講義レポート

自然とともに生きる発酵食の世界

「旅学」講義レポート

ある時はシンガーソングライター、またある時は料理家とアクティブに様々な活動をされている、自然派トータルアーティストの高山晴代さんを「旅学」のゲストスピーカーにお迎えしました。納豆作りに興味があったから受講したという受講生もいらして、高山さんのお話にみなさん興味津々です。

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昔から日本人の体を支えてきた発酵食ですが、高山さんはどのようなきっかけで発酵食に関わるようになったのでしょうか。

お料理がしたくて山小屋に入られた高山さん。ところがあまり忙しくない山小屋だったため、自分と向き合う時間ができたそうです。大自然の中にいると何が好きだったのか思い出せる。やりたいと思っていた「食」に、曲作りや絵を始めるというオマケがいっぱい付いてきたのだとおっしゃいます。

大自然の中の山小屋という場所での調理経験が、無駄のない調理の仕方や、発酵食・保存食を学ぶきっかけになったそうです。なるべくゴミを減らしたり、調理したものを無駄にすることなく山を登るエネルギーへ変えることができるかを意識されたりと、多くの工夫をされていたのが伝わってきました。

ところで、高山さんが発酵食や保存食をお仕事として始められるきっかけは何だったのでしょうか?

それは、震災がとても大きなきっかけとなり、今の自分に何が出来るのか、自分の持っている物を活かして何か貢献できるものはないか、と思った時に「食」をテーマにすることに気づいたそうです。

そのなかでも、発酵食品は自然界に存在する土着の菌のちからを利用した土と風と光の賜物です。大豆、玄米、味噌、海藻、梅干しなど、日本の粗食が放射能の対策に良いというデータも出ているらしく、より多くの人に発酵食品を食べてもらいたいとさまざまな活動をされています。高山さんの開いている味噌教室では、この2年間でなんと600kg以上の味噌を世に送り出しているそうです。今後は山の保存食の知識も活かせる様にしていきたいと語ってくださいました。

麹を自然培養している蔵が少ないですが、本来は全部自然界に存在しているもの。例えば森にパンを吊るしておくと自然界の菌が着いて、そこから発酵がはじまります。麹は販売されているものが一般的となっていますが、高山さんがいつも使っている麹は自然界の稲穂に着いた黒カビを培養してつくる麹だそうです。

さまざまな活動をされている高山さん。料理は、多くの表現手段の中のひとつであって、切り分けて考えてはいらっしゃらないとのこと。右脳を活性化させ直感を引き出すアートのように料理をされるので「大事なポイントは押さえるけれど、インスピレーションを大事にしたいそうで分量など緻密にならないようにしてる」というのが印象的でした。発酵食品づくりも全部そのようにしていて、カビが生えたり腐ってしまったのも、失敗ではなく成功の中の一つのプロセスなので、すごくいろいろな学びを与えてくれます。

後半は納豆の作り方ワークショップ。レクチャー中も保温の方法など質問が飛び交いました。
成功の秘訣は、とにかく自分の中のサバイバルエッセンスを使う事。これに尽きる様です。
腐っているものと食べられるものの境目はどう判断していますかとの質問に、

(1)匂い (2)食べてみる・味わう (3)触ってみる

という五感を研ぎ澄まして判断することだそうです。

普段から五感を鋭くし、食べ物を選ぶ時には札に惑わされず感性で選ぶこと。そして自分をあまり除菌しすぎないことも重要です。キッチンハイターなどで除菌をして無菌になっても一番はじめに出てくるのは腐敗菌で、無菌の状況からは善玉菌が生まれにくいのだそうです。

受講生の感想は、「食事を自分で作る事の大切さを再認識した」「五感を研ぎ澄ますという人間本来の感覚を取り戻し、昔に戻っていっても良いのかなと思った」「今まで食品は賞味期限で判断してきたが、自分の五感で判断できる様になりたい」などなど、みなさん充実した顔つきでした。

生活の基礎であって、命をつなぐのが「食」。除菌しすぎず、かつ、手をよく使う様にしている。家庭のなかには納豆菌と腐敗菌どちらも存在している。人間はどちらが強くなるのかという環境や場所を提供するのが役割であって、菌の世界は見えないので、どれだけその食材や菌を信用してあげるかという信頼関係が大事だとおっしゃっていたのが心に響きました。



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