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誰でも参加できる自由大学の講義づくり【その2】

講義化ミーティング編  田中稔彦さん「自由に走るための航海デザイン術」×自由大学クリエイティブチーム

自由大学の新講義ができるまでを追う企画、2回目はミーティング編。前回のレポートでお伝えしたレクチャープランニングコンテストで発表した講義テーマについて、企画者と自由大学クリエイティブチームが話し合い、講義化の作業が進められます。講義リリースに向け、何が話し合われ、焦点になるのか、会議にお邪魔してレポートしました。

参加者は企画者の田中さん、自由大学学長岡島さん、クリエイティブチーム岩井さんです。自由大学は、“学びのキュレーター”が、講義企画の内容を議論しながら様々な方向性を探っていきます。今回は、クリエイティブチームの2名がキュレーターとして、教授候補の田中さんと意見を交わします。

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帆船航海をキュレーションし、どのように体験をデザインするのか
帆船で海を航海するというのは、多くの人にとって初体験、それだけでも十分魅力ある内容です。しかしそこは自由大学、学長の岡島さんから、航海を企画して実行するアクティビティだけではない、学びの初期設定を何にするべきか、という意見が出ました。

「帆船に乗って航海するということは、そもそもどういう事なのかというところから考えたいですね。自由大学は経験から学ぶことを核にしています。ただ『レアな体験をしました、面白かった』だけではなく、初対面の他人と協力しないと実行できない帆船航海の活動を通して、普段の仕事とは違う人との距離感や関係性に気づけると良いですね。組織のあり方、動かし方について学ぶことができそうです。

自由大学では、ピラミッド型のヒエラルキーではなく、構成員が各自フラットな立場で役割を分担するホラクラシー型の組織に注目しています。この講義でも、ひとつの目的に向かい、チームとして学習し、成長し続ける組織のあり方を柱にすることは可能でしょうか。例えばそういうメッセージが根底にあって 海の体験がのってくるといいですね。」

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それに対し、田中さんはそういったホラクラシー組織論を検証する場としては、帆船航海はあまりふさわしくないのではという意見。一般に航海に必要な乗務員の組織は、船長を最高責任者にトップダウンな縦割りで構成されているからです。ただ、活動の中でも自分の立ち位置、役割やコミュニケーションのパターンなどを検証することは取り入れてみたいということでした。

「航海をフラットなロール分担で実行するのは難しいですが、航海の後でフィードバックの時に組織論の話を入れるというのはありますね。ある事例がどういう流れで起こったのか、この一言で場の空気が変わったとか、この行為で結果が変わったということを振り返り、体験した航海がチームのあり方から考えてどうだったか検証するのは面白いですね。 でも、あまり組織論によりすぎるのはどうかなと思う。初対面の人と帆船と向き合い、自分たちの物語を作りましょう、くらいならありですね。偶然集まった人と協力してひとつの航海を作るにはどうしたらいいだろう?そういう感じでスタートしたいと思います。」

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クリエイティブチームの岩井さんは、ほぼ全員が初心者しかも初対面というところから航海の企画を立て、具体的なアクションに育てていくプロセスが、この講義の面白い点だと指摘しました。

「その体験後のフィードバックが、初体験の状況で、自分がどう行動するか、どうコミュニケーションをとるのかということを検証する場になるといいと思います。航海というミッションをもった組織の中で自分がどういうロールを演じるか、どういう役割を果たせるか、そこに観察と発見があると、他にない経験になるような予感がします。
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うまくいかなかったことこそ、深い学びに結びつく

田中さんは体験からの学びのポイントとして航海の不確実性をあげました。海を相手にすると、どの航海にも新しい発見があり、同じ船でも学ぶことは毎回違うもの。こういった自然相手の活動には、天候や海のコンディション、乗組員のメンバーによっても大きな違いがでる、いくら精度の高い計画を立てても、条件が一つ変わるとうまくいかないことの方が多いのだといいます。

