住宅とは ~いい住宅の要件を学ぶ~
優れたデザインには、見た目の美しさとともに、目には見えない「意図」が存在しています。いくつかの住宅建築の事例を扱い、その設計の背景にある意図を紐解き、いい住まいとはどのようなものなのかを学んでいきます。
新講義
本質的な豊かさから住空間を再編集しよう
人生で最も多くを過ごすのは、自宅。
生き方を変えるために住宅建築を学ぼう<今回は賃貸編>
生きているうち最も多くを過ごすのは自宅です。仮に1日9時間、残りの人生を70年間とすると、あと23万時間にのぼります。
「住む」と訳す “Live” の本来的な意味は「生きる」です。そこに「(ある場所で) 生きる」という場所の要素が加わると、「住む」の訳になります。住むとは、生きることなのです。
この講義では、住宅建築を学びながら、私たちが人生の最も多くを過ごしている「自宅」を見直していきます。それは目に見える意匠などの物質的な部分だけを考えるのではなく、自分が毎日や人生に求めていることは何なのかといった、自分の内にある目に見えない部分から考えていくプロセス。この講義で目指したいのは、自分らしい住まいをデザインし、生き方を変えていくことです。
新講義となる今回は、制約の多い「賃貸住宅」に住む人たちに向けた講義にしたいと思います。
幸せに生きている人は、「住む」を大切にしている
北欧やポートランドなど、Well-Beingなライフスタイルが注目される地域では、「住」が共通して大切にされています。自分らしい住居に暮らし、自分のための時間や、家族や友人との時間を過ごす。家の外で消費するだけでなく、家の中にある幸せを感じたり、家の中に幸せをつくることに価値を置いています。
あるポートランダーのお宅に訪問し、お話を伺った際の言葉です。
「私たちは毎日、多くの時間をそこで過ごしている。気づかなくても、よくも悪くも、毎日何かしらの影響を受けているわ。家からも、そこに置かれているモノからも。それに、家は外でがんばるための基地になる場所でもある。そこを幸せな場所にしないのはなぜ?」
そう、私たちは建築から気づかずとも影響を受けながら生活しています。例えば、大聖堂で厳粛な気持ちになる。そこで大喧嘩をしようという気持ちにはなりにくそうですよね。では、自宅は何を感じられる場所になっているか?ということなのです。
日本でも、フリーランスや、会社員でも在宅ワークの一般化、長時間労働の見なおしにより、働き方の変化が進んでいます。今後、私たちが自宅で過ごす時間は増えていくことになります。自分の家という場から受ける影響は、より大きなものになっていくといえるかもしれません。
住宅建築を身近なものにしたい
しかし、住まいをよりよくするとはどういうことなのでしょうか。北欧では建築や住環境など「住教育」が義務教育に取り入れられている国があるなど、住宅建築について学ぶということは身近なことのようです。一方、日本では、建築に携わる専門家の学問として扱われています。
しかし、住宅はあらゆる人たちが住み、使う、暮らしのための道具です。道具について詳しく知ることは、使い手にとっても大事なことです。つまり、住宅建築について学ぶことは、私たちみんなの問題だということです。
建築家が設計する住宅は、そこに暮らす人を知り、土地を知り、意図をもってデザインされます。住宅建築について学んでいくと、それは私たちの「自分らしさ」が誰ひとりとして同じでないように、住宅も多様だとわかります。そして、純粋におもしろい!
賃貸住まいだからこそ、自分が学び、よりよくする
賃貸住宅のほとんどは、「似たような間取り」と「原状復旧」の制約に縛られ、前提として「妥協」が伴いやすい環境があります。「ここがいい」より、「ここでいい」という選択になりがちです。
そして、マンションや戸建住宅を購入するとなったときに、はじめて住まいづくりについて情報収集し、浅い知識で生涯最大の買い物をするのは、とてももったいないことです。
実際には、賃貸住宅も購入と同様に大きな金額を払っていますし、賃貸住宅でも自分次第でよりよくしていけます。そして、自分が主体となってやるしかありません。
ポートランドには「Place Making」という言葉があります。「場づくり」です。「全米で最も住みたい街」に選ばれてきた街で、楽しく、自分らしくいられる「場」が、この街の人たちによってあらゆるところに創造されているのです。そのもっとも身近な場づくりが「自宅」です。制約があったとしても、もっとも自由にクリエイティビティを発揮しやすい場所です!
この画像は教授 藤木さんの自宅。賃貸マンションですが、工夫とリノベーションによって自分らしい暮らしの場所になっています。※詳しくはこちらの記事に記載されています。
《どのように学ぶのか?》
「建築」と「コーチング」を融合
2つの領域の専門家がコラボレーションし、この講義を担当します。住宅を建築デザインの視点から学んでいくために、施主に寄り添った住宅建築を手掛ける建築家である藤木さん(左)が学びをサポートします。そして、自分らしい住宅デザインの中心には、「自分はどうあり、どう暮らしたいか?」がなくてはなりません。それはつまり、自分を知ることが不可欠ということです。この住宅設計とリンクした自己探求のためのコーチングを開発した村上さん(左)がサポートします。
プログラムデザインとファシリテーション
組織変革や研修などの学びのプログラムのデザインと、ファシリテーションを専門とする村上が、講義全体をディレクションします。知識伝達ではなく、住まいや暮らしにポジティブな変化が起きていくことを意図した体験学習としていきます。
コミュニティラーニング
受講者同士も、教授も、相互にサポートし学び合う場、関係性をはぐくんでいきたいと思います。ワークをともに取り組んでいただいたり、卒業後も気の合う仲間とのつながりを学びの深化につなげていただきたいと思います。
(第1期募集開始日 12月22日)
第1回
優れたデザインには、見た目の美しさとともに、目には見えない「意図」が存在しています。いくつかの住宅建築の事例を扱い、その設計の背景にある意図を紐解き、いい住まいとはどのようなものなのかを学んでいきます。
第2回
DIY(Do It Yourself)で自宅をアレンジすることができれば、自分の求める住環境の実現性が高まります。賃貸住宅ではDIYの制約が大きいと思われていますが、実はそうとも限りません。「大家さん・管理会社」の視点で考え、コミュニケーションする手段を知れば、その幅は大きく広がります。
第3回
賃貸住宅で自分らしい住まいで暮らしているお宅を訪問し、肌で体感してみましょう。そして、川崎市中原区のDIY基地「中原工房」を訪問しましょう。ちょっとハードルが高いプロツールを使ったDIYも、一度足を踏み入れることで身近なものにしていけます。
第4回
自分はどんな人で、何を大切にしているのか?それがあって、自分が暮らしや住まいに求めるものが見えてきます。自分に問いかけ、自分に気づいていくためのワークをしましょう。
第5回
エスキスとは「下絵」の意味で、建築学生の学習方法として、ある設計課題に対して初期段階でのコンセプトやプランを提案し、教官や学生同士で議論し合う際に用いられます。この講義では「自分の家」を題材にエスキスを行い、学び合いながら互いの住まいプランをよりよいものにしていきましょう。
第6回
これから自分が住もうと考える住まいを、各自がプレゼンテーションします。素晴らしいプレゼンをすることが目的ではなく、自分の住まいを実際に変えていくために、自分の求めるものを具体化することが目的。ここに至るまでにも、オンラインでの教授・受講者同士での情報共有や対話による相互サポートをしましょう。講義を終えて、春には住まいに変化が起きているかも。