそのときに出会ったキュレーターの方からレクチャープランニングコンテストのことを聞いて、「じゃあ挑戦してみようかな」と。

田平:レクチャープランニングコンテストでプレゼンした内容と、現在の講義の内容とではだいぶ変わったんですけどね。

サカイ:当初は食育関連の講義をやろうと考えていたのですが、キュレーターと相談して「もしかしたら乾物のほうが良いんじゃない?」乾物の講義をすることになりました。

乾物は、元々は人間が飢えないために、食べ物を無駄にせずに保存食として使ってきた歴史があると思うんですが、現代的な意味ではちょっと違う観点も加わります。たとえば防災という観点。乾物は保存食なので、もしものときの備えになりますよね。もっと身近な話をすれば、会社からの帰り、疲れて買い物をしたくないときでも、家に乾物があればすぐ料理に取りかかることができます。

 

もうひとつは省エネという観点。乾物は、輸送中も店頭や家でも冷蔵庫に入れる必要がありません。また乾物は軽いので、運ぶ際に燃費があまりかからず二酸化炭素の削減にもなるので環境にやさしい。そんなことから乾物やそれを取り巻く考え方を広めたいと思ったんです。

田平:産地においても、形が悪いものでも乾物にすることで商品にできますし、育てたものを無駄なく使いたいですよね。見逃しがちですが、野菜の乾物はだいたい皮が剥いてあったり切られたりしているので、キッチンの中で手間がかからないのも嬉しい。

サカイ:実は8割方の乾物が20分以内で戻るんですよ。だから、家に帰ってシャワーを浴びている間に水で戻しておけば良いんです。包丁もまな板もいらない料理作りも可能です。残り2割の乾物は8時間で戻るので、寝ている間あるいは会社に行っている間に戻ってしまう。戻す時間を考慮して準備をするというタイムマネジメントを、自分の食卓をデザインするためだと思って習慣づけると乾物を使うことで、普段の食卓作りがぐっと楽になるんですよ。

 

-まずは乾物への意識を変えるということなんですね。

サカイ:そうですね。講義の中で「タイムライン」というのを行っているんですが、テーブルに乾物をたくさん並べて、乾物が戻る時間ごとに受講生に順番に並べてもらうんです。そして、並べてもらった後、実際に乾物が戻る時間を説明するのですが、受講生はみんな驚きますね。乾物が戻る時間がわからないと乾物は使いこなせないのですが、それがわかると「乾物って気楽じゃない?」という意識になるのです。

たとえば、車麩をフレンチトーストにするととても美味しいんですよ。夜のうちに卵と牛乳と砂糖につけて置いて、朝それを焼けば良いだけなんです。食パンより歯ごたえがあって良いという方もいらっしゃいます。それから、切干にんじんとレーズンをヨーグルトに一晩つけて戻すと、干したにんじんの甘みで味付けしなくても美味しいサラダができるので、みなさんびっくりするんですよ。講義では実際に試食していただきながら、受講生が「びっくり!」と言っている姿を見るのが楽しいんです!

田平:乾物は煮物だという考えから脱却してほしいんですよね。現代の食卓に合うアレンジを自由にできる発想を持ってほしいと思っています。切干大根を煮物にするだけではなく、サラダやキャセロールに使ったり。そういう風に使っていけるようになれば、乾物を常備しているという安心感もあり、無駄なく食材を使い切ることもできて、一石二鳥。


「古臭いイメージの乾物がヨーグルトと結び付くことによってさわやかなイメージになる。発想が変わるんですよね。」

-講義後、受講生のみなさんは、自分の生活にどのように乾物を取り入れていらっしゃるんでしょうか?

サカイ:「料理をほとんどやったことがないけれど、乾物から料理を始めてみたいと思いました」と言う受講生もいらっしゃいました。乾物は生鮮食品のようにすぐに腐ることはないので在庫管理が簡単にでき、見方を変えれば料理初心者の方でも楽なんだと思います。

田平:自由大学の講義に来てくださる方は、単純な料理教室に通うことを望んでないと思うんですよね。そういう意味でも、乾物を知ることで「そんな視点があるんだ」と、講義を面白がって聴いてくれるんです。

サカイ:男性の方も講義に参加してくれますよ。今期の講義でも、数年後に農家になることが決まっている男性の受講生がいらっしゃいました。農家になったら自分で作ったものを乾物にしたいと考えているそうです。講義では乾物の作り方もお教えします。乾物作りを目の前で見てもらうと、「これで終わりなんですか!」と受講生が驚くほど簡単なんですよ。

