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実現可能性を広げるエンジニアリング・ディレクション|COMMUNE 246建築設計・菅真樹さんインタビュー

同じ業種で働いていると、だんだん仕事のスピードが早くなる。自分の実力がアップした、とも言えるけれど、ルーティンワークになった、とも言える。だから、「もっと成長したい」、仕事が好きだからこそ思う、その純粋な気持ちに従って、仕事をテキパキこなせるようになった時ほど、新しく何かを学びたくなる人は多いのでは? 今回のインタビューは、そんな方におすすめの内容です。ひとつのことを続けてきたからこそ、ある出会いによって新しい領域に一歩踏み出すことができた、建築家の物語。はじまり、はじまり。

キュレーション学がキッカケで建築に携わる

自由大学のキャンパスが建つ表参道・COMMUNE 246は、フードカート、カフェ、シェアオフィス、自由大学という、食と仕事と学びの集まる新しいコミュニティ型の空間です。その建築設計を担当したのは「かきたて」代表の菅真樹さん。「キュレーション学(初級中級)」の卒業生であり、今は「小屋を作ろう 〜バンブーハウス〜」の教授をしています。

菅さんは、「キュレーション学」受講後に勤務先を退職、フリーランスの建築家になりました。フリーの初仕事となったシェアオフィス「みどり荘」の設計チームに関わり、その後「246common」にあった店舗の設計を担当。その流れで「COMMUNE 246」の設計チームにも携わります。一般の仕事を請け負いながら、およそ2年に1回のペースで先進的なプロジェクトに携わる。これらのユニークな建造物を担当してきた菅さん曰く、みどり荘やCOMMUNE 246などの建て方は「ふつうのやり方とは全然違いますよ」とのこと。見た目だけでなく、建て方もユニークだというこのCOMMUNE 246のつくりかたの一部について菅さんに語っていただきました。

菅真樹(Masaki Kan)新しい働き方をテーマにスタートアップベンチャーに特化したオフィスデザインプロジェクトBeyond Workingではコンセプター&デザイナーとして参加。 岐阜県岩村にて子どもの教育と空き家再生と地域活動を掛けあわせた農村の子供建築ラボ@岩村プロジェクトでは企画・講師を担当 国立にあるつくし文具店を拠点にくらしの中でデザインを使ってできることを模索する集まり小さなデザイン教室に参加。みどり荘、246common、COMMUNE 246などの建築設計を担当。現在渋谷区富ヶ谷に新拠点を計画中

COMMUNE 246がつくられた背景

COMMUNE 246のプロデューサーで、自由大学のファウンダーでもある黒崎輝男さんがこのプロジェクトを立ち上げたとき、チーム内で共有した建て方をあえて一言で表せば「デザインしながらつくる。つくりながらデザインする」。従来の建築手法はデザインしてからつくるものなのに対し、COMMUNE 246の建築手法は依頼者と設計と施工を行き来しながらつくるものだと菅さんは言います。

「図面はもちろん描きます。でも、実際に土地の上に建物ができてみなければわからない感覚がある。だから、まず建てて、実物をみながら新たにデザインを加えていく。もちろん、プロの施工が入ってつくるのですが、自分も手を動かしながら、やりとりを重ねて『こっちのほうがいいですよね?』と都度、相談しながら建築する“LAB”っぽいやり方なんです」

一般的な建築手法では、設計と施工は建築士と職人が別々に担当する。建築士が描いた図面を大工に渡し、費用を確定し職人が建てていく。その間、建築士は図面通りにできているか、確認することが仕事になる。それは、誰が設計をして、誰が建てたのか、責任の所在を切り分ける意味や予算に合わせた建設をしていくという制約が含まれている慣例なので、大事な取り決め。その取り決めを取っ払って、もっとインタラクティブな建て方を実践したのがCOMMUNE 246での建築でした。

実際も建てた後に加えたデザインを教えてもらうと、「自由大学のキャンパスがまさにそう」だと菅さんは言います。

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「新キャンパスの壁面は、ワイヤーメッシュで囲まれていますよね。あれは一般的に、床のコンクリートに埋まっている材料なんです。現場でたまたま余っていたワイヤーメッシュがいい感じに錆びているのを見つけて、そこで、『あれを壁面に貼ってみるのはいかがでしょう?』と黒崎さんに聞いたところ、いいねと。それであのように壁面に錆びたワイヤーメッシュを貼ることになったんです。黒崎さん自身がカッコイイものを作っていこうとする意識が高いから、できることですよね。貼る際にワイヤーメッシュの重ね方をデザインして、いろんな表情の格子が生まれるようにしています」

一般的な建て方とオリジナルの建て方の間を取る

自由大学のキャンパスをはじめとしたCOMMUNE 246の建物は、まさに”自由”につくられた結晶。とはいえ、建築士は士業。法規を遵守した建築をしなければいけません。その点、菅さんに苦労があったのではないかと質問をしました。すると、建築士の担う士業の範疇について新たな視点を教えてくれました。

「法律はもちろん守ります。役所に通って、建築許可の申請をするんですね。一般的には、役所の審査が通るように申請するのが基本ですが、役所の担当の方もはっきり決められていること以外の判断を独断で答えることはできない。法律にはこう書かれているから、こうつくる分には問題がないんじゃないかといった判断を建築士として担うことができるんです。それはコミュニケーションの取り方の話なんですが、何度も通って経験を積み重ねていく中で、できることできないこと、許可をもらえる話し方がわかっていったんです」

役所の担当者が可否を下せる領域と、建築士が事前に判断できる領域があり、またどちらとも付かない中間領域がある。その中間領域を役所の担当者に聞いても、独断できることじゃない。建築士として、ハンドリングの腕が試される部分がこの中間領域なのだそう。

設計事務所に勤めている時から、もう10年以上、建築業界で働いてきた菅さんにとっても、この領域での仕事は初めての経験でした。

「街の開発のような大きなプロジェクトに関わっている方々が体験しているこのような経験を、街場の建築で実践できていることに面白さを感じています。建築に関する法律は、時代とともに更新されていくものなので、その運用や判断をする人たちの考えと、ぼくが担当する建築が実現したいこととの間をとる感じですね。だから、建築デザインをしているというよりは、エンジニアリングをディレクションしている面が強いように感じています」

建物づくりからまちづくりへ。フィールドは広がる

一般的な建築とは異なる、自由でダイナミックなつくりかたを実践したCOMMUNE 246。みどり荘をはじめ、そんなインタラクティブな建築を知ってしまった菅さんは、今後、どんな活動をしていきたいのでしょうか。最後に、菅さんの描く建築士としての未来について伺いました。

「今のぼくは、単体の建築にはあんまり意識が向いていないんです。それよりも、建築とソーシャルデザインと言いますか。例えば今、岐阜で里山づくりのプロジェクトに携わっていたりするんですね。そのプロジェクトの中でも、エンジニアリングをディレクションする立場で働いています。そのような形で、いろんな人たちが思い描く理想像を実現する方向性を一緒に考える仕事を、今年はやっていこうと思っているんです」

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建築物は建てておしまいではない。使う人たちがいて、はじめて完成していく。だからこそ、つくりたいアイデアがある人とつかう人たちの間に立って、「場」を構築していく。それが菅さんの掲げるこれからの仕事のあり方のようです。

COMMUNE 246が建って半年以上が経ちました。自由大学キャンパスの他、みどり荘2やBARAT SPICE LABのような飲食店が集まるCOMMUNE 246は、これからも多くの人が集うコミューンとして、日々、進化を遂げていきます。そんなコミュニティが生まれる背景には、既存の概念を超えた建築の挑戦がありました。常識にとらわれずに、面白いと思える好奇心の向くほうに進む。学びも仕事も、自分の踏み出す一歩から道が拓かれる。あなたも、自分の好奇心にそった一歩を踏み出してみませんか?

(インタビューした卒業生: #新井優佑

【関連サイト】
COMMUNE 246



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