自分のトランスフォーメーションを引き起こすために「穴」をくぐろう
こんにちは、教授のロディオンです。
「穴」というものを考えたことがありますか?
いいえ、私が訊きたいのは、考え方自体の中の穴、この社会的「常識」にある穴、固執したアイデンティティの中の穴を探したことがありますか?ということです。
童話『不思議の国のアリス』で、アリスは白ウサギに導かれて、夢の世界に落ちます。神秘的な経験を取り上げる人類学者の論文を読む時に、不思議な世界に導く「穴」の話はよく出てきますが、これは典型例です。
「穴」は、現実とファンタジーを分けるからくりとして説明されます。2つの世界の境界線を示す敷居のようなものです。そこへもぐり込むことができれば、向こう側にはワンダーランドがある。
ここで私が疑わしく思うのは、「なぜこちら側がリアリティで、向こう側は夢だと言いきれるのか?」ということです。逆に、こちらがファンタジーで、向こう側が現実ではないだろうか……そうだ、Neoを導く白ウサギに従うことにしよう。
今、私がいるこのマトリックスの出口になりうる穴へ。
真実を掴んで、不快を乗り越え、自由を得るためには、穴を把握する必要があります。外の、物質的な次元のもの(社会的地位、金、モノ)はいくらあっても、「足る」ことはありません。満たしてくれるものを見つけるためには、「物質を越えた次元」に踏み込んでみる必要があります。
四つの漢字の「開いた口」を示す部首を合わせて、穴の回りに構成されている「吾唯足知」を伝える龍安寺の蹲踞。
穴を知るための5ステップ
まず、精神分析に目を向け、私たちが今おかれているシステムへの理解を深めます。フロイトとラカンの精神分析理論を取り上げて、目に見える「リアリティ」はどういう風に構成されているのか。「私/自我」はどうやって構築されているのか。私のマインドはどのような働きをするのかを考えてみましょう。
George Galanakis, Torus, 2019
次は美術です。原始人が洞窟に絵を描いたことが示すように、人類の最初のステップから、すでに美術はそばにありました。洞窟という「穴」で生まれたこの現象は、「常識」に裂け目を与えます。この美術が開く穴を眺めて、具体的な例を観察しましょう。構成と機能を分析しながら、美術が開く穴を見つける方法を身につける練習をします。
菊池遼/Ryo Kikuchi, Idea #5(Chauvet), acrylic on panel, 89×89×3cm, 2017
3ステップ目では視覚的な次元から、目に見えない、もっと複雑な「聴覚」の次元に移動します。テクノに隠された穴を探してみます。現在でもナイトクラブが洞窟の形をとっているのは偶然ではありません。日常/常識/思考に隙間を導入する空間としての役割をもっているのです。
東京を代表するテクノ洞窟VENT
続いて、ヒマラヤなどの洞窟を修行空間とする「瞑想」を一緒に体験します。世界のピクチャから出て、そのピクチャの中に自分を見る。このための道を示す技法の性質を掴んでみましょう。洞窟が、世界に開きを与える「美術・瞑想・テクノ」などの現象の母胎となっていることは偶然ではありません。私たち人間はみな、内的な洞窟を持っているからです。
最後に、実際の洞窟に降りてみましょう。一連の講義で、さまざまな側面から穴の入口を探ってきました。関東にある洞窟の一つでケイビング(洞窟探検)を体験し、文明の起源にもどって自分をリセットし、自身の「穴」との関係をつくった上で、新しい人生をスタートしてみましょう。
既存の枠組みからズレてみよう
「穴学」(あながく)は、学校のカリキュラムや本屋さんの本棚のカテゴリーに従わないということだけではなく、ちょうどその格子自体を再考させようとしています。
この講義は、美術からテクノ、瞑想まで交差していない領域の総合体で、首尾一貫性がないように見えるかもしれません。ですが、実際には共通点があります。それを理解するためには、視点を変える必要があります。講義で取り上げる各レイヤーをつなぐものは、実証主義的、つまり「ある」という次元ではなく、「ない」という世界に属するものです。それは、無/空、穴という共通点です。穴を操作できれば、以前気づかなかったいろんなリンクが見えてくるし、 リアリティが再構築され、違う風に見えてくるはず。
講義の特徴は、未知の体験を通して、身心変容を引き起こすこと
この講義は、「知識」や「情報」を与えるものではありません。私が伝えたい内容と講義の形式によって、身心変容、メタモルフォーゼを引き起こすシーケンスに誘いたいと思います。
講義で語るのは知識というより、仏教の用語を使えば「表面を持たない鏡」。つまりイメージで騙すのではなく、実際の姿を見せる装置になりうるものを皆さんとシェアしたいと思っています。
講義の構成自体は、1,2,3,4,5というリズムを刻みながら、変身の段階を重ねていくパッサージュを渡るために穴の形をとっています。つまり、入った私と出る私は違う、ということになれば成功です。
アルキメデスは「足場を与えてくれ、そうすれば地球すら動かして見せよう」と言っていました。裏を返せば、自分の地球/世界を動かすためには、その世界に対する外の足場/視点が必要だということです。足場がない場合は自分の現実(思い込み、人生のストーリー、ビジネス状況)から出られませんが、もしその中に穴を見つけられれば足場として使えるでしょう。
Philippe Crochet、Edger 洞窟、トルコ
なぜいま、われわれに「精神的な発展」が必要なのか
第一、スピリチュアルティーチャー Ram Dass は、「文化自体は発展していく」と言いました。今日の人間の精神的なレベルが、中世期より発達していると言えるならば、これからの精神的な発展が今後どうなるのか考えるのは当然のことです。
第二の理由に、スピリチュアルティーチャー Sadghuru の言葉があります。
「世界の今の状況を根本的に変えるために何をやればいいのか?」という質問に対して、Sadghuruは「世界の政治的なリーダー10人をひと部屋に集めて、一緒に1週間過ごさせてくれ」と答えました。世界のトップ10の指導者にヨーガをやらせるための時間を持たせよ、という意味です。私が今まで聞いた戦略の中で、このSadghuruの提案は一番実用的かつ効果的であるに違いないと考えています。
第三、スピリチュアルティーチャー Geshe Michael Roach は、チベットで10年以上勉強した後、マルチミリオン規模の大企業の設立に関わりました。「金剛般若経」に基づいてビジネスにおいてどうカルマを使うか教え、『ダイモンドの知恵』という本を記し世界的な注目を集めました。彼はYouTubeのビデオの1つで、モスクワの巨大企業に勤める3千人の社員に『ダイモンドの知恵』を読ませて、「仕事/人生をカルマの理解に基づいて動くと良い」と勧めています。つまり、世界のビジネスはファイナンスやマーケットの次元だけではなく、「カルマ」の次元で競争しているということです。
私が伝えたいのは、世界の最先端企業が、仏教の教えやカルマの次元を日常的に使っているのならば、われわれ個人が自分の自由と幸せのために「見えない世界」を活用するのは決しておかしなことではないだろう、ということです。
地球上に逃げるところがなく、地球から逃げる方法もない現在。この講義で扱う「内的な穴」に踏み込むことは、世界の次のステップだと言えるのではないでしょうか。
後藤聡、双河洞、中国貴州 https://www.facebook.com/GotoSatoshiPhotography/
トップ写真提供:Peter Gedei, Krizna jama, Slovenia http://www.petergedei.com/
プログラム協力:ENTOMORODIA curatorial net/work
(第3期募集開始日:2020年3月23日(月))