田平:野菜を買ってきたら冷蔵庫で保存しないといけないという先入観を捨てようということですよね。使い切れない野菜は乾物にすれば食材としての寿命がのびるので、乾物作りを習慣にすれば無駄なく野菜を使い切ることができるということを講義で伝えています。

サカイ:受講生の中には、教えたその日の夜から乾物を作り始めた方もいらっしゃいました。講義を聴くとすぐに作りたくなっちゃうみたいです(笑)。

 

並べられた色とりどりの乾物。コツさえ掴めば家の中でも乾物を作ることができる。

-クラウドファンディングを利用して、受講生と一緒に本を出版される予定だと伺いました。

サカイ:そうなんですよ。乾物の料理本ということではすでに本を出版しているのですが、それでは料理本を手に取る人にしか届かないなと思ったんですね。私たちの本来の目的は、「食によって未来の社会を変えること」なんです。だからそれを実現するために、これまでとは違う方法で新たな人たちにリーチする本を作りたいなと思い、自由大学の黒崎輝男さんに相談しました。そうしたらちょうど本の出版プロジェクトを行うというお話があり、一緒に行うことになりました。

 

-現在ご準備されている本は、どのような内容になるのでしょうか?

田平:大きく3つのテーマを設けて本を作っています。
ひとつは「人」をテーマにしています。受講生が乾物の講義を受けてくださったことによって、現在の生活にどのように乾物を取り入れているか、食生活だけではなくどんな風に人生が変わっていったのかということを取り上げています。受講生それぞれがその人なりの変わり方をしているなということを、今回の本のための取材を通して感じています。

もうひとつのテーマは「シーン」です。乾物は地味だとか和だとか思われがちなんですが、そうではなくてもっといろいろなシーンに使うことができるということをお見せしたいと思っています。ブランチシーンやパーティーシーン、ティータイムシーンでの乾物料理を掲載する予定です。シーンごとに作られた乾物料理をお見せすることで、みなさんの生活に気軽に乾物を取り入れるヒントになったら良いなと思います。

最後のテーマは「素材」です。たとえば高野豆腐をカレーに使うなど、ひとつの素材はひとつの料理だけに使うものではないということ、乾物を使うのは和食だけではないということを伝えることがテーマですね。

 

-今回の本にはたくさんの受講生が関わっているんですか?

田平:そうなんですよ。この本のプロジェクトはオール自由大学でやっています。今回の本に載せる料理も受講生が考案したものです。

サカイ:もちろん普段、受講生のみなさんはレシピを作ることはされていないので、私たちがレシピに対してアドバイスをしてはいます。

田平:みなさんが考案したレシピを見ると、「こんな風に工夫しているんだ!」という発見もたくさんあるんですよ。

現在、モーションギャラリーで出版に向けてのクラウドファンディングを実施中。応援よろしくお願いします!

 

-今後の活動を教えてください。

サカイ:63日に「乾物カレーの日」というプロジェクトをやります。私たちは2013年から「乾物ドライカレーパンプロジェクト」を続けています。パン屋さんやパン教室で乾物を使ったカレーパンを作ってもらい、その売上の一部を寄付していただくことで、内モンゴルの砂漠緑化に貢献するというプロジェクトです。そのプロジェクトをパンだけではなくカレーに広げたのが「乾物カレーの日」です。

田平:日本全国で同時多発的に乾物カレーを作るんですよ。

サカイ:東京だけでなく長野やフィレンツェでもやっていただくんです。内モンゴルの砂漠化は、日本に黄砂やPM2.5が飛んでくる原因のひとつとなっています。砂漠化は怖いし、黄砂が飛んでくると大変と思っても、あまりにも問題が大きいと何もできなくて思考停止にならざるを得ない。だから乾物カレーを食べることが少しでも砂漠の緑化につながるとわかれば、みなさんの行動を起こすきっかけになるんじゃないかと思ったんです。

 

小さなプロジェクトなので焼け石に水かもしれませんが、小さなことでもやっていくことで何かが変わるということを見える化して、みんながそれぞれの手を貸し合って一緒に少しずつ行動していけるような場を作っていきたいと思います。

 

-今回のお話を通して、乾物をとても身近なものとして感じ、乾物を取り入れることによって、ライフスタイルや人生そのものが変わっていくこともあるのだと知りました。新しい本の完成を楽しみにしています。ありがとうございました。

 

担当講義:「乾物のある生活

取材と文:熊谷ゆい子 撮影:あおきようこ

編集:ORDINARY



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