日本各地の魅力ある土地で、その個性を活かしたオンリーワンの小さな宿をつくる実践講義です。新築のほか、空家や古民家などの遊休不動産を活用して、遠方からでもわざわざ足を運びたくなる宿づくりのノウハウを学びます。
宿づくりを通じて新しい旅のスタイルを提案し、地域と積極的に関わりながら、自分の暮らしと仕事をセルフプロデュースする――― 本講義を通じてそんな生き方を探ってみてください。
地域とつながり、人生の選択肢をひろげる「宿づくり」
場所を選ばない働き方、暮らし方が急速に広まり、移住や二拠点暮らし、ワーケーションなど、それぞれの価値観に合わせた様々なワーク&ライフスタイルが登場しています。パンデミックを経て、都市部以外の自然豊かな場所に新しい拠点を持つなど、自分自身の人生の新たな可能性を模索している人も少なくないでしょう。そんな中、本講義では自分の好きな場所で小さな宿を運営しながら、その土地の魅力を発信する担い手となる新しい地域とのつながり方、そこからはじまる人生の選択肢を広げる生き方を学びます。
「あさぎや みたけ」からすぐのところにある多摩川渓流。新しい環境に身を置くことで様々な発見と出会いが生まれる。
今、注目を集める宿のスタイル「一棟貸し」
小さな宿といっても様々なスタイルがありますが、本講義では比較的オペレーションがシンプルで初心者にも取り組みやすく、日本でも急速にその人気が高まりつつある「一棟貸し」の宿をモデルケースとして取り上げます。その背景には近年のAirbnbの上陸や民泊解禁などの環境整備が進んだことに加え、従来の観光とは異なる、その土地の等身大の暮らしを体験する旅のスタイルが注目を集めていること、テレワークの普及による長期滞在型の旅ニーズの高まりなどがあります。またオーナーの立場で考えると、二拠点生活のひとつの拠点として自己利用しながら、自分が不在の期間を貸し出すといったハイブリッドな利用なども考えられるでしょう。このように、いろいろな意味で旅とライフスタイルの可能性を広げられるのが、一棟貸しの魅力といえます。
一方、基本としてミニマムな「一棟貸し」の運営を学べば、ゲストハウスや室数の多い大きな宿への応用も可能です。
「あさぎや 高山」の室内。古民家の魅力を残しながら、水回りなどを中心に、使いやすくシンプルなデザインにリノベーションした。
宿づくりと運営の実践的な内容を学ぶ
実際に宿をひらくとなれば、その領域は多岐にわたります。物件を探して購入ないし賃借し、リノベーションや内装工事をして家具などの設えを整える。また運営にあたっては予約管理や清掃のオペレーションを整備することも必要です。これらは必ずしもすべてを自分で行う必要はなく、専門家や業者に委託をしたり、スタッフを雇用して対応することも可能ですが、その相談や依頼のためにも基本的な知識と収支を含めた全体像を理解しておくことが不可欠です。
本講義では宿泊業界での長いキャリアを持ち、自ら岐阜県高山市と東京都青梅市御岳で「一棟貸し」の宿の運営を手がける伊藤理恵さんを教授に迎え、コンセプトの策定から開業準備、集客、運営、地域連携の手法までをトータルに学びます。なお一部講義には専門家をゲストに招き、その知見をシェアしていただくと共に、受講者の皆さんとの交流の機会を提供します。
間取りを見て居室の使い方を考えたり、その土地の資源を掘り起こしたり、宿づくりのヒントを得るために日頃からアンテナを張っておく。
大切なのは何をしたいのかということ
さて、あなたが宿を始めたい理由はなんですか?
「この土地の魅力を伝えたい」、「歴史ある建物を再生させたい」、「得意料理でおもてなしをしたい」などでしょうか? この理由にひとつの正解はありませんが、 宿づくりを通じて何を実現させたいのか、 言い換えればコンセプトを明確にしておくことは非常に重要です。なぜならどんな空間でどのような体験を提供するか、地域との関わり方をどうつくるのか、これらはすべてコンセプトによって決まるものだからです。そしてこのコンセプトに表れるオーナーの思いや価値観こそが、大資本の最大公約数的なサービスを提供するホテルにはない、小さな宿ならではの武器になります。
本講義ではレクチャーと並行して、各自が宿づくりの簡易の企画書である「宿プランニングシート」の作成にも取り組みます。夢のあるコンセプトと具体的なノウハウの両輪で、宿づくりを具現化するための機会にしていきましょう。
〈伊藤教授からのメッセージ〉
小さな宿には、大きな可能性がつまっている
パンデミック以降は特に、この世の中で住まい方、働き方に対する価値観が変わってきました。自分の住んでいる土地を深く知るようになったり、少し自然と関わるような住まいを考えたり、会社だけではない人との関係性について、しいては生き方まで考えるきっかけになりました。
またオリンピックが終わり、大規模観光が終焉を迎え、個々のライフスタイルが尊重される時代の変化に伴い、旅のスタイルも変わりつつあります。ただ観光地を回るのではなく、その地域の人々の暮らしや風土や食べ物をそこで生活するように体感したり、第二のふるさととして同じ場所を何度も訪れるなど、よりその地域を深く味わうことの価値が高まっています。
私は長年「旅をすることで感じる豊かな感覚を提供する」というテーマでホテルの企画や設計を行ってまいりました。そして2020年2月からは飛騨高山に一棟貸しの宿をひらき、試行錯誤をしながらも、宿の運営とそこから生まれた地域との関わりに楽しさとやりがいを感じています。
空き家の問題、木造の可能性、地域の活性化など、今まで私自身が建築・インテリア・ホテル会社での開発の仕事を通じて培ってきたノウハウを皆さんとシェアしていくこの講義。旅のスタイル、今の住まいだけでない地域との関わり方、有効資源を活用した宿づくり、そこからはじまる第二のふるさとのつくり方などについて学べるはずです。
例えば、好きな地域にある古民家を再生するのに、自分が住むだけでなくお客様をお迎えし、まだ知られていないその土地の魅力を伝えることができたら、地域との関わりをもっと深めることができるでしょう。小さな宿にはそんな可能性があるのです。
新しい旅と宿のかたち、地域とのつながり方の可能性を一緒に探りませんか。
(第1期募集開始日:2022年5月23日)
講義の進め方
・1~3日目はレクチャー形式、4、5日目は飛騨高山でのフィールドワーク(一部レクチャーあり)、6日目は受講者によるプレゼンテーション中心の内容となります。
・各回のホームワークは、15分ほどでできる内容に取り組んでいただきます。
・その他最終回までに、各自の宿プラン(妄想でもOK)を簡易の企画書である「宿プランニングシート」にまとめていただきます。空欄のフォーマット(A3一枚)を初回の講義にて配布をします。
・講義内の情報共有・連絡ツールとしてPinterestとFacebook メッセンジャーを使用しますので、予めアカウントの登録をお願いします。