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芸術文化の多様性のために大切なお金の哲学

フリユニピープル「クラウドファンディング学」教授 大高健志さん

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クラウドファンディング学は、第4期目を終えたばかりのまだ新しい講義です。この数年で「クラウドファンディング」という言葉を多く目にするようになりましたが、本当に理解して使っている人はどれくらいいるでしょうか。知っているようで実は知らない方も多いのではと思います。叶えたい夢がある人がこの新しい「資金と仲間集めのしくみ」を正しく使いこなすために、いったいどのような講義が行われているのか。クラウドファンディングのプラットフォーム「MotionGallery」を運営している教授の大高健志さんにお話を伺いました。

Q: 自由大学で講義「クラウドファンディング学」を始めたきっかけは?

 

みどり荘2に僕らの会社が入居し、ご近所さんになったことがそもそものきっかけでしょうか。MotionGalleryで自由大学の内装の費用を集めていただいたり、みどり荘1のソーラーパネル設置プロジェクトがあった時もご縁がありました。

そのうちに、自由大学創立者の黒崎輝男さんから、「クラウドファンディングというワード自体は広がってきたけど、哲学がなくてあんまり面白くないから自由大学の講義でみんなに伝えて欲しい」ということを言われて。僕もある種の危機感を感じていたので、「クラウドファンディングとは何か」ということをみんなできちんと考えられる場ができるといいなと思ったのがこの講義を始めた経緯です。

Q: 危機感というのは具体的に?

ずっと気になっていたのが、たとえば、「お金が集まるからいいよね」という言い方をされたり、「マーケティングになるから」とか「バズるから」とか、そういう視点でクラウドファンディングの魅力を語る人がプラットフォーム側にも多かったのです。それはあまりにも本質的ではないので、そういう捉え方をする人が増えると勘違いが広がってしまう。

それこそ一時期あったような自分の大学の学費を集めて炎上したケースのように、「それは社会にとって良いのかいけないのか」ということがあまりにも考えられていない現状がありました。このように「なぜお金を集めるのか」という必然性や哲学がなくお金が集められたり、必要性がないのに大企業が単に「話題になるから」と利用することも見受けられます。

それがこれ以上広がると「クラウドファンディングってなんか胡散臭いよね」となってしまい、本当にクラウドファンディングを必要とする人たちが使えないしくみになってしまうなと。「クラウドファンディングはそういうことではない!」ということを発信し、改めてみんなで「関わる全員が幸せになるクラウドファンディングとはどういうものか」を考えていければと講義化に踏み切りました。

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「全員が幸せになるクラウドファンディングとはどういうものか考えていきましょう」みどり荘2の屋上にて

Q: 大高さんがクラウドファンディングのプラットフォームをつくったきっかけは?

 

僕は東京芸術大学の大学院で映画製作を学んでいたのですが、作家性や創造性を求めて映画やアート活動をしようとする際、資金集めが大変だなと身にしみました。たとえば、フランスは助成金に恵まれているので、製作者はあまり資金集めのことを気にしていない。映画が売れるかというところに対しても、ほぼ執着してないんじゃないかというくらいあっけらかんとしていて。彼らは「つくりたい映画を年に1本は撮れる」という状況で、3年後というロードマップをいきいきと語っていました。

日本で映画製作をする場合は、「才能というよりも映画製作の土壌の問題が大きいな」というのを当時感じていました。でも、日本でこれから助成金のためのロビー活動をしたらいいのかというと、そこにあまり未来はないだろうと。映画だけではなく、アニメーションも現代アートも本も、新しい本質的価値に気づいてそれを広めようとしたときに、その活動の評価は経済指標だけではないはずなんですよね。

文化的・社会的な文脈でも評価されるべきなのに、そこがどうしても折り合わないことが多すぎる。では、経済的評価と文化的評価を結びつけられるものって何だろうと考えたんです。

何かの価値を認める人が自由に、一物一価ではなくて、100万円を出す価値を感じれば100万円を出すというように、価値を認める人から直接原資を集めて作品をつくれば赤字になりませんよね。もしクラウドファンディングという資金調達が日本に根付いたら、文化やソーシャルアクションの多様性が生まれてくるのではと希望が見えました。助成金でもなく投資でもない、新しい時代の資金の集め方が第三の道としてあるかもしれないと思い、「MotionGallery」を始めました。

Q: 受講生にはクラウドファンディングの哲学が伝わっていると感じますか?

僕が一方的に話すというよりも、ディスカッションをしたりワークショップをしたりしながらみんなで講義をつくっていくようにしています。受講生の段階はさまざまです。「なんとなくワードとして広まっているから興味を持って参加した」というレベルの人から、「実際にクラウドファンディングでプロジェクトの資金を集めようとしているフェーズ」の人たちまでいろいろです。そのなかで、後者の人たちは「気軽にやろうと思っていたけど、もうちょっと深く考えないといけないと思った」というリアクションが多かったので、哲学が伝わっている手応えは感じています。

Q 講義を始めて、教授ご自身に変化はありましたか?

これから受講生の中から実際にプロジェクトを立ち上げるというケースが増えてきたら、事例が蓄積されていって何か変化も生まれてくるのではないでしょうか。まだ4期目で、大きな成功事例はこれからというところ。楽しみです。
やはりゲスト講師にお呼びした方たちからも、改めて学ぶことも多いですね。たとえば、プロジェクトを始めるときにこうやって考えていたんだ、とか。僕も把握していなかった、プロジェクトのプロセスとか実際に運営しているときの感情みたいなところは新しく気づいたところです。

Q 教授としてのやりがいとは?

手ごたえはこれからですが、まずは実績を出していきたい。受講生の中から実際にプロジェクトを世に出すことができれば、クラウドファンディング学のコミュニティも活性化していくでしょう。副業じゃないですけど、本業とは別のところでクラウドファンディングを通じてプロジェクトを運営する人が増えるといいなあと。そういう循環ができてくると、クラウドファンディングの哲学が社会に広がって行くのではないでしょうか。社会人が会社を辞めずに、パラレルワークのような形でプロジェクトを循環させていく。そんな新しいクリエイティブ活動の軸としてクラウドファンディングを使ってもらえるといいなあと思っています。

Q 講義を終えて、受講生に生まれた変化は?

「応援する側」と「される側」がありますが、「まず応援する側から始めてみよう」というケースが多いです。「クラウドファンディングのサイトを頻繁にチェックして魅力的なプロジェクトを応援するようになった」とおっしゃってくれます。先日、あるアートプロジェクトの応援者たちのパーティーに参加したら、受講生がいらっしゃってびっくりしました。講義をきっかけにクラウドファンディングを使うようになったという人が増えているのはありがたいですね。

Q: 最後に、今後の展望は?

受講生のコミュニティを引き続きサポートして活性化させていきます。個人としても映画に思い入れがあるので、多様な映画に出会う新しい仕組みとして「popcorn」プロジェクトをスタートさせたり、やりたいことはたくさんあります。

MotionGalleryとしては、多くの素晴らしいプロジェクトとご一緒できていますが、現状で満足しているわけではありません。クリエイティブ分野だけではなくてイノベーション的なプロジェクトや、フードロスなどソーシャルアクションに対してのプロジェクトをもう少し広げていったり、出版のプロジェクトももっと数を増やしていきたい。自由大学の講義を通して魅力的な仲間に出会えたら嬉しいです。

(撮影、取材、構成:ORDINARY



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