講義レポート

旅学」サポーターの吉澤です。旅で得た感動を日常の自由へとつなげることを考えていく旅学。第3回のゲストは、様々なレストランでシェフとしての経験を積むなかでスパイスの効用と素晴らしさに魅せられ、その素晴らしさを人々に広めているスパイス研究科の鈴木裕さんです。鈴木さんが作る本場のカレーとチャイを楽しみながらスパイスを学び、パキスタンの桃源郷といわれる「フンザ」について紹介してもらいました。

鈴木さんは若い頃旅に没頭し、旅のなかでのスリリングな感覚や常識を打ち壊される瞬間を楽しんでいました。そんな鈴木さんがなぜフンザを愛し、毎年足を運ぶまでになったのか。フンザの民にすごく良くしてもらったから、とひと言で言い表すにはもったいないぐらい、奥深さがあることを感じられる話が展開されました。


フンザは、パキスタンの北方に位置し、首都イスラマバードから車で30時間もかかります。村の北にあるクリスタルピークを越えれば中国のカシュガルで、この道はカラコルムハイウェイと呼ばれ、シルクロードの一部を成しています。「風の谷のナウシカ」の、風の谷のモデルとなったと言われる、自然がとても美しく、杏の花が咲き乱れる4月は格別です。
フンザの民は自然を支配しようとせず、自然と寄り添いの、その摂理に身を任せ生きています。フンザには化学物質がほとんど存在せず、ゴミが出ない生活をしています。電気が使えるのは1日3時間のみ、そのタイミングは不定期だそうですが、人々は電気を頼らず生活しています。ローカルカルチャーを大切にし、栽培した全粒粉をパンの素材にし、杏の種から採れる油を大切に料理に使っています。
フンザでは灰色の水を生活で活用していますが、これは古より存在するウルタル氷河から流れてくるもので、ミネラルが豊富なために灰色をしており、フンザの民が長寿である秘訣と言われています。どの家にも牛がいて、畑を持ち、取れる食べ物をありがたくいただきます。謙虚で欲がなく、家族を越えて人々が仲良く暮らし、相手がよそ者でも変わらない。一度フンザに接したら、離れられなくなるのがわかります。日本人からみるパキスタンは、テロやタリバンといった悪いイメージばかりが先行してしまっていますが、一側面しか知らないのですね。メディアに安易に左右されることの怖さに気づかされました。
講義では、鈴木さん特製「季節野菜のチキンカレー」と「チャイ」が振る舞われました。カレーは、チリ、クミン、コリアンダー、ターメリックの4種さえあれば辛味とコクを表現できるそうです。なるほど、スパイスの重層的な風味はそのままに、とてもやさしくシンプルな味です。
鈴木さんは、膨大な種類と量のスパイスをフェアトレードビジネスとして取り扱っています。フェアトレードというと、途上国の産業支援といった見方をされる人もいますが「支援ではない」と鈴木さんははっきり言います。
関係はあくまで対等で、どういう人たちがどういうものを作っているのかが分かる、顔がみえる取引である。作り手の姿勢や想いを感じることで、むしろ買い手の僕らが学ばせてもらっている、謙虚になることがフェアであると。そんな鈴木さんの現在の課題は、時間に追われて生活のバランスが取れていないことだそうです。東京の人たちは、時間を切り詰めてお金を稼ぎ、お金を使ってもまだ足りないという感覚である一方、お金が少なくても逞しく生き、お金も貯めている人たちがいる。やはり都会だと、せわしなくなってしまいがちです。そこで鈴木さんは、今夏に東京の郊外に引っ越すそうです。土をいじり、自然と寄り添いつつ、都心にも出やすい。信念のある素敵なライフスタイルだと思います。
鈴木さんは、毎週末マーケットに出て、お客様と話す時間を大事にされているそうです。いずれはお店を出したいということで、今後の動向が楽しみですね。


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【講義詳細】「旅学
教授:SUGEE
※次期開講日程は調整中です。



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