講義レポート

「日常と旅とのリンク」がテーマの第4期旅学。第3回は、世界各地のお祭りの写真を撮り続けている写真家の 芳賀日向さん を招き、世界中のカーニバルの様子をスライドで鑑賞しながら、キリスト教文化と各地の土着の文化信仰が見事なまでに融合した素晴らしいカーニバルの世界をシェアし、旅で得た感動と想いを人々に伝えるという写真家の流儀について学びました。
芳賀さんは、かれこれ30年近く、祭りの写真を撮り続けています。そこまでとりこになるのは、なぜか。『祭りは、人の幸せとエネルギーに満ちあふれているから。 その幸せやエネルギーを多くの人に伝えていくことが、私のライフワークである。』国内外で200以上の祭りをカメラで捉えてきた芳賀さんの言葉は、シンプルでとても力強く、祭りというものがとてつもないパワーを持ち合わせていることを感じさせられます。
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カーニバルについて。今では一般的に “祭り” を表す言葉として使われていますが、そもそもは、キリスト教の謝肉祭のことを指しているそうです。キリスト教では、春分の日後の満月の次の日曜日を復活祭(イースター)とし、それまでの日曜日を除く40日間はキリストが荒野で過ごし断食したことに倣い、人々は肉や卵を食べず、節制して暮らします。この期間を四旬節と呼びます。四旬節に入る、灰の水曜日の前日までに行われる祝宴が謝肉祭・カーニバルです。
カーニバルはスペイン語やイタリア語で”肉よさらば”という意味を持つのは、このような慣習を端的に表していると言えます。古代ローマ帝国時代から続く慣習ですが、その起源は、アニミズム(自然崇拝)と言われています。欧州の冬は暗くて寒い。春の兆しがみえると、人々は喜び祝った。カーニバルの時期が2月から3月頃となるのは、春を祝うという意味もあるのです。
講義で触れたカーニバルについて紹介していきます。
ドイツにおけるカーニバルは、宗教色が色濃く残っています。 シュバルツバルト(黒い森)では、カーニバル初日の朝6時に、魔王により黒ミサの儀式が行われ、魔王が人間界を乗っ取ったという宣言をします。オッフェンブルクはその中心で、 ” 魔女と魔王の街 ” と呼ばれています。
街によって祭りの雰囲気は異なりますが、ドイツのカーニバルでは、住民が仮面をかぶり、観光客などにいたずらを仕掛けます。マジックハンドで帽子を取り上げたり、靴ひもをほどいて奪ったり…仮面で精霊や悪霊を表現しているのです。カーニバルの最終日になると、いたずらしてきた仮面の精霊たちは、断食の準備をします。なんと、ベランダからソーセージやパンを外へ投げるのです。それを待っていたかのように、一般の人たちが群がります。単なるイベントとは違い、信仰に根ざした祝宴という雰囲気を感じます。
ティティーゼという街では、雪だるまを冬の悪霊の象徴として、カーニバルの最終日に燃やしてしまいます。これで春が迎えられる。五穀豊穣を祝う意味もこめられています。日本でいう、どんど焼きに似ていますね。
フランス・ニースでは、ミモザの花が咲き始める頃、暖かい太陽の下でのカーニバル。ドイツのものとはうってかわって、花が主役です。仮装した人が花を投げながら、海岸沿いのプロムナードを行進します。最後には冬の王様と呼ばれる巨大な人形が登場し、海岸に運ばれて焼かれます。春を迎える、という点は共通していますね。
イタリア・ヴェネツィアは、仮面のカーニバルで有名です。中世より貴族・庶民が仮面をつけて身分を隠し、無礼講の乱痴気騒ぎを楽しんでいたというのですから、ドイツの仮面カーニバルとはかなり違うようですね。まさに仮面舞踏会といった雰囲気です。仮面さえ付ければ誰でも参加できるため、ヨーロッパ各地からものすごい人が集まってきます。仮面細工士なる職人も存在するぐらい、生活に根ざした祝宴となっています。
カナダ・ケベックは、−20℃をこえる寒さのなか、世界で最も寒いカーニバルとして続いています。毛皮狙いで侵略し植民地化したフランスが持ち込んだと考えられ、かれこれ200年以上も続いているそうです。主役は、ボノムと呼ばれる雪だるまおじさん。幸せを分けてくれる象徴として存在しています。ここは、冬の象徴を燃やしてしまう本国フランスと異なっています。
アメリカ・ニューオーリンズのマルディグラも、植民地化政策によってフランスから持ち込まれたカーニバルです。プランテーションの地主たちが、貧しい人向けに年1回金銭や貴金属を投げ与えるのが始まりで、アフリカから連れられてきた奴隷の数少ない楽しみとして存在していまして。今では大きな山車が練り歩き、ビーズを投げる人たちと、それを受けるために男女問わず服を脱ぐという、よりイベント的要素が強まった雰囲気となっています。
アフリカ大陸・スペイン領カナリア諸島は、きらびやかな衣装のパレードがメインのカーニバル。なんとここでは魔女が登場します。ヨーロッパを除き、一番遠い場所に出てくる魔女です。裏通りではヨーロッパ各地から集まってきたゲイにより、非日常空間が生み出されているのも特徴です。
ブラジル・リオのカーニバル。もともとは黒人奴隷にとっての数少ない自由なときとして存在していました。今では街に点在するサンバスクールの名誉をかけたコンテストの場として、衣装・山車・歌・踊りなどが競われています。予選を通過した約50の団体のみが、祭りのために造られた全長800mのメインストリートを練り歩くことができます。イベント的要素が強まり、身体の露出が激しいのも特徴です。
宗教の祝宴として始まったカーニバルが、植民地政策の影響などで世界に伝播し、土着の文化や信仰と融合して、新しい形が生み出される。芳賀さんのお話から、世界のつながりを感じることができました。祭りには文化や信仰があり、それを知ることで、祭りというものをより楽しく、深く体感できるようになるということにも気づかされました。
あなたの身近にある祭りには、どのような歴史があり、どのような特徴がありますか?ぜひ知り深めて、あふれでる幸せとパワーを享受してください。


関連情報:
・世界を旅して見つけた世界のためにできること
・毎日を旅するように自由に
講義情報:
「旅学」 教授:SUGEE
金曜日 1/27, 2/3, 2/10, 2/17, 2/24(全5回) 19:30~21:00



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