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saïca|FLY_020

神社が結んでくれた人と地元のご縁

saïca│自由大学で「神社学」を受講。カラフルでインスピレーションあふれるタッチで描くイラストレーター。神社学をキッカケに、神社にまつわる仕事も増えたとか。はじめての著書、子どもたちの感覚をひらくシリーズえほん「なーんだ」が発売中。


 

Q.自由大学を知ったキッカケはなんですか?

イラストレーターとして仕事をしていると、仕事場である自宅に篭もりがちです。ちょうど世田谷区に引っ越ししてきたタイミングで、家の近くになにか面白いことがないかな、ご近所の方々と知り合いたいな、とインターネットで探していたら「自由大学」を見つけたんです。お、これは面白そうだな、と。

Q.そのなかで「神社学」を選んだのはなぜ?

自由大学のサイトを眺めていたら神社学が目に飛び込んできました。「このイケてない文化系の匂いがプンプンする講義は一体なんだ!」ってウキウキしちゃって。私と似たような人たちが受講生にいそうな気がしたんです。

Q.実際に受けてみてどうでした?

私は大学で西洋美術史を専攻していて、ギリシャ神話などの多神教の文化にはもともと興味がありました。でも、ちゃんと知識だけを知りたかったら本を読めばいいわけで。学ぶなら“文科系のアウトドア入門”的なところがよいなと思っていたんです。

講義の初回は、教授の中村さんが「自分がいかに神社のことが好きか」ということを(若干のろけ顔で!)、延々と話していたのもツボで。本には載っていない体験談やサブカルっぽいネタも多くて、これは私向きだなと思いました。最初に「イケてない文化系」って言いましたけど、同期の方々は、みなさん素敵な方ばかりでしたよ。

Q.受講がキッカケでイラストの仕事が増えたと聞きましたが

イラストの仕事ができたらいいなと思ってた雑誌に「ecocolo」というのがあるのですが、実は、その雑誌を出版している会社の当時の社長が教授の中村さんでした。神社学は開講直前に申し込んだので、教授がどんな方か、実は知らなかったのです。講義が始まってから「今度、イラストを見てくださいね」と中村さんとお話はしましたが、なかなかタイミングがあわなくて。

Q.すぐ仕事につながったわけではなかったんですね。

それからしばらくして、中村さんが主催する熊野神社ツアーに参加しました。そのころには、イラストを見てもらうこともすっかり忘れていて。神社に行って楽しいというのがわかりはじめてきたころなんで、これはぜひ行こうと。中村さんが紹介するマニアックな場所ですから、なおさらですね。

旅から帰ってきてから、「熊野にいって楽しかったよ」という旅の様子を絵日記にしてブログにアップしました。神社のイラストもあわせて載せたんですけど、それに一番大きなリアクションをしてくれたのが中村さんでした。「この絵、すごいな!」って。それがキッカケで、中村さんから「こんなの描ける?」と相談があって、神社アプリのイラストや会社のロゴなどを描かせてもらいました

Q.神社の境内図も描かれたのですよね。

これも中村さんからのご紹介で。神社学体験プログラムの会場でもある栃木県佐野市の賀茂別雷神社の境内図なんですが、パンフレット用に新しくしたいとおっしゃっていたので、それを奉納させて頂いては、というお話でした。私もこの体験プログラムには参加して、朝から境内を掃除したり、巫女の衣装を着させてもらいました。山の中腹にある神社ですから、立体感もうまく平面に落としこんだり、境内を歩いて距離感を掴んだり。そのとき感じた感動やインスピレーションをうまく形にできたと思います。

宮司さんにお見せしたら、大変喜んでいただいて。最初は境内図を奉納させて頂くというお話だったのですが、この境内図をもとにパンフレット自体もリニューアルしようということになり、パンフレットの表紙用に本殿のイラストも新たに書き起こしました。神社学をキッカケに、いろいろなところでご縁をいただいています。

Q.講義を受けて変わったことは?

自分の出身地との向き合い方が変わりましたね。仙台出身なのですが、あまり地元のことが好きじゃなかったんです。私は帰国子女で日本に帰ってきたのは小学校高学年のころ。ちょっと多感な時期だったので、すぐに馴染めなかったんです。早く地元を離れて、東京へ行くことばかり考えていました。

東京へ来てから10年以上がたち、私もだいぶ大人になって、地元とどのように向き合うか考え始めていた時に震災が起こりました。だからといって、すぐに「地元が好きになりました」というのも、ちょっと違う気がして。昔の記憶を無理やり良いことに塗り替えてしまう気がしたんですね。悪い思いを持っていちゃいけないみたいな。好きじゃない人は無理に好きって言えなくても良い思うのです。だからといって、まったく心配しないとか、放おっておくということでもないんですけれど。個人的な思い出の良し悪しと、そこに愛があるかないかっていうのは全く別の話なので。

Q.なるほど、震災をキッカケに心境の変化があったのですね。

神社巡りをするうちに、自分のマイナスの気持ちを無理にプラスに変える必要はないなと思い始めました。自分の血が紡がれてきた土地に興味を持ち続けることが、私なりの真摯な向き合い方なんだと気持ちの整理ができたんです。その土地固有の文化とか、土着の信仰とか、それまで知らないことがたくさんありましたからね。今では、地元に帰ったときに時間を見つけて、東北各地の神社を楽しみながら巡っています。神社学を受けていなかったら、こんな気持にはならなかったかもしれませんね。

Q.これからの展望は?

旅芸人になりたいですね(笑)。イラストレーターの仕事って、画材とパソコンとスキャナーがあればどこでも仕事ができるんです。私が描きたいモチーフは、どちらからというと想像を膨らませてというものが多いので、インスピレーションを感じる場所を点々と移動したいなぁ、と。この間、持ち運べるちょうどよい大きさのスキャナーも見つけて、より現実的に妄想するようになりました(笑)

Q.わはは、旅芸人ですか! 旅先は日本以外にもありえたりしますか?

先日、アンコールワットに行ってきたので、次回はそのまわりの東南アジアの国々も巡りたいですね。南米もいいなぁ。色彩がビビットで温かいところがよいです。アンコールワットは、ヒンズー教の寺院で多神教なんですよね。世界の神様を探しに行くのも楽しそう。妄想しがいがあります!

【取材後記】想像と創造、ふたつの翼をもったsaïcaさん。「旅芸人になりたい」という野望を伺ったとき、最初はびっくりしましたが、話を聞くうちに、「この人は旅はもう始まってるんじゃないかな」と思えてきました。起こるかどうかわからない不安に怯えるよりも、自分に正直に動いてみる。気持ちをフラットに構えたsaicaさんは、話す姿もキリリとしていました。

(インタビュー: #白井順一 )

【関連サイト】
saïcaさんのサイト
こころからだ絵本 FIVE SENSE PROJECT「なーんだ 」


 

FLY(フライ)は、自由大学の卒業生が登場するインタビューコーナー。自由大学に通い、新しく見つけた自分の姿。卒業して、踏み出した一歩は小さくても確かな手応えをもって、新しい日常の扉を押し広げます。卒業生が体験した、自分らしい転換期の話をお届けします



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