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全員がアーティストになる日

自分の本をつくる方法教授 深井次郎

FREE from FREEDOM

隔週で発行している「自由大学マガジン」の人気のコラム、FREE from FREEDOM!今回は自分の本をつくる方法 教授の深井次郎さんの文章です。


好きなことを仕事にする。すると見渡す限りの自由なユートピアが広がっていた。なんてことはなく、別の種類の難儀がある。その1つがオーバーアチーブの拒絶だ。

ある料理写真家の友人は、現場に行くと、用意されていたランチョンマットが明らかに不調和な柄物であった。当然、変更を提案したが、断られた。「確かに不調和だが、うちの読者はそんな細かいことまで気にしないので、まあいいでしょう」と言う。いや、費用は私が負担してもいいから変更をと食い下がると、「クライアントである我々が現状で良いと言ってるんです。何を変える必要がありますか?」

変えた方が良いものになるのを、その場にいる全員がわかっている。追加の予算と時間もなんら問題ない。なのに、なぜ理想を追求しないのか(そこが面白いのに!)。要は「売れ行きに大きく影響しないことは、面倒なのでやりたくない」とのこと。プロジェクトの規模に関わらず、この構造に遭遇してしまったときの脱力感たるや。

仕事をただの「商品」と考えるか、「作品」と考えるか。仕事をただの「作業」と考えるか、「表現」と考えるか。きっとどちらも正しい。しかし両者がわかり合うことはなかなかに困難だ。

「人は誰もがアーティストである」そう高らかに唱えたのは社会活動家ヨーゼフ・ボイスである。誰もがアーティストであるし、アクティヴィストであると自覚すれば、俄然仕事はおもしろくなる。映画会社ピクサーでは事務職含め全社員をアーティストと呼んでいるが、己から発せられる1つ1つの挙動、言葉、そのすべてが表現であり、作品なのだ。たとえばメールの一通、あいさつの所作。それらにだって数学者が「この数式は美しい」と感嘆するあの感覚を持つことはできる。すべてが作品であり、自分のクレジットが入るとしたら。責任も感じるだろう。

好きな仕事だからこそ、それは愛情に満ちたものになり、丁寧になる。「面倒だからこの辺で」ということはない。自分が食べないような薬品漬けの食品を売ることもない。欲しがってもいない人に無理に売りつけるような広告もしない。売れるからといって模倣商品をつくったりもしない。

好きなことをやっている人は、自分自身を好きになるし、自分を好きな人は、周りの人を環境を大切にできる。好きを活かして、作品づくりのように働く。誰もが表現者になる社会。それがあたりまえになることを夢見て、次のアクションに取りかかろうと思う。



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