「天気がよくてもいい航海にならないこともあれば、悪天でも鮮烈な体験を持って帰ってもらうこともある。自然が相手ですから、うまくいかないことが多く、うまくいかないことの方が体験として面白いし、記憶にも残ります。当日の風向きとか天気で思うようにならない、そういうことも含めて、アイデアから航海計画を起こし、それを実行するという一連の流れを実感していただきたいんです。」

海という大自然と向き合うこと、計画を立てても予想通りいかないということも良い経験になると、岡島さん、岩井さんも大きく同意。

「みんなで考え抜いて100のプランを立てても、現実には10しか実現できないこともある、でもどうしてそうなったか、リカバリーはどうするか、考えながらチャレンジする面白さに気づいてもらえるといいですね。」

座学、航海体験に終わらない、フィードバックは毎回重要
田中さんの計画では、5回の講義の後半2回をフィールドワークにあて、天候が悪かった時に振り返られるように、予定の海のある現地で土日の連続でにしたいという希望、航海日の翌日に予備日がないと海に出られない可能性があるからです。田中さんから提案された講義プランは以下のようになりました

【第一回講義】
・海と船に関する話として海図を基に航海予定海域のイメージをもってもらう、必要最低限の情報提供、危険に対する注意喚起。 ・参加者の自己紹介とプランの提案、参加者のプランの擦り合わせ

【第二回】
・田中さんたちの航海が、これまでどういうところから着想を得て企画に落とし込んだのかの実例を説明する。例えばゲーム、シェリー酒、沼津のおいしい魚とか、海を通してその地域を知るなど。具体例を示し、参考にしてもらう。 ・事例からの質疑応答を通して、航海チームと受講者でコミュニケーションをとる。 ・その後、相談しながら航海テーマを1つか2つにしぼりこみ。(時間が足りなければ分科会をしてもいいし、メールとかSNSを使ってすり合わせ)

【第三回】
・受講者による航海プランの作成。企画会議にあてるか、ゲストトーク

【第四回 第五回】
・実際の航海を行う、終了後フィードバック 具体的な内容については、自由大学からの要望はとくになかったようですが、岡島さんから講義の進行について意見がありました。

「初めての人同士だと、意見がまとまりにくいかもしれないので、参加者がお互いに打ち解けて主体的になるきっかけをづくりが必要です。自由大学の講義では、教授(講義をする人、今回は田中さんですね)の他に、講義づくりのサポートをしたり、講義当日に受講生をまとめたり、ワークショップのお手伝いをするキュレーターを立てます。キュレーターがファシリテーションをして発言しやすい環境を整えたりと、少し工夫が必要かもしれませんね。今回の講義キュレーターですが、航海の安全性を考えたら、必ずしもこうしたスクーリングとかワークショップに通じていなくても、帆船を知っていて、海に慣れた方がいいですね。」

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この後、岡島学長の意見を参考にしてキュレーターを決め、受講生の海上の安全を優先したいという判断でした。もちろん、キュレーター以外にも、5人に1人くらいの割合で航海クルーがつき、航海に参加するメンバーをサポートをするというところで合意していました。 最後に田中さんは、この講義をする目的として意見を述べました。

「この講義に参加する人には、初対面の人と協力して、海に出る体験をしてもらいたいんです。事業としてやっているときは、お客さんなのでプログラムを詰め込みますけれど、講義では、みなさんのやりたいことをやってもらいたい。帆船関係者じゃない人のアイデアが知りたい。そんなことを考えるんだなということをやってみてほしいですね。」

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…いかがでしたか?どんなテーマの講義でも、企画者とクリエイティブチームがこんな相談を数回重ねながら、プログラムを組み立てていきます。具体的な内容に入る前に受講者が講義テーマから何を学べるのかを明確にし、自由大学らしい「経験からの学び」をキュレーションしていくんですね。田中さんは「教授」として講師を担当しますが、この後教授をサポートするキュレーターが決定し、具体的な内容に組んでいきます。この講義はこの後もブラッシュアップがすすめられ、この秋リリース予定ですので、お楽しみに。

(テキスト・構成・写真:ORDINARY



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