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FREE from FREEDOM

隔週で発行している「自由大学マガジン」の人気のコラム、FREE from FREEDOM!そのバックナンバーをお届けします。


1つの石を蹴り続けて登校する。小学校時代に石を蹴り続けた経験は多くの人があるでしょう。今となっては、あれを30分も続ける集中力の正体はなんだったのか、よくわかりません。今はもう、他の楽しい遊びを覚えてしまったので、ひとりで石を蹴るだけでは楽しめない。やって意味があるのかとか、他にやるべき大事なことがあるのではと、落ち着かない気持ちになるものです。

石は下校時に蹴らなくてはなりません。登校時に蹴っていくと遅刻するからです。けれど、その朝、当時のぼくは、遅刻よりも「自分の時間」を選びました。20分も遅刻したのです。しかし、担任は遅刻したことを頭ごなしにしかる先生ではありませんでした。「なぜ遅刻したのか」との質問に、「すごく珍しい石があったので、それを蹴りながら登校した。これがその石だ」と話したら、理科の先生だったので「なるほど、これは黒曜石という珍しい石だ」と教えてくれたのです。旧石器時代には、槍の先やナイフとして使われたのだそうだ。石にもいろんな種類がある。ちょっと来なさいと職員室で怒られるのかと思ったら、そこは図書室。図鑑を見ながら、こういう石もあるし、こんな石も見たことあるだろう、と熱心に教えてくれました。遅刻で怒られるはずが、石の世界の話になってしまったのです。子供心にこれは流れがおかしいなと思って、「遅刻してごめんなさい」と謝ったら、「いや、そういう生き方も正しい」と。もちろん、遅くなることで心配している人もいるということを知らなければダメだけど、自分の人生だからね。自分の興味に従って生きなさいと怒られなかった。

おかげで、知りたいことがあったら本を探せばいくらでも載ってることもわかったし、普段蹴ってる石にもそれぞれ名前があることも初めてわかりました。学びにはタイミングがあって、本人の興味がのった時に知識を与えないと身になりにくいもの。無理に興味を持たせたり、モチベーションを上げようとすることは難しいのです。だからこそ、先生はこのタイミングだと思ったのでしょう。

遅刻はいけませんと自分の管理の都合で叱るだけの先生はいるけど、一度の遅刻よりも大事なものを見逃さずにいた先生のすごさが、今になるとより理解できます。人は一人ひとり違うから教え方も違う。ルーティンで遅刻を怒るのではなく、この子には図鑑を見せた方が良いと判断した。なかなかできることではないと思います。この先生の言うことは聞こうと思いました。先生という仕事も面白そうだと思いました。そしてなにより、自分の人生における「自分の時間」を大切に守れ。大人たちに奪われてはいけないよ、何が大切かは自分で決めなさいと教えてくれたのです。

text: 深井次郎自分の本をつくる方法 教授)

[自由大学マガジン vol.104 2014/3/19]


カテゴリ: ☞ コラム

タグ: ☞ 深井次郎